『ゴールデンカムイ』読者へギルティー・プレジャーのススメ #2 歴史修正主義者との付き合い方
『ゴールデンカムイ』最終回を読んだファンから、悲痛な声が聞こえてきます。
「この作品を楽しんだことで、差別に加担したのではないか?」
気持ちは理解できます。しかし、野田先生ご本人も認めているように、完璧な作品ではないのです。今はたとえ完璧だったとしても、数年後には“あの時代の限界の中ではがんばった作品”になっているかもしれません。それはそれでよいこと。時代が進化したということなのだから。
と、小難しいことで慰めましたけど。こういう手っ取り早い絆創膏もある。
“ギルティープレジャー^です。
悪いとわかっていても面白いから好きなんだよね。そういうこと。夜中にポテチを食うと最高だ! そういう概念のこと。
そう前置きを使い回しした上で話を進めます。そうはいっても、歴史修正主義であればもう楽しむことはできません。
『ゴールデンカムイ』の歴史修正主義は悪意あってのものか?
作り手が悪意ありきではなからそうしたのか。それとも何らかの理由で妥協したのか。ここを切り分けることを提案します。
ファンのみなさんだって、はなから歴史修正をする気満々だったら、そこに気づいた時点で読むのをやめたでしょ? 伏線を回収していない箇所もたくさんあるし(別途考えます)、途中までは何かがちがったと思いたいところ。
その比較として、はなから歴史修正する気満々だったコンテンツをあげます。
そしてここで、使い回して邪悪な実験をしてみましょう。
ゴールデンカムイ』ファン同士で相互になった相手がいる。
でも、私が最終回批判をしたら……冷たくなったみたいで。
どうする? まあ、今までのつきあいを考えると、そう悪い人じゃないとは思うし。
でもでもでも……参考文献教えようかな? 読んでくれるかな?
こんなお悩みのあなた!
諦めも肝心ですよ。
・2ちゃん擁護、www、草を使う
・昔の少年漫画ネタを使う(ジョジョ話法)
・真面目に考えないでヘラヘラしていることがかっこいいといいとしこいて思っている
・結構いい年齢なのに、社会に対する責任を取る気がない
・「左翼だろw」「フェミだろ」と言い出す
流石にこうだったらはなから付き合ってないな。というような地金が出てきているなら、スッキリ解決しちゃいましょう。
『ゴールデンカムイ』は、年代的に人権や差別を鼻で笑うことがかっこいいと思ったまま大人になった。そういう層に受けている作品です。そこは仕方ない。自分がそうならなければよいのですが。
はい、ここはクリアしまして。
次に、相手が大河と朝ドラを見ているかどうか、ちょっと聞いてみてください。前のめりになったときに、この作品を「好き」と言った相手ならば、残念ながら歴史修正主義と親和性が高い可能性がありますので、再考を推奨します。
今日はその点を「歴史修正」に絞ります。まずはこれだ、『あさが来た』と『青天を衝け』。これが好きだと屈託なく、それこそ“ギルティー・プレジャー”なしで断言する相手は、人種差別に鈍感である可能性が高いと推察します。
やる気満々の歴史修正ブームといえば五代様!
『あさが来た』と『青天を衝け』には共通点がある。脚本家はじめスタッフ、そしてキャストだ。はなから二匹目のドジョウを狙う気が満々といえる。これはこの作品に限っただけでもないけれど。
この二作で共通して登場する人物がいる。五代友厚だ。
この二作を見ても、視聴者が努力しなければ、五代友厚がどんな功績を残したのか把握はできないだろう。というのも、広岡浅子(厳密にはモデルにした人物という設定)と渋沢栄一という主人公周辺をウロウロし、何かいいことをいう。そういう便利なお助けキャラじみたことばかりが目立ち、具体的な功績が描かれない。なんかイケメンですごい人。そういう印象ばかりが残る。
何が問題かって、五代友厚とは、広岡浅子と渋沢栄一はそこまで接点がない。
五代友厚伝に広岡浅子はいらない。渋沢栄一はライバル、当時の同業者として出てくることはある。
渋沢栄一伝に五代友厚は出てきても、これまた当時の同業者ということ。
それだけ。
その程度の接点をこれでもかと大きく扱った結果、五代はわけがわからないイケメン便利キャラになった。でもいいんじゃない? それがウケたなら……。
五代様礼賛は何が狙いか?
