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百英雄伝 クリア後の感想

 はじめに百英雄伝が世に出るに至った経緯とそれを支えたファンの方々に敬意を、そして無事に世に出たことに対する祝福を。このタイトルに関わった全ての方々のおかげで、楽しい時間を過ごすことが出来ました。
 そして最期に大きな仕事を遺された故・村山吉隆氏に哀悼の誠を捧げます。

総評

 おそらく制作された方々の意図の通りにPS1・2の時代のRPGを引っぱり出して来て遊んでいるような味わい。
 良い部分も悪い部分もたくさんあるので、総合すると"幕の内弁当"のようなタイトルと言える。
 からあげ弁当やとんかつ弁当のようにメインディッシュとなるものがないし、口に合わないおかずも入ってはいるが、ボリュームはあるので食べ終えたあとはそれなりに満足。


以下ネタバレにつき注意。



ストーリーについて

「帝国の悪い将軍が領土の拡大に乗り出し、それに対して主人公が周辺の小国をまとめて連合として立ち向かい~」というおなじみのストーリーラインが展開されます。
 良く言えば無難、悪く言えば凡庸な出来でした。
 後述しますが過去作、特に幻水2に思い入れがあって本作を遊ぶ方にとっては口に合わない可能性が高いです。

良かった点

 主人公の立ち位置が好きでした。幻水1,2における"反乱軍のリーダーとして仲間を率いる主人公"がリアリティに欠けていてあまり好きになれなかったのですが、今作ではそこが大きく変化しています。
 今作において帝国の野望に巻き込まれて故郷を失うのはその領主たるぺリエールであり、主人公は彼女に上手く使われるお飾りリーダーとして戦争に関わっていく形になります。

今作の物語における主役 やり手の領主様・ぺリエール

 ガラじゃないし戦わないと死ぬわけでもないけど、戦争になるなら無関係でいられるわけでもないしな~くらいのスタンスで気軽に巻き込まれていく主人公にはとても好感が持てました。
 "戦わないと死ぬわけでもない"という点はまた過去作との大きな違いの一つであり、今作の戦争にはあまり深刻さがありません。

主人公の村が焼かれるのはJRPGのお約束。どっこい村人は全員無事

 「最悪投降すればいいし」「ここがダメなら他所に行くか」くらいのノリでとにかく人が死なない点は本作における特色であり、戦争を扱ってはいますがかなり緩めの空気感で物語が進行します。
 個人的な経験として理解できるのですが、人間は一般的に歳を食うほどにしんどい話が辛くなっていくものなので(子供を持つと小さな子供がひどい目に遭うシーンがダメになったりするのがわかりやすい例)幻水2から20年以上が経過した今、ライターさんの心境が変化した結果こうなったことが推察できます。
 とはいえ終盤に差し掛かると急に人が死に始めるので違和感がありましたが…

 多分に語弊を含む"王道"という言葉をあえて使いますが、ベタな展開の中で起伏や緩急がしっかりしており、王道のRPGとしてしっかり楽しむことのできるストーリーに仕上がっていました。

好みでなかった点

 王道の裏返しとして物語の"テーマ"となるものが見当たらず、言ってしまえば遊び終えたあとは記憶に残らない薄味なストーリーなのが残念でした。
 幻水2が人の心に残り続けているのは「しんどい話でプレイヤーを曇らせたい」という確固たる意志を持って作られたストーリーが最大の理由なので、そんな部分をバッサリ捨ててしまった今作に幻水ファンが落胆する姿は想像に難くありません。

 また、おそらく今作の目玉となるはずだった"三人の主人公による群像劇"というコンセプトが完全に企画倒れになってしまっているのも惜しい点でした。
 本来は三つの視点からの戦争が描かれるはずだったのだと思いますが、中盤に差し掛かる頃にはすでに和解して共闘を始めることになるため、単なる別動隊なんですよね。
 別の主人公を操作するパートもありますが、パーティメンバーが強制的に切り替わる仕組みは色々と難しかったようでちょっと長めのイベント程度の尺になっており、あまり意義を感じられませんでした。

