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デッドリー・スクリプツ【エンカウンター・ウィズ・ピルス・レギオン】


「た……助けてくだちィーッ!」「イヨーッ!」悲鳴が虚しく響き渡り、鋭いカブキチョップがズタボロに傷ついたニンジャぴるす、プレリュードの首を切断する……その寸前!「ノン!」野太いカラテシャウトと共に壁が砕け、巨大な張り手がホワイトパロットを突き飛ばす!

「ヌゥーッ……!何者だ!」張り手の形に空いた壁の穴を無理矢理に広げ、スモトリめいた巨体の男が部屋の中へとエントリーした。「ドーモ、テディベアなのん!」その風体に似合わぬ奇怪な口調!「……まだ居ますぜ!」テディベアに続き3人の男が壁の穴より現れる!「ドーモ!マッサーです!」「マーシャルアーツです!」「タイダルウェイブです」

 ホワイトパロットは怪訝な顔でアイサツを返した。「ドーモ、ホワイトパロットです。……君たちはぴるすではあるまい、何の用だ」「我々はぴるす軍団。そこなぴるす殿を真に守護する者である」タイダルウェイブが答える。……奴がぴるす軍団のまとめ役か。ホワイトパロットは抜け目なく男達の一挙一動を見定めた。

「ぴるす君なんぞに与して何になるというのかね」「ヘッ!理屈なんざどうでもいいだろ!イヤーッ!」マーシャルアーツが仕掛ける!腹部を狙った重いカラテパンチ!「イヨーッ!」ホワイトパロットは拳を受け止め、腕を捻る!「グワーッ!」マーシャルアーツはアイキドーめいて投げ飛ばされ壁に激突!

「イヨーッ!」「ノン!」起き上がるマーシャルアーツめがけ放たれた追撃のトビゲリを、テディベアがその巨大な腹で受け止める!「ヌウッ……!?」奇妙な感覚にホワイトパロットが唸る。テディベアの腹肉が不可思議な弾力をもってホワイトパロットのカラテを跳ね返した。「隙有りですぜ!イヤーッ!」体勢を崩すホワイトパロットへ背後からマッサーが迫る!

「……イヨーッ!」ホワイトパロットは弾かれた勢いを使い、空中でサマーソルトめいて高速回転!マッサーの肩に踵を捩じ込んだ!「グワーッ!」反作用で再度飛び上がり、優雅に着地した。「……この私に、隙などあるはずがなかろう」

 ホワイトパロットは着地後0コンマ546秒で即座に跳ぶ!「イヨーッ!」未だ悶絶するマッサーへと!「ノン!」インタラプトすべく間に入ったテディベアが、ホワイトパロットのカラテを再び腹で受け止めた。

「……そう来ると思っていたよ、テディベア=サンとやら」「ノン!?」困惑した声を出し、テディベアは苦しげに腹を押さえた。……ホワイトパロットのカラテが腹肉の守りを貫通した!テディベアの顔に驚愕が浮かぶ。「な……何かの間違いなのん!」

「イヨーッ!」「ノン!」ホワイトパロットのカラテを前に、テディベアは腹を突き出した特殊な防御姿勢を再度取った。ホワイトパロットの右手がテディベアの豊満な腹肉へと沈み込み……そしてテディベアのタタミ一枚ほど後方でコンクリートの壁が砕けた。「ノンーッ!?」テディベアは腹を震わせ悶絶!「オゴーッ!」激しく吐血する!果たして何が起きたというのか!

 何らかのジツを帯びたテディベアの腹肉はあらゆるカラテを、カブキを、恐らくは武器による斬撃や刺突撃すらも跳ね返す。2度の接触でホワイトパロットは既にそれを確信していた。カラテを当てても反作用で弾かれるのみ。故に、彼はテディベアの腹肉へカラテを当てながらもカラテを当てなかった・・・・・・・・・・

 ホワイトパロットはテディベアの腹肉へと掌打を当て……しかし、カラテをぶつけるのではなくその内へと浸透させた。テディベアの内に浸透したカラテは衝撃波となって駆け、そして体内を破壊しながら背中へと駆け抜けたのだ!

 かつてとあるカラテのタツジンはトーフにチョップし、下のカワラのみを砕いたという。おお……コウライヤ!ホワイトパロットは己の知識とカブキ、そしてワザマエを以てそのタツジンと同じことをその場で為してみせたのだ!なんたるワザマエ!

