浪人の詩

以前の投稿で山田洋次監督の映画「十五才 学校IV」について触れた。

劇中に出てくる詩を紹介したいと思う。


浪人の詩

草原のど真ん中の一本道を
あてもなく浪人が歩いている
ほとんどの奴が馬に乗っても
浪人は歩いて草原を突っ切る
早く着くことなんか目的じゃないんだ
雲より遅くて十分さ
この星が浪人にくれるものを
見落としたくないんだ
葉っぱに残る朝露
流れる雲
小鳥の小さな呟きを
聞き逃したくない
だから浪人は立ち止まる
そしてまた歩き始める

日向国浪人 大庭登



トラックの運ちゃんの息子「登」が主人公の大介に贈った詩。
登はいわゆる引きこもり。彼は立ち止まっているのかもしれないけど、大介との出会いは登に影響を与えたのだと思う。
出会いは何かを変えるくらいのパワーがある。

15歳の時、この映画と詩に出会った。
私は高校を卒業して就職という道を選んだ。
早く着くことが目的ではなかった。
ほとんどの同級生が進学をしていく中、歩くことにした。
18歳の時、この詩に背中を押してもらって歩いてみようと思えた。

児童福祉の仕事に就いた。
貴重な経験をたくさんさせてもらえた。
子ども達と過ごした時間は私の宝物になった。

好きな作家さん、町田そのこさんの作品で「ぎょらん」という書籍がある。
その作中に登場する人物は10年間引きこもっていた。
彼の母親は、彼が歩き始めるのを信じて見守り続けた。
引きこもっていることを問題視としていなかった。
彼は再び歩き始めたのだが、母の見守りがあってこそだったのだろう。

歩き始めるには、それぞれのタイミングがある。
引きこもっている期間は自分を守るために必要な時間。
歩き始めるために必要な時間。誰だって、立ち止まる時間はある。
たくさん自分と向き合った分だけ、強くて逞しい人になれる、そう思う。


映画「十五才 学校IV」作品情報はこちら↓

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