『映画秘宝』DM問題考――明哲保身

 『映画秘宝』ダイレクトメールの件を受けまして、思うことをつらつらと書いてみたいと思います。

◆ 『映画秘宝』の編集長、公式TwitterのDMで個人を恫喝→編集部「許しようのない行為」と謝罪 https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_600f5dbac5b6997d555b7dcc

 今更だから書きますが、実はこの雑誌には原稿を書いたことがあります。かなり昔のことで、たった数回でもあり、敢えて強調する必要もないと思い今まで特にいうこともありませんでした。しかも、掲載号を紛失するという迂闊さです。
 なまじ売文稼業となってみると、仕事実績とするかどうかも迷うところでした。理由はいくつも思いあたります。

『映画秘宝』の思い出

 私は一時期、『映画秘宝』を買っていました。イベントにも複数回参加しています。そしてだんだんと、嫌気がさしていったのです。
 いちいち女性を馬鹿にし、仮想敵扱いをする“ボーイズクラブ“のノリがあまりに濃い。女性禁制イベントすらありました。彼らにとって女性は読者だろうと、ライターであっても、仮想敵だという姿勢は伺えました。
 大手雑誌はデートムービーの特集をしてやがるぜ! 俺らはデートには向いていない映画を見てやるぜ! そういうノリが根底にある。いい歳こいた大人としてどうかと思った。一体何をしているのだろう?
 あの雑誌から遠ざかっても、やらかした話は流れてきます。まあ、早晩そうなるだろう。そう思って距離を取りました。

 あの雑誌関係者が関与した実写版『進撃の巨人』への対応。 
 『アナと雪の女王』のような、女向けと認定した映画を徹底して叩く。
 下ネタによる個人の侮辱。
 そして、『マッドマックス 怒りのデスロード』批評から、フェミニズム批評を削除する。
 『ホテル・ルワンダ』には感動しましたし,関係者の著書も読んではいる。ただ、どうにも納得できなくなっていくことが増えていきました。
 それがジェンダー絡みなら、そんなものはいい加減克服して欲しいものだ。そう思っても、その気配はない。性差別を堅持したい人が他の差別について語ったところで、説得力がない。
 どうしたものかと思いました。

あのドラマの呪い

 そう思っていて、2019年、決定的な断絶があったのです。
 それはあの雑誌の大物が、『いだてん』を年間ベスト映画にあげていたこと。映画ちゃうやん!……そこじゃないんですよ。
 あの映画の問題点は大量に書きすぎて、ハッキリ言ってもうキリがないので繰り返しませんが。
 つまらないとか、くだらないとか、そういう次元の話じゃない。あの映画には差別としか言いようがない描写が大量にあった。アメリカ近現代史を学んでいたら気がつくであろう無茶苦茶な考証ミスもあった。戦争描写も、ともかく、ボロボロです。
 どんなドラマだって考証ミスはある。全て解決しろとは思いません。私が評価している『麒麟がくる』だってかなりの力技をしている。
 ただ、『いだてん』の場合、差別につながりかねない問題描写が大量にあった。歴史修正だと思いました。と、指摘したところで、こちらはクソレビュアーで三流ですから。蟷螂の斧でしかない。そのことは痛感させられたものです。
 それでも私は、やっぱり指摘しないと許せなかった。大震災とオリンピック開催を結びつける描写がともかく決定的にいけなかった。この件についてはもう蒸し返したくない。それでもやはりならぬものはならぬ。そうとしか言いようがありません。

 その一年後にこうなると呪いなのか、なんてちょっと思ったりもしましたけど。それはもういいです。

 『映画秘宝』今回の件は、根底に女性蔑視があることは指摘済みなので、私から申すことは何一つありません。あそこまで骨の髄まで女性嫌悪が身に染みていたら、よほどの改革でもしない限り望みは薄い。あの雑誌はそもそもがフェミニズム批評は弱かった。そこをカバーしている北村紗衣さんあたりに期待した方がよいのではありませんか。

 私が言いたいことは、人は群れると弱くなるということ。女をバカにする空気の中で生きていたら、感覚は麻痺します。人間は、自分で思っているほど、確固たる自分の意思で判断ができません。朱に交われば赤くなるのです。

 それは批評でもそうでしょう。
 なんで『いだてん』はああもファンダムが熱狂的なのか。ここまではよいでしょう。ただし、褒める文言まで似てきているとなると、心理的な作用を考えたくなるところです。私には悪癖があって、ハッシュタグなり何なりを見て、ファンダムのプロファイリングをしてしまう。時間の無駄かつ悪趣味極まりないので、今はあんまりしませんけどね。ただ、気になっていることはある。大河の話で、こうも五輪が無茶苦茶なのに、「『いだてん』はハマりました! あのドラマのおかげで五輪開催の意義を理解しました!」といまだに書ける度胸のある方のこと。そこは自由だと思いつつも、ギルティ・プレジャーはないのかちょっと気になるのです。

