見出し画像

中国華南を起源とする言語

 戦前、台湾の客家人は広東人、客家語は広東語と呼ばれていた。客家という名称が広まるのは中国でも1930代以後のことのようだから、そういうことも関係しているのであろう。それで台湾の言語に興味を持ち始めた日本人には広東語と客家語というのはかなり近い関係にあるのだろうか?という疑問が出てくる。僕自身の印象だと、確かに一部分はお互いに似たような発音もあるけれど、全体的には台湾語や中国閩南語に近い感じがする。華語(共通中国語)に似ている部分もある。僕自身が学習したり、交友関係、家族関係などでちょっと接したことのある言語同士を例に挙げて比べてみよう。(長い時間かけて、今でも学習している言語は台湾語だけ、客家語と潮州語は過去にこれらの言語を話すインドネシア華人との付き合いが多かったし、当時の彼女がインドネシア華人だったので、少し学んだ。広東語は以前、香港人とマカオ人との付き合いの中でほんのちょっとかじったことがある。福州語は亡き義父の母語であった)

 私は日本人です。→グワシジップンラン(台湾語)→ンガイヘイニップンニン(客家語)→ンゴーハイヤップンヤン(広東語)→ワーシジップンナン(潮州語)→ングアイシェッニップォンノイン(福州語)。

 どこ行くんですか?→リィベッキィトッ?/リィベッキィトーウイ?(台湾語)→ニィオイ匕ィナイ?/ニィオイ匕ィナイヴィー?(客家語)→レイホイピントォ?(広東語)→ルクティコ?/ルアイクティーカイティーフン?(潮州語)→ニュポッコォティエノェ?(福州語)。僕の耳にはこんなふうに聞こえる。

 潮州語のル(あなた)の発音はルとレの中間みたいな曖昧な音。台湾語ではリィ(あなた)になる。潮州語のアイ(〜したい)は台湾語ではベッ又はボエッになる。

 台湾語の私=ゴア/グア(goa)は潮州語ではワー(ua)になる。彼/彼女は台湾語も潮州語もイ(伊)。

1,2,3,4,5,6,7,8,9,10→チッ、ヌン、サァ、シィ、ゴォ、ラッ、チッ、ポエッ/ペッ、カウ、ツァッ(台湾語)→ツェッ、ノォ、サァ、シィ、ゴォウ、ラッ、ツェッ、ポッ、カウ、ツァッ(潮州語)…お互いかなり似ている。

客家語(台湾客家四縣語)では、1,2,3,4,5,6,7,8,9,10→イッ、ニィ、サム、シィ、ン、リョッ、チッ、パッ、キウ、スッ。台湾語では数字の文語音もあり、年号を読む時などに使われるが、文語音だと、1,2,3,4,5,6,7,8,9,10→イッ、ジィ、サム、スゥ、ンゴォ、リョッ、チッ、パッ、キウ、シッ。客家語によく似ている。

豬肉→ティーバァッ(台湾語)、トゥバァッ(潮州語/台湾のある地方ではこの発音をする人達もいる)、ツゥニョッ(客家語)。

雞肉→ケェバァッ/コェバァッ(台湾語)、コイバァッ(潮州語)、キィェニョッ(客家語)。

牛肉→グゥバァッ(台湾語)、グゥバァッ(潮州語)、ニュウニョッ(客家語)。

久しぶり!→チョックウボーコアティオリィ!(台湾語)→ヒョックウボートイティオッルー!(潮州語)。

 昔、台北市内に住む潮州語を話すインドネシア華人の友人、知人が多かった頃、台湾語と潮州語との混乱が度々あり、台湾人に対してうっかり潮州語で挨拶してしまうこともあった。

 インドネシア華人が話していた潮州語の発音は台湾語より促音(入声音)がきつく感じられた。台湾語だと前後の関係で前の部分の促音が弱まったりするが、彼らの潮州語ではそういうことはないようだった。あんな強い促音ばかりで、喉が疲れないのかな?と思ったこともある。

 そう言えば、50年以上前の小学生が社会の授業で使う世界地図帳の中の中国地図の地名で廈門はアモイ、汕頭はスワトウになっていて、ずっと記憶に残っていた。これらは閩南語系の方言で発音された地名の英語表記が日本に入って、それを日本語仮名読みにした地名であり、語源は閩南語系の方言と言える。だから僕が人生で初めて接した閩南語というのはこのアモイとスワトウだ。

 中国の地名の日本での言い方が現在の華語(共通中国語)の発音と大きく異なる場合が多い。例えばペキンとかナンキン、ホンコンなどだ。これは大昔の地方語の発音や北京語の発音が外国人によって英語などのヨーロッパの言語の表記が作られ、それを日本人が日本語仮名発音で読んだものが定着したからだ。

 ペキンという発音は17世紀頃の北京語の発音がヨーロッパに伝わり、それが日本語に入ったようだ。ホンコンは広東語から英語に入り、それが日本語に取り入れられたのだろう。現代のホンコンの人の発音を聞くと僕にはへオンコンのように聞こえる。

 台湾の地名では平地原住民(総称は平埔族。平地や丘で暮らしていた先住民)の言葉が台湾語化され、漢字で表記され、それがまた日本時代に日本語発音を元にした漢字表記にかえられ、さらに戦後、日本語漢字表記が国民党政権によって、華語(共通中国語)に変えられたケースも多い。また、そもそも地名の発音の語源があまりしられていないものもある。基隆がその代表だろう。日本語ではキールンと読まれるが、これは英語表記から入った言い方だ。でもその英語表記は何語を元にしたのかは僕自身もよく知らなかった。地名の由来に詳しい友人に尋ねると、基隆の広東語読みを聞いた欧米人がKeelungと綴ったものが世界的に使われ、それを日本人が日本語ローマ字読み風にキールンと読むことが定着したのだそうだ。たまたま基隆という漢字表記を台湾の客家語ローマ字表記で書くとKi lungになり、これも日本人的にはキールンと読んでしまうが、実際の発音はキィロン。台湾語読みではケェラン(またはコェラン:雞籠)になる。台湾語話者の台湾人は昔から今でも台湾語でケェラン(またはコェラン:雞籠)と呼んでいる。また、基隆という漢字表記は鶏籠が1875年に清朝政府によって基隆と改名されたそうだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?