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ディスコ・エリジウム / Disco Elysium プレイを終えての感想(主に不満)

 プレイ時間は概ね30時間ほど、1週目完了+2週目中盤までプレイした上での感想となります。
 本稿はストーリーの核心についてのネタバレを含みます。
 
ゲームの性質上、未プレイの方が読まれると体験が台無しになると思われますのでご注意ください。プレイ済みの方との感想の共有を目的とした記事です。

 私はプレイヤーに"難解"とされる作品を好んで遊ぶわけではないですが、他方で比較的ウマが合う傾向にあり、近年ではアウター・ワイルズ / Outer Wildsやナイト・イン・ザ・ウッズ / Night in the Woodsなど強く心に残るタイトルに出会えたので、同じように絶賛を受けている本作もきっと楽しめるに違いない…とセールをきっかけにプレイしてみました。

本文とは特に関係ない好きなシーン

 先に総評から述べると、序盤は独創的で広がりのある世界観と自由なゲームプレイに圧倒され「なんだこのすごいゲームは…」と興奮しながら遊んでいたのですが、中盤あたりでエリジウムの真実に気が付き始め、1週目終了~2週目は不満のほうが大きくなってしまいました。
 エンディングまでプレイを続けられたことは十分に楽しめた証明ではありますが、コレはちょっとどうなんだ…と感じた部分を書き散らしたい欲求に駆られたことに加え、私の感じた問題点について言及されている方が見当たらず寂しさを覚えたので記事としてまとめておくことにします。

問題点1・プレイヤーに対してアンフェアなミステリー

 推理モノにおける禁じ手を用いており、感慨を得られるはずの終盤で興を削がれてしまいました。

犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない。最後の章でひょっこり登場した人物に罪を着せるのは、その作者の無能を告白するようなものである。

ヴァン・ダインの二十則

 具体的にはこの禁を犯しており、ゲーム内で得られる手がかりからプレイヤーが真犯人を突き止めることは物語の大詰めまで不可能になっています。
 まるでその事実をごまかすように登場するナナフシが「悪いね、この作品を推理モノとして作った覚えはないんだ。アンタが勝手にそう思い込んでただけでね」と製作者の声を代弁しているようで、不快…とまでは行きませんがたいへん脱力させられました。

本文とは特に関係ない好きなセリフ

 私は推理モノのファンでは無いため、そういったジャンルの作品に触れるときに犯人を推理しながら作者との駆け引きを楽しむことはせず、単に事件に翻弄され、真相に驚かされることを好むのですが、本作を純粋なミステリー作品と捉えて事件をたどると以下のようになります。

  1. 首を吊られた死体が発見される

  2. 容疑者A(ハーディ・ボーイズ)が犯行を自供するが、誰かをかばっているようだ

  3. 捜査を進めると容疑者B(クラーシェ)の関係が浮上、容疑者A,Bの自白により共通の関係者である容疑者C(ルビー)をかばうために口裏を合わせていたことが判明

  4. 容疑者C(ルビー)の逃亡or死亡により事件解決の手がかりを失う

  5. 容疑者B(クラーシェ)の自供により容疑者D(イオセフ)の関与が判明、殺人は彼の個人的な動機による犯行だったことが判明し、解決

 3までは問題ありませんが、4以降が問題でルビーの行動のすべてが不可解なんですよね。
 捜査線上に上がった段階では事件直後に身を隠したのが怪しい…となるのですが、その後実際には犯行を行っていないことが明かされ、かつイオセフとの接点も無いため逃亡の動機があまりにも希薄…というより皆無であるため、非常に悪質なミスリードであると言えます。
 その上被害者とも容疑者とも一切接点のない真犯人がとつぜん現れ、ごく個人的な動機を明かしてこれまでの捜査をまったくの無意味にする成りゆきは、さすがに単純に出来が悪いと言わざるを得ません。

