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こどもを手放せ

ニンタの小学校で給食が始まる。コロナで学校の再開自体がおっかなびっくりなのに、こんどは給食だ。学校はどれだけ大変だろうか。先生たちの心労を思うと、頭が下がる。

ニンタは食事療法をしているが、保育園でも給食を食べていたし、小学校でも提供してもらえることになった。もちろん食べられるものと食べられないものがあるので、それは私が指示をだし、足りない時には持参する。

前にも書いたが、これは当たり前ではない。私は「給食を絶対提供しない」という保育園ともめて転園したし、患者会では小学校などで提供を断られている例も聞く。

そういうわけで、給食が提供されると決まって、私はほっとしていた。一品でも二品でも、給食があるのとないのとでは、毎日の労力は比べ物にならない。

そして、給食開始にあたって、「新しい生活様式」に沿った給食配膳の練習をするという。そして、その時にはニンタが食事療法をしていることを、クラス全員の前で説明する、と教えてもらった。

「もし良かったら、私も見学させてもらっていいですか?」私もしばらくは給食に同席することになっていたので、新しいルールを知っておく方がいいかな、という思いが1つ。もう1つは単なる好奇心だった。

保育園でも、お友達からもらい食べをしてしまわないように、園児たちに先生から説明がされていたが、私はその現場には居なかった。保育園はクラスの人数も少なかったし、私も、毎日送り迎えで様子がわかっていたので、あまり心配もしていなかった。

しかし、小学校は少し別世界だ。親との距離が遠くなる。そして、まだピカピカの一年生。ニンタの複雑な食事療法を、どうやって説明するのだろう?「親として聞いておかねば!万が一不足があればクレームだ!」…というギラギラしたものはなく、ニンタが歩んでいく道を見てみたい、そんな軽い気持ちだった。

ニンタは小学生の支援級というクラスに在籍しているが、今は本格的に勉強が始まっていないので、まだ一日中、通常学級に居て、支援級の先生の手を借りながら過ごしている。ニンタは、ぱっと見ただけでは障害がわかりにくいので、クラスメイトの中には、なんであの子ばっかり手伝ってもらってるのかな?と不思議に思っている子もいるかもしれない。

どんな雰囲気なんだろう?みんなわかるのかな?私は、少し早めの1人授業参観をさせてもらった。

いきなり給食が始まって混乱しないように、カラの食器を使って、コロナの感染をなるべく避ける配膳の練習が始まった。これで完全に防げるはずもないが、学校がやれるだけのことをやる、その準備の苦労と葛藤を目の当たりにすると、痛々しいほどだった。

配膳の練習が終わり、ニンタの話になった。説明するのは支援級の先生。若い先生で、この4月に初めて支援級に配属になったばかりだ。

「みんなにもう1つ、大切なお話があります。ニンタさんの給食についてです。みんなは、ごはんを食べると元気になるよね?好き嫌いしないように、なんでも食べよう、って言われていると思います。でも、ニンタさんは病気で、食べると元気がなくなっちゃうものがあるんです。だから、みんなより給食のおかずが少なかったり、家から持ってくるお弁当があったりするんだけど、それいいなー、とか、ずるい!って言ったりしないでほしいんです。ちょうだいって食べちゃうのもダメです。それから、アレルギーとは違うので、ちょっとだけ食べることもあります。みんなと違うメニューなので、気になるかもしれないけど、ニンタさんの体のためなんだって分かっておいてくださいね」

一年生の教室とは思えないほど、全員が黙って話を聞いていた。帰りの時間が迫り、時間がない中で、短く、的確に、わかりやすく伝えてくれたと思う。私は通りかかった教頭先生と、説明をしてくれた若い先生に、出来る限りの御礼の言葉を伝えた。

私は、少し感動していた。

正直言って、私たちの住む地域の、障害児のサポート体制はめちゃくちゃだと思っている。まず、養護学校はとても重度の子しか入れない。そこからもれた子は、障害の程度も種類も全く違うのに、まとめて支援級に行く。それなのに支援級の先生の数はとても少ない。ニンタは、今は通常学級で過ごしているが、勉強についていけなくなったら、ほとんど支援級で過ごすことになるだろうし、支援級のある場所は隔離部屋のような暗い校舎の隅で、教室はゴチャゴチャに散らかっていた。ニンタの入学前、支援級の見学と説明会があったのだが、あまりの様子に、参加した親は皆絶句した。

同じ地域にありながら、そうでない学校もある。支援級の生徒でなくても、勉強についていけなくなった子が、気軽に支援級でサポートしてもらうことができたり、通常学級と交流が盛んな学校もある。ニンタの学校はだいぶ遅れていた。全て現場任せなので、熱心な先生や障害児教育について知識豊富な先生が居ればラッキーだし、そのときの校長先生が、支援級に関心があるかないかでも、扱いが変わってくるのだ。

しかし、学校は変わりつつあった。まず、ニンタの入学の前年、校長先生が定年退職で、新しい先生が来た。次に教頭先生も代わった。支援級の場所は同じ場所だったが、散らかっていた教室はきれいに片付けられ、目隠しのシートがはずされた。これから休み時間なども通常学級との交流を増やしていくそうだ。支援級の先生も異動で新しくなったが、今のところ悪い印象はない。

変わり始めたぱかりで、まだ問題はたくさんあるのだろう。まず人手が足りないのだから、できることは限られるかもしれない。でも、私は変わりつつある学校に期待している。

そんな中で、参加させてもらった給食の予行練習は、私をまた1つ安心させてくれた。「置かれた場所で咲きなさい」と自分に言い聞かせ、覚悟してニンタを入学させたのだが、なかなかどうして、見晴らしがいいではないか。

まだまだ、学校に対して「もっとこうして欲しい」と思うところはあるし、この先いろいろな問題も起こるだろう。今、頼りにしている先生が異動で居なくなるかもしれない。

うまくいくときもあれば、いかないときもある。特にニンタは障害があるので心配だが、ある程度先生を信頼してお任せしないと、私がもたない。いじめが放置されたりしたら、親が動くしかないが、小さな問題まで監視しだしたらキリがない。

私はもともと心配性で、細かいところが気になるし、口うるさい方なので、自戒をこめて、最近つぶやいている言葉がある。

「こどもを手放せ」

他人を信じるのは大変だし、口も出したくなるが、そうやってキリキリ子育てをしてきて、限界を迎えてきているのが、今だ。うまくできるかどうかわからない。でも、私もニンタの成長と共に、変わらなければいけないのだと思う。

幸い、風は良い方へ吹いてきている。頑張らないことを頑張る、私にも、いいチャンスだと思う。

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