「オゴーッ!」悶絶し血を吐くテディベアのその腹肉は先ほどまでの張りを失い垂れている。……ジツが解けているのだ!「イヨーッ!」ホワイトパロットはテディベアをカイシャクすべく空間を抉るようなカブキ・ツキを放った!

「……イヤーッ!」カブキ・ツキが放たれる寸前、タイダルウェイブは懐からボトルをおもむろに取り出して床に置き、その首を鋭い水平チョップで切断していた。カットされたボトルから水が溢れ、意志を持ったゲル状生命体のように宙を舞いテディベアの寸前でホワイトパロットのカブキ・ツキを受け止める!

「これは……!」「イヤーッ!イヤーッ!」タイダルウェイブは続けて2本、3本と水ボトルをボトルネックカットチョップで開栓する。「スイトン・ジツか!イヨーッ!」ホワイトパロットはカブキを中断し跳ぶ!

「イヤーッ!」ホワイトパロットの着地点を狙うのはマッサー!シアツめいて親指を立てた独特の拳を振るった!「イヨーッ!」「グワーッ!」ホワイトパロットは空中で体を捻り跳躍の軌道を変え、マッサーの肩を踏んで再度跳ぶ!だがその跳躍先にも既にマーシャルアーツの姿!

 なんたる数の有利を活かした相手に不利を強いるイクサであろうか!彼らは明らかに集団戦法に慣れている!「イヨォーッ!」ホワイトパロットは恐るべき速度で空気を蹴り、空中で軌道を無理矢理に変える!転がるように着地し、そのまま駆け出した!

 SPLAAAAAASH!ホワイトパロットの背後で水流が着地点を穿つ!判断が僅かでも遅れていれば飲み込まれていただろう。「イヤーッ!イヤーッ!」タイダルウェイブは水を更に追加!無数の水流に追われながら、ホワイトパロットは振り返らず一目散に駆ける!「へっ!逃げてるだけじゃどうにもなりませんぜぇ!」

 水流はホワイトパロットとほぼ変わらぬ速度で彼の背後タタミ一枚ほどの距離を飛んでいる。速度を落とせば一瞬で餌食だ。たとえジリー・プアー(徐々に不利)であろうとも止まれぬ。ホワイトパロットは走る。走り、走り、走り、そして……突如ホワイトパロットは部屋の端で急停止した。

 逃げるのを諦めたのか、あるいは意を決したのか?否、どちらでもない。……彼は水流から逃げながらもある地点を目指していた。そして今、その地点へと到達したのだ!「イヨーッ!」ホワイトパロットが床から何かを拾い上げる!それは……「ケオーッ!?」プレリュードである!

 ホワイトパロットとの戦闘で傷つき弱っていた彼はテディベアの張り手に巻き込まれて気絶し、そのまま皆に失念され乱戦の中独り虚しく床に横たわっていたのだ!「イヨーッ!」ホワイトパロットがプレリュードの首を後ろから掴み、掲げるように突き出す!ホワイトパロットを追う水流はそのままプレリュードへと衝突!「ケオーッ!?」「……シマッタ!」

「イヤーッ!」マーシャルアーツの掌底!「イヨーッ!」プレリュードで受ける!「ケオーッ!?」「イヤーッ!」マッサーの親指をねじ込むシアツ・パンチ!「イヨーッ!」プレリュードで受ける!「ケオーッ!?」「ノン!」テディベアの張り手!「イヨーッ!」プレリュードで受ける!「ケオーッ!?」それはぴるすを盾にすることで折檻と防御を同時に行い、相手の動きを牽制しながらそのカラテを観察する超合理的戦術!

「イヤーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヤーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヤーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「ノン!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」

「イヤーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヤーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヤーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「ノン!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」

「イヤーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヤーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヤーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「ノン!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」

「……まずいですぜ!」マッサーがタイダルウェイブへ進言する。「ぴるすの旦那はもはや虫の息だし、俺らの動きも見切られ始めていますぜ。……それにテディベアの奴も傷が深ぇ」「……」タイダルウェイブはロングコートの内を確かめる。残る水ボトルはもはや片手で数えられる。「……潮時か」タイダルウェイブはハンドヘルドUNIXを操作し、どこかへとIRCコールを送った。

