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食べたい気持ち

ニンタ6歳。グルコーストランスポーター1欠損症と診断され、現在、唯一の治療法とされている食事療法を開始して2年半ほど経つ。糖質をギリギリまで減らす食事療法で、主食、菓子類、果物、芋類が食べられないのはもちろん、揚げ物の衣やとろみづけの片栗粉まで気を使う。大変な食事療法だが、ニンタの体調はとても良くなった。

ニンタが食事療法を始めるときに、まず菓子類を目につかないところへ移動した。当時8歳だったいっちゃんと、1歳だったミコは、おやつは別室で食べてもらうことにした。果物は冷蔵庫なので、そもそも果物を買うことが激減した。食べさせるときは、キッチンに隠れて、さっと口に放り込む。

そういう生活をしばらく続けるうちに、ニンタはきょうだいがお菓子を食べていても、泣いたりすることはなくなった。いっちゃんは今でも気を使って、あまり目につくようには食べないが、ミコはまだ3歳なので、自分のおやつを「食べる〜?」と親切心でニンタに差し出したりするので、ヒヤヒヤする。ニンタ本人は、親の許可ナシに何か食べてはいけない、と理解しているので、手を出すことはないが、お菓子を差し出されて、心中穏やかでないことは明らかだ。

今度は、ミコの教育に力を入れないといけない時期に入ってきている。

そういう中で、先日、こども3人を連れて久しぶりにファミレスに行った。行く前に「おかあさんが、ニンタのマルのもの(食べていいもの)を探すから、それを食べるんだよ」と必ず言う。家にある食材は、どれも見飽きたものばかりなので、それほど魅力的でないが、レストランにはたくさん美味しそうなものがある。外食では、ニンタの心が揺れ動いて泣くこともあり、ここ数年、外食もおそるおそるだった。

私は、ニンタにチキンステーキを二種類見せて、どっちがいい?と聞いて選ばせた。いっちゃんはハンバーグとエビフライのプレート。ミコはお子様ランチだろうと思って見せると、「パンケーキセット」を選んだ。パンケーキとゼリーと枝豆が少し。なんだかおやつみたい、と思わないでもないが、たまの外食なので、ハイハイと承諾して注文を済ませた。

ミコのパンケーキが届くと、ニンタは「えだまめ…」と言った。枝豆は自分が食べられる、とニンタは知っている。「ミコ、枝豆いる?」と聞くと「たべない!いらない!」と言うので、私は枝豆を小皿にわけ、ニンタに渡した。ミコは、パンケーキにチョコソースとシロップを面白そうにかけて、ゼリーもパクパクと食べて満足そうだった。ニンタはもらった枝豆を食べ、自分のチキンステーキを、何の感慨もない様子で食べ終わった。ゼロカロリーのコーラがあれば飲ませてやれるのだが、普通のコーラしか置いていなかったので、ドリンクバーでニンタが飲めるものは麦茶しかなく、ニンタは水よりも麦茶がマシ、という感じで麦茶を選んだ。

それから数日経ち、家での食事で枝豆を出した。ミコはその枝豆を見て、数日前の外食を思い出したのだろう。「えだまめだ!ニンタ、ミコのえだまめ、おいしかったあ?」と、楽しそうに聞いた。ニンタはしばらく固まって、「…おいしくないっ!」と噛み付くように答えた。楽しい思い出話をしたかっただけのミコは、予想外の返答にショックを受けて、ポロポロと涙をこぼした。

どちらが悪いわけでもないし、どちらにも同情する。

ニンタがだいぶ我慢強くなってきていたので、久しぶりに連れて行ったのだが、まだまだ精神的にきついのだと、改めて思った。

レストランで泣いたりはしなかったが、ミコが美味しそうなお子様ランチ、しかもパンケーキを楽しそうに食べ、そのうえ、手下だと思っているミコから「えだまめをあげてやった」みたいな態度をとられたら、堪忍袋の緒も切れるというものだ。

家では、ニンタが食べられるような糖質の低いパンケーキを焼いてあげることもある。糖質の低いチョコソースやシロップもあるし、ゼロカロリーのゼリーもある。

でも違う。レストランで食べたいのだ。

私とニンタが2人で外食をするときは、私もニンタが食べられるようなものしか頼まないし、外食も平和に終わる。しかし、きょうだいを連れて行くと、そうも行かず、こういうことが起こる。

家族で問題なく行けるのは、焼肉屋と焼き鳥屋くらいだ。もちろん、デザートは頼まない。無料でお子様にアイス!などという店だと、ニンタを先に店の外へ連れて行ってから食べさせたりする。回転寿司も時々行くが、6歳ともなると、お刺身と茶碗蒸しだけでお腹いっぱいにさせるのはなかなか大変で、山盛りに残るシャリにも罪悪感が残って、つい親が無理をして食べたりしてしまうので、親の精神的にもお財布的にも楽しくない。

家で、きょうだいがお菓子を食べていても泣かなくなったように、いつか、外食でも動揺せずに食事できる日がくるだろう。我慢を繰り返して、諦めていくしかない。

その過程をずっと見ているしかない私は、ときどき、ぶっ壊れそうになる。ニンタはトマトが大好きなのだが、トマトは糖質の高い野菜なので、あまりたくさん食べさせることができない。ニンタが、自分のお皿に盛られた、ちょっぴりのトマトを食べ終わって、「トマト…」と言うと、私は「もう1つだけだよ」と言って少しあげてしまう。トマトくらい、お腹いっぱい食べさせてやりたい。もっと言えば、ママ友と子連れで集まって、コンビニで好きなものを好きなだけ買って、にぎやかに食べながらおしゃべりしたい。

くじけそうになるのは私だけで、ニンタは仁王立ちで自分の運命を睨みつけているように見える。ニンタはまだ泣くし、怒るし、ふてくされる。

でも、絶対に「食べたい」とは言わないのだ。

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