非常に既視感の強いワンシーン。でも中盤にはすっかり仲直り
第三勢力かと思いきや序盤からずっとフレンドリーなメリサ。別行動が多い問題児

 明らかに誰かさんそっくりなセイはともかくとして、メリサは人物像の掘り下げが不足しているため、最後までやたらスポットのあたる理由が感じられないキャラクターという印象のままでした。
 おそらくはいわゆる大人の事情で制作が間に合わなかったことが原因で、ふたりの物語は今後DLCによって補完されるそうなので、それをもって百英雄伝は完成系になるのかもしれません。楽しみですね。


戦闘について

 JRPGの華、それは戦闘。
 シンプルなターン制の良さは20年前のままですが、一方で歪なバランスも20年前のままなのが残念でした。

良かった点

 システム面で幻水1,2から変化した部分はオート戦闘くらいなのですが、それが非常によく出来ています。 

おおまかな行動を指定可能。完全にAIにおまかせでもそこそこ上手く戦ってくれる

 回復薬や蘇生薬、果ては使うと魔法の効果のあるアイテム(なんきょくのかぜやバッカスのさけのような)までゴールドで購入することができ、更にはAIもアイテムを使ってくれるので、しっかりと準備をすれば全滅することはほぼありません。
 HPが一定ラインを割ったら回復、自己強化をしてから殴る程度なら指定できるため、ゆるめのバランスと相まってボスもほとんどオート任せで突破することが可能な点がかなり好みでした。

範囲回復アイテムが無制限に買えるRPGは珍しいかも

 一方で連携技や地形ギミックなど手動でなければできない行動もあるため、自分で操作すればその分しっかり楽になる点もよく出来ていると思います。
 全体的に当時らしいシンプルな作りで、ターン制による殴り合いの醍醐味は十分に楽しめました。

小さなキャラがよく動く。眺めているだけで楽しい


良くなかった点

 幻水1,2と同じでキャラの能力の差がとにかく激しいです。ここはなんとかして欲しかった…
 あちらでの紋章にあたるルーンシステムである程度のカスタマイズはできるものの、その程度では補えない格差があるので、ゲーム自体が易しいとはいえ悲しみを背負わされたキャラを使っていくにはかなりの愛が必要です。

射程S(前衛にしか置けない)、固有技弱い、HP低いの三重苦を背負ったミオさん。
この強そうな見た目でなぜなのか…もっと悲惨なキャラもたくさんいます

 また、ルーンで習得できる技が弱く、基本的に各キャラに1つしかない固有技を最初から最後まで使い続けることになるため、序盤から終盤まで戦闘でやっていることがずっと同じになるのもマイナス点。
 なんならその1つしかない固有技を持っていないキャラさえいるので、連携技をたくさん作る余裕があるならそこはがんばって欲しかったです。
 厚遇を受けているRising枠のガルーさんに固有技がないのはさすがにびっくりだったよ…(それでも全体として見れば強いキャラなのが更に)

同じ初期仲間なのに超強いガオウさん。なぜか射程Mで後衛にも置けるすごい🐺

 1キャラがやれることが少ない代わりに仲間がたくさん増えるので、メンバーを入れ替えて遊んでねという意図なのでしょうが、それならばレベルを高めにしたり強い装備を着けていたりで即戦力にしやすい設定にして欲しかったところ。
 このあたりはアップデートであとから対応できる部分なので、今後救済されると良いですね。
 
 それとごく個人的な意見なのですが、戦闘中に撃破した敵が消滅するタイミングが妙に遅い(仲間のキャラが殴ってとどめを刺した時点では無く、ジャンプして隊列に戻ったあとにようやく消えるエフェクトが出る)のが気になりました。ちょっとしたことですが爽快感を削いでいるので修正されるといいな。