「ウhhーッ!」KRAAAAASH!突如鋭いシャウトと共に床が砕け散る!階下から何者かが攻撃したのだ!「ヌゥッ!」床には大砲に撃たれたかのような大穴!「ウhhッ!」階下からのゴリラめいた声!(((ドーモ、ゴリラフェイスです!皆さん、今のうちに撤退を!)))言葉が直接ニューロンへと響く!「サラバ!」「……また会いましょうぜ!」「アバヨ!」「またなのん!」ぴるす軍団は次々と床の穴へと飛び込み、消えて行った。

「ちょ……っ!待っ……置いて……!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」プレリュードを床に叩き付け、ホワイトパロットはその背中を踏みしめる。「ぴるす君、もはや君は独りだ。さあ吐け、奴らはいったい何者なのかね」「し……知らな……」「イヨーッ!」ストンプ!「ケオーッ!?」

「……ほ……ホントに知らな……」「イヨーッ!」ストンプ!「ケオーッ!?……本当なんですけお!路を……」「イヨーッ!」ストンプ!「ケオーッ!?……路を歩いてたら声をかけられて……」「イヨーッ!」ストンプ!「ケオーッ!?ほ……ホントそれだけで個人情報は……」「イヨーッ!」ストンプ!「ケオーッ!?……何にも知らないんですけお……!」

「……そうか、教えてくれてありがとう。感謝する。イヨーッ!」ストンプ!「ケオアバーッ!」プレリュードは頭部を踏み潰され爆発四散した。「サヨナラ!」

 ホワイトパロットは床の穴を見る。彼はぴるす軍団を追いはしなかった。情報があまりにも足りない。今、奴らと争っても利にならぬ。「ぴるす軍団……プレリュードの死で彼らが止まればありがたいが」



 夜の闇を裂くように5人の男が屋根から屋根へと跳ぶ。「……しかし、どうするよ。ぴるすの旦那は多分死んじまいましたぜ?」「……次のぴるす殿を用意するのみ」「ぴるすちゃんはいくらでも居るのん!」「こうなるとますますお飾りだなァあの野郎」

 ぴるす軍団の姿は色付きの風となり夜の街に消える。彼らが次に担ぎ上げるぴるすは果たしてどのような者だろうか。もしそれがコウライヤのぴるすであれば更なる衝突は回避されるやもしれぬ。

 だが、それが反コウライヤのぴるすであったのならば……また遠くない内にコウライヤは彼らと対峙することになるだろう。

 奇怪な軍団とコウライヤの第三種接近遭遇は、後々まで続く悪縁を予感させながらこうして終わった。


デッドリー・スクリプツ【エンカウンター・ウィズ・ピルス・レギオン】終わり



カブキ名鑑

◆歌◆カブキ名鑑#111【プレリュード】◆舞◆
無所属の野良ニンジャぴるす。能力面で特筆すべき点は存在しない。ぴるす軍団によって担ぎ上げられていたがプレリュード自体は代替可能な旗印ぴるすでしかなくあっさりと見捨てられた。

◆歌◆カブキ名鑑#112【テディベア】◆舞◆
非ぴるす。ぴるす軍団のニンジャ。スモトリめいた巨体を誇り不可思議な弾力を持つ腹肉であらゆるカラテを無効化する。詮索してはならぬ名としてハッカー達の間でまことしやかに語られる存在。

◆歌◆カブキ名鑑#113【マッサー】◆舞◆
非ぴるす。ぴるす軍団のニンジャ。ぴるすとタイダルウェイブを慕っているように見えるが、その真意は不明。マッサージ師の名を持つが彼がマッサージをすることはほぼ無い。

◆歌◆カブキ名鑑#114【マーシャルアーツ】◆舞◆
非ぴるす。ぴるす軍団のニンジャ。その名の通りワンインチでのマーシャルアーツ・カラテを得意とする。ぴるす軍団の一員ではあるが、彼自身はぴるすの事を好んではいない。

◆歌◆カブキ名鑑#115【タイダルウェイブ】◆舞◆
非ぴるす。ぴるす軍団のニンジャ。ツナミ・ニンジャクランの高位ソウル憑依者であり、水を自在に操作するジツを持つ。ぴるす軍団の設立者であり、如何なる理由かぴるすに対し忠義を立てている。

◆歌◆カブキ名鑑#116【ゴリラフェイス】◆舞◆
非ぴるす。ぴるす軍団のニンジャ。ゴリラめいた顔と筋力を誇り、その拳は容易く鉄筋コンクリートを破壊する。ニンジャソウルの影響でもはや人間の言葉を発することはできず、超常の声で念話を行う。