五代様をディーン・フジオカさんが演じると、視聴者、特に中年以上の女性にウケる……そういう数字だけが狙いなのかどうか。ここがポイント!
五代友厚は「北海道開拓使官有物払い下げ事件」という教科書に掲載されるような事件を起こし、失脚した。それが『あさが来た』と『青天を衝け』では「五代様は冤罪なのに、マスコミによって嵌められた」と描いた。
その結果、SNSにはこんな感想が並んだわけで。
「マスゴミって昔から同じだよなw」
「今マスゴミやパヨクが騒いでいるあの事件も無罪なんじゃない?」
「歴史はこうして作られていくんだね」
何かが生じましたね。
資料史料の類を一切無視して「あんな心清らかな五代様が汚いことをするわけがない!」と歴史修正に突っ込む五代様ファンも出てきました。
フィクションとは、こういう使い方もできるのです。歴史修正の一丁あがり。
ね? 『ゴールデンカムイ』は流石にここまですごくはないでしょう?
五代友厚は北海道史に関係がある
そしてこの「北海道開拓使官有物払い下げ事件」とは、北海道近代史の黒い1ページなわけですよ。この事件に深く関与した五代の親友であり、薩摩閥の大物政治家といえば黒田清隆です。
黒田はアイヌの歴史にも悪名を刻んでいます。妻を殴り殺し、その罪を隠蔽したり。むしゃくしゃして小樽沖から艦砲射撃をして民間人を惨殺した挙句、責任を船長に押し付けたり。明治の政治家でも屈指のバイオレンス野郎です。
五代友厚とセットで語られるべき人物って、広岡浅子でも、渋沢栄一でもない。黒田清隆だってば。
北海道史、ましてやアイヌ差別を調べたら、黒田清隆には悪い意味で到達することでしょう。そしてその相棒には五代の名前が出てくる。
要するに、です。
『ゴールデンカムイ』と『あさが来た』&『青天を衝け』をセットで並べて無邪気に、ギルティ・プレジャーなしに楽しめるということは、北海道の歴史にそもそもが興味がないんじゃないかと私は推察しますよ。
いいと思います! コンテンツとして楽しんでいるだけなら、それで完結してくださいね。
ただ……そうと割り切るなら、史実と照らし合わせて不満を感じる相手に、こういうことを言うなって話。
「そういうことを言うなんて信じられない!」
「フィクションじゃんw」
「楽しめないなんてかわいそーw」
「そんなの気にする方がおかしいw」
「考えすぎw」
「ファンの気持ちを傷つけないで!」
「何様のつもり?」
「読むのやめたら?」
「どうせゴカムなければアイヌのことなんて知らなかったくせにw」
「批判するお前がおかしいw」
「教養がないからそういうこと言い出すんですよね」
「心が清らかならもっと素直に楽しめるでしょ!」
調べる時間は十分にあった。しかし、そうしなかった。そんな相手が心を入れ替えて、バリバリと本を読むと思わない方がよろしい。そういうことです。
そもそもが!
広岡浅子本人はともかく、実家である政商・三井。
そして渋沢栄一。
こういう政治に食い込んだ商人礼賛って、21世紀にしていい類のことじゃないと思いますよ。なんでアメリカが戦後財閥解体したか、もう理由を忘れたんですかね。政治と経済の汚職のことでも勉強して……って、やらないか。
ともあれ、こういう政治とべっとりの商人を礼賛していると、日本は植民地支配や戦争に対して無反省だとアピールすることになる。その弊害を思えば、こんなコンテンツは支持できません。
そういうはなから歴史修正と悪意ありきのコンテンツと比較すれば、『ゴールデンカムイ』は善良と言えるほど。ただ、よりにもよってそんな最低のコンテンツと比較してどうするのかという話ではある。
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