その他の部分について

 本編のストーリーだけでもボリュームは十分ですが、遊びの部分の作りこみが相当すごいです。

良かった点

 始めは廃墟同然だった拠点に仲間が増え、発展してにぎやかになっていく楽しさは健在。
 今作では水滸伝の枠組みが外れたので、その数圧巻の120人。

選択肢のお遊びも健在

 仲間が増えて解放されていく便利機能(今回はテレポートの解禁早め)も相変わらずで、ステータス的な成長とは別の部分でやりがいを感じられるのはやはり楽しいです。
 すべての仲間を集めきると恒例のご褒美も用意されているので、がんばった感慨もひとしお。

今作最大の伏線回収。運命を幸運でねじ伏せろ!

 また、今作の特色として全キャラフルボイスを活かした遊びが多く、おまけにちょっと異常なくらい力が入っており、登場するキャラクターたちを愛でてもらおうという意気込みを感じました。

百英雄伝でもっとも狂った要素、演劇。
数種類の劇で120名のキャラクターを自由に配役できる。もちろんフルボイス。
声優さんのファンにはたまらないはず
好きな仲間とデュエルも出来る。ルールがよく出来ていて楽しい 

 多彩なミニゲームに加えて、好き嫌いが別れがちなサイドクエストという名のお使い(私は苦手)が仲間の加入に直結しているのであまり苦にならない点も良いところだなあと再確認。

良くなかった点

 冒頭でPS1・2時代のRPGが再現されていると述べましたが、不便さやテンポの悪さまで当時のままな点はさすがにストレスを感じることが多かったです。
 移動速度を上げる手段は複数ありますが、標準の移動速度はちょっと触ってみたプレイヤーを即振り落とせるレベルの遅さなので、ダッシュブーツ装着時を標準にしても良かったのではないかと。なんなら2024年においてはそれでも遅めだと思います。

特にストレスだった呪いの装備ダッシュブーツ。
主人公が切り替わりそうなタイミングで外してかばんに入れておく"読み"が求められる

 UIもわかりづらい上に不便で、例えばパーティにいるキャラが今装備しているルーンを確認しようとすると数十秒かけて10回以上ボタンを押すことになるのですが、一事が万事この感じです。
 UIの構造自体を今から変えるのはおそらく難しいでしょうから、せめて遷移をテンポ良くしていただきたいところ。
 
 不満をすべて挙げようとすればキリがないのでしませんが
・仲間集めのためにミニゲームをイヤになるまでやらされる
・本拠地に入ると自動的に素材が倉庫に入るのに、依頼ではかばんの中に素材がなければいけない=本拠地に戻らずに集めきる必要がある
 この二点には本当にイライラさせられました。

純粋な苦行

 とはいえ昨今はまったくの未完成で発売されるゲームが珍しくないので、全体的な完成度は高いほうだと思います。
 発売日に少なくとも完成しているだけで良い点として挙げられてしまうのが2024年のゲーム事情。

おわりに

 私は幻水1,2をプレイ済みで、かつさほど思い入れのないプレイヤーなので最初から最後まで楽しく遊べましたが、幻水に強い思い入れがある、または全くないプレイヤーにとってはどうなんだろ…という非常に微妙な立ち位置にある作品だと思います。
 90年代のRPGがお好きな方であれば問題ないと思いますが、そうでない方にとっては少々厳しい部分が多いかも。

 せっかく復活したのですから直接の続編でなくとも遺伝子を受け継いだシリーズが続くと嬉しいですが、村山氏が亡くなられたことに加えてコナミ自身が幻水を復活させたそうな動きもあるので、未来のことはわかりませんね。

作中ではこれきりになる意味深なセリフ。
"幻水"の三番目と取るのが自然な気がする

 なんにせよDLCが出ることはすでに決定していますので、楽しみに待つことにします。

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