K-FILES

ぴるすを崇拝する謎めいた非ぴるす集団、ぴるす軍団とホワイトパロットの遭遇を描く番外短編スクリプト。まとめ作成にあたり、本筋とはほぼ関わらぬ外伝ということでデッドリー・スクリプツというジャンルに再分類された。


主な登場ニンジャ

タイダルウェイブ / Tidal Wave:ぴるす軍団のニンジャであり非ぴるす。謎めいた理由によりぴるすを崇拝しており、ぴるすを守る集団『ぴるす軍団』の設立者にしてリーダー的存在。ツナミ・ニンジャクランのグレーターソウル憑依者であり、スイトン・ジツにより水を自在に操る。環境に左右されずにスイトン・ジツのフーリンカザンを得るため大量の水ボトルをロングコート風ニンジャ装束に仕込んで備えている。

テディベア / Teddy Bear:ぴるす軍団のニンジャであり非ぴるす。ぴるすを愛するスモトリめいた巨体の男であり、語尾に「~のん」を付けた奇怪な口調で話す。ニンジャでありながら栄養学、調理学、スシ学、そして美食へとのめり込んでいった好事家ショク・ニンジャのソウル憑依者であり、贅肉として蓄えたカラテカロリーを消費しながら発動するハラツヅミ・ジツによりあらゆるカラテを弾き返す。

身辺を探る者をUNIXや精神そのものをクラッシュさせて無数に葬ってきたヤバイ級ハッカーの側面を持ち、古いハッカーの間では『調べてはいけない存在』として伝説のように語られる。

マッサー / Masseur:ぴるす軍団のニンジャであり非ぴるす。ぴるすとタイダルウェイブを敬愛しており、彼らのためならば命懸けの任務であろうと憩わない。元々はマッサージ師であり、現役時に学んだシアツ知識を活かし親指を肉体の急所へと的確に捩じ込んで破壊するシアツ・カラテを編み出した。

マーシャルアーツ / Martial Arts:ぴるす軍団のニンジャであり非ぴるす。タイダルウェイブとの繋がりでぴるす軍団に所属しているが、彼自身はぴるすに対し好感を持ってはおらずモチベーションはそう高くない。マーシャルアーツの名を持つものの、そのカラテは特筆して高いというわけではない。

ゴリラフェイス / Gorilla Face:ぴるす軍団のニンジャであり非ぴるす。ヒヒ・ニンジャクランのアーチ級ソウル憑依者であり非常に高いカラテと知性を持つ。その肉体は不可逆的にゴリラ化してしまっており人語は話せないものの、テレパスめいた力で周囲の人間の脳内に直接声を届けることが可能。その口調は奥ゆかしく丁寧である。

プレリュード / Prelude:ジツを持たずカラテもさほどではない特筆すべき点のない野良ニンジャぴるす。己の身の丈を理解し安いビズで日銭を稼ぎコソコソと生きていたが、ぴるす軍団に担がれたことで調子に乗り違法バンテリン売買に手を染めコウライヤの討伐対象となった。そのパ行ネームはぴるす軍団との遭遇が「序章」にすぎないことを、あるいは彼自身がぴるす軍団に対する「前置き」程度の存在でしかないことを指していると思われる。


メモ

有名歌舞伎役者のみならず、スクリプトの源流であり昨今においては完全に忘却されつつあるnovの遺物たちを描くことをテーマとした短編だ。彼らの全盛期を自分は知らない上に当時のデータはあまり現存していないため彼らのキャラクターを描くのは非常に困難だった。カブキノミコンを深く何度も読み返し、そしてどうにか書き上げたのをよく覚えているよ。

ぴるすはクソコテを元に作られたキャラクターであり、方や有名歌舞伎役者を元にしたキャラクターも登場し、そしてぴるす軍団はセクシー男優が元という意味の分からない組み合わせ。そして誰かが肉付けしたキャラクター性を元に誰かがさらに上塗りを繰り返し続けたもはや原型の無い彼らの姿には古のインターネットのケオスと郷愁を感じさせられる。

ぴるす軍団は今後新エピソードが作られたとしても再登場はしないだろう。…彼らは口調やパーソナリティーの理解が難しい上にもはやマイナーすぎたんだ。


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