 せっかくだからもうちょっとだけでも。『映画秘宝』と『いだてん』、重なる層は何か?
 『いだてん』のファン層は、『あまちゃん』とかぶる。ここまでは想定内でしょう。さらに、『あまちゃん』主演女優のファンともかぶる。『映画秘宝』では彼女をお気に入りにしている。好きな女の子、推しなら崇拝しちゃえ! そういうファンが推しに歓声を送るノリを『いだてん』にも発揮していたのでしょう。彼女は不在ですが、その程度で信仰心は揺るがないッ! 崇拝も侮蔑も表裏一体ですからね。
 あれほど大手映画雑誌を敵視して「イケメンにキャーキャー言いやがって! 俺らは中身を見る!」と言っておいて、どういうことなのか。そういう意地悪なツッコミをしてはいけないのでしょう。
 もうしてるけどね。すみません、性格悪いからさ。

 そうそう、あの女優といえば、『この世界の片隅に』のすずさんコスプレ表紙も『映画秘宝』でしたね。あれを見た瞬間、この雑誌には歴史観については何の期待もできないと失望しました。
 戦争を知るすずさん世代の方の声を思い出します。私が知っている女性は、は戦時中を描いたドラマを見てため息をついていました。
「あの頃は、若い娘だって食べるものがなくて、やつれていて、荒んでいて。こんな綺麗な顔なんかできなかったのよ。こんなドラマを見て、戦争をわかった気になられてもね……」
 ほんとうのすずさん世代をおちょくり、戦争をエンタメ萌えコンテンツ化している。それに対してなんの疑問もなく、ただただ、女優萌えしている雑誌なんだなぁ。
 なんだかなぁ。
 雑誌そのものへの信頼感がゼロになりましたっけね。

 ともあれ、こうも好き嫌いの感情ありきで批評するとなると、どうかとは思うのです。

明哲保身

 私はキレやすいと思われています。自覚もある。けれども、大手公式アカウント運営経験はあります。そこはリプライもDMも、ツイートですら慎重にするので、炎上はしませんでした。こんな亀の歩みでいいのかと思うことはあった。巧遅は拙速に如かずだとも思った。
 ただ、迂直之計とも言う。あれはあれで結果的に正解なのでしょう。

 そこを踏まえて、私は心掛けていることもあります。

・エゴサーチはしない。君子危うきに近寄らず。
・それでもしたくなったら「基本的に97%のネットユーザーは、私のことを自分よりバカだと思い、あざけるつもりだからやめておけ!」と自分に言い聞かせる。知名度のことなんて考えるべきではない。人の己を知らざるを憂えず、人を知らざるを憂うなり!
・論争はしない。百戦百勝は善の善なる者に非ず。ネット論争で「論破ぁ!」と勝ち誇るよりも、そもそも争わないことが大事です。
・たとえ侮蔑的なリプライをされても、返信はほどほどに。鼠に投ずるに器を忌む。返信することで疲れるのであれば、自重すべきです。
・ 兼ねて聴けば即ち明るく、偏り聴けば即ち蔽(くら)し。いろんな見解をあたらないと答えも出せないでしょう。それはネットでなく、できれば書物ですべき。
・故に明主はこれを慮り、良将はこれを修め、利に非ざれば動かず、得るに非ざれば用いず、危うきにあらざれば戦わず。コメントも見ない。リプライ返信もしないし、DMもなかなか返さない。申し訳ないのです。そのことそのものにリスクがあるかもしれない。もちろんあたたかい言葉だっていただくけれども、そればかり聞いていても思い上がって自信過剰になりえる。
・遠慮無ければ近憂あり。返信がすっとろいことを悩んでいた。けれども、即座に返信してろくなことにならないよりは、敢えて待つのもありかと。

 むしゃくしゃしてひどいDMを送るくらいなら、パンチングボールでも殴った方がよいのです。明哲保身です。イライラするなら漢文名句でも探していればよいのでしょう。
 みなさまご存知の通り、私は人一倍頭の出来がよろしくない。だからこそ努力はしている。挑発しようとリプライされても平静を保ちたい。そういうすっとろいことをしていれば、いつか何かいいこともきっとあると思うのです。
 とりとめのない文章,失礼しました。


よろしければご支援よろしくお願いします。ライターとして、あなたの力が必要です!