 直前の捜査でもっとも可能性が低そうだとあえて強調された1km超の長距離狙撃による殺害だったことも踏まえると、このあたりは意図的というか先述のナナフシと合わせて「そういうゲームじゃねえからコレ」というメッセージなのかもしれませんね。作り手の意図は尊重しますが、こういった騙され方はあまり愉快なものではないです。

問題点2・竜頭蛇尾なメインシナリオとプレイ体験

 冒頭でも書きましたが、序盤は本当にゲームに引き込まれる感覚を得られていました。
 王政が崩壊し、共産主義に挫折し、なし崩し的に流入する資本主義に翻弄される法と権力の空白地帯レヴァショールという舞台はソ連崩壊前後の東欧をモチーフにしていることもあって掛け値なしに魅力的です。
 記憶を失って見知らぬ世界に投げ出され、自由に町を歩きまわってかすかな手がかりを追いながら独特の世界観の知識を深めていく体験も驚くほど面白かったです。

 レヴァショールを城下町として収めつつある外資の大企業と、それに対抗する共産主義的な香りを残した地元フィクサーの対立構造を把握したあたりがピークで、この複雑な状況がどう収束していくんだ?"臭い"人物がたくさんいるけど、そこからどうやって手がかりや協力を引き出すんだ?と興奮しながら遊んでいました。

 しかし中盤に至り、自由に見えた世界は"確実な物的証拠はどうやら得られず、状況証拠を集めて容疑者に自白させることでしか進行しない"ことに気が付き、加えて陰謀渦巻くように見えた事件は案外シンプルなものであり、町に散りばめられているものは手掛かりなどではなく単にこの世界を説明するためのフレーバーに過ぎないことが明らかになるにつれ、どんどん熱が引いていくのを感じました。

本作の会話の98%を占める思わせぶりで特に意味はないやりとり

 二週目をプレイして理解したのですが、例えばこの人物に会うにはどうすれば良いか、自白を引き出すための状況証拠をどの程度集めるかという部分は複数の手段や選択肢が用意されているものの、前段で触れた事件解決までのフローは完全に固定されており、一週目の経験を活かして証拠を集め一足飛ばしで犯人を追い詰めるようなプレイは許容されていません。
 登場人物や町の行く末に対しての介入も数人の生死を左右できる程度であり、序盤に期待させられたものとの落差があまりにも大きかったです。

 また、事件の真相を追うメインストーリーと人物の描写に複雑な世界観があまり活かされておらず、現実世界で十分に代替可能なものであるうえ、製作者が作品を通じて伝えたいテーマやメッセージらしきものが見当たらない点も空虚に感じられて少々落胆を覚えてしまいました。
 強いて言うならば「おそらく女性関係で苦労があったか、色々イヤな思いをしたんだろうな…」ということは読み取れましたが、硬派に見える世界観との落差があまりにも激しいですね…そこは本作の味と呼べる部分ではあるので嫌いではないです。

こういった"気の利いた"テキストはとてもすき

 インタビューによると本作のエリジウムと呼ばれる世界は元々TRPG用に製作していたものの転用ということで、出来栄えに対するある種の納得は得られました。作りこんだ世界観がストーリーに反映されていない作品は世の中によくあるものですし、そういったものが生まれる理由も理解できますからね。

おわりに

 不満ばかりを挙げつらってしまいましたが、序中盤を本当に面白く遊べたことは間違いなく、本作のような明らかに二ッチな作品が世に受け入れられることを知らしめた功績も賞賛すべきものだと思います。
 それが事実でも揶揄でも"テキストを読むだけのゲーム"と称されるものはたくさんありますが、そうしたジャンルに90年代のCRPGのシステムを用いた点は非常に新鮮で、こういうゲームをもっとたくさん遊びたいなと思わされました。願わくば本作のフォロワーが多く生まれますように。

最高の相棒

 最後に書き加えると、本作の魅力は相棒として常に主人公を助けてくれるキム・キツラギ警部補に支えられている部分が本当に大きかったと思います。
 この複雑で退廃的な世界に存在する唯一の良心、常識人たる彼無しでは最後まで遊び通すことも無かったでしょう。ありがとうキム。

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