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【マッドネス・アンド・カースド・ソウルズ】



 ぴるす正教会による騒乱は正教会の主たるポープの死により終息し、生き残りの信者ぴるす達はコウライヤにより処分、あるいは捕縛され再教育されることとなった。これにて万事解決。コウライヤに再び平穏な日常が戻る。……はずであった。

 しかし、ぴるすによる大災害の芽は未だ深くまで根を張っている。それも恐らくはコウライヤが把握できぬほどの深層まで、秘密裏に。サルファリックは眉間に皺を寄せながらUNIXを操作する。

 1つ、ポープとホワイトパロットが戦闘を繰り広げる中で人知れずシステム障害を起こしていたコウライヤ警備システム。偶発的なエラーであるとは到底思えぬ。

 2つ、我々の与り知らぬぴるす個体の発見。コウライヤのコードを持たぬぴるすが何体も捕獲されている。何者かが秘密裏に闇ぴるすを製造している。……あるいはコウライヤも知らぬそれ以上の事態が起きているのか。

 そして3つ。「……ぴるすの失踪」呟き、サルファリックは息を吐く。UNIXの画面には『位置情報不明な』の文字がミンチョ体で赤く点滅している。コウライヤのぴるす全てを把握するはずのGPS(グローバル・ぴるすトラッキング・システム)が複数のニンジャぴるすを見失っている。

 失踪ぴるす達のバイタルサインも同時に途切れており、つまりあらゆるデータ送受信が阻害される場所に連れ込まれたか、あるいは体内のぴるすチップが破壊されたか。どちらにせよ犯人はコウライヤのぴるす達が常に監視されていることを知っている可能性が高い。

 パフアダー、ピトフーイに次いで今回のポイズンキャット。サルファリックの担当する毒ぴるす部隊の3人目の失踪。同じ部門から3人目の失踪ぴるすが出たのは偶然か、あるいは意図的なのか。サルファリックは目を閉じ息を吐いた。

 ……災禍は未だ去らぬ。


◆カブキスレイヤー:プレシーズンエピソード◆

◆「マッドネス・アンド・カースド・ソウルズ」◆



「……けお……?」ポイズンキャットが目を覚ましたのは闇の中であった。ニンジャ視力を以てしても見通せぬほどの暗闇。周囲には己の他にニンジャの気配が9つ。ポイズンキャットはカラテ姿勢で警戒する。他のニンジャ達もそうしているだろう。

(……何があった?自分は警戒パトロールの最中であったはずなんですけお……)ポイズンキャットは記憶を辿る。(たしか……パトロールの途中で不意に……?首筋に……衝撃を受けて……?)……何者かによる襲撃、そして拉致。彼は己が陥った状況をようやく理解した。

 ポイズンキャットは警戒心を膨らませる。周囲のニンジャこそが己を拐った下手人かもしれぬ。そもそも自分を拐って何をするつもりなのか。殺されていないということは何らかの利用価値があるのだろう。……つまり、死ぬよりも酷い目に遭う可能性が高い。

 ポイズンキャットの警戒心が敵意へと変わる。周囲のニンジャ達も敵意を感じ取り敵意を向け返す。敵意を受けたポイズンキャットは敵意を一層深める。連鎖反応的に場のアトモスフィアが張り詰め始め、一触即発の気配を孕みだしたその時。不意に眩しいほどの光が暗闇を照らした。

 一時的にホワイトアウトしたポイズンキャットの視覚は瞬時に回復し、即座に視覚情報を脳へと送り始めた。ポイズンキャットは辺りを見渡しニューロンの速度で状況把握を進める。彼のいる場所はタタミ敷きの四角い小部屋であった。

 それはシュギ・ジキと呼ばれるパターンで、十二枚のタタミから構成されている。四方は壁であり、それぞれにはアジサイ、スイセン、キョウチクトウ、トリカブトの見事な墨絵が描かれていた。

「……」周囲には9人のニンジャが同様にカラテを構え立ち尽くしている。電灯が照らすその顔は皆一様に似通った赤ら顔である。彼らはポイズンキャットと同じく皆ニンジャぴるすなのだ。ニンジャぴるすの中によく見知ったピトフーイ、パフアダーの顔を見つけ、ポイズンキャットはわずかに安堵した。

『ドーモ、皆さんゴキゲンヨ』不意にスピーカーから声が響き、壁の大型ディスプレイに白衣姿の一人の男が表示される。白い顔の男。『私はプロフェッサー・ピー。ぴるすのルーツについて研究している者だ』男は手を合わせ深くオジギし、恭しくアイサツした。

「……ドーモ、ペルビアンです」「ポンピリダエです」「プロヴェスパです」「プラティパスです」「ピトフーイです」「パラコートです」「ピエリスです」「パフアダーです」「ポドストロマです」「ポイズンキャットです」ニンジャぴるす達がそれぞれ手を合わせオジギを返した。アイサツをされれば応じねばならぬ。勧進帳にも記された神聖不可侵の行為である。

「……アンタ、一体何者なんですけお」大柄なニンジャぴるす、ペルビアンが問う。彼の口許で鋭い牙がギラリと光った。『君たちには私の実験に参加してもらう。そのためにここへ招待させてもらったのだよ』問いを無視されペルビアンは舌打ちする。

「実験?ワケの分からぬ事を……。我々に何をさせようというんですけお」続いてポドストロマがアグラ姿勢のまま問うた。危険な赤色に染まった指が触れるとタタミが燻り煙を上げ始める。『なぁに、簡単な内容だ』

 何をさせられるのか。この狂人は何をしたいのか。次の言葉を待ちながらニンジャぴるすたちが息を飲む。『……君たちは最後の一人になるまで殺し合いをしてくれればよいのだよ!』ゆっくりと口を開けたプロフェッサー・ピーは、突然堰を切ったように狂熱の篭った声で捲し立てた。『今!ここで!』

 顔を真っ赤に染めたその気迫に圧倒され、あるいは意図をはかりかね皆が口を噤む中、真っ先に声を出したのはポンピリダエであった。「……ハ!バカバカしい!ンな事をしてこっちに何の利があるってんですけお?」大きな身振りでわざとらしく肩をすくめる。

「……付き合い切れねェ、俺達は勝手に脱出させてもらうんですけお」ポンピリダエはディスプレイに背を向け壁に手を当てる。壁をカラテ破壊しこの密室から脱するつもりなのだろう。『ああ!待ちたまえ!待つのだ!』プロフェッサー・ピーの慌てる声に耳を貸さず、ポンピリダエは手に力を籠めた。

 その瞬間。ウォウウウウウウ!「ケオーッ!?」唸るような音が鳴り響き、壁の隙間という隙間から黒い霞が溢れ出した。壁に当てていたポンピリダエの右手が一瞬のうちに包み込まれ、次の瞬間には手首から先がケジメされていた。

「ケオーッ!?手が!俺の右手が!」「お……落ち着くんですけおポンピリダエ=サン!」取り乱すポンピリダエを力ずくに抑え、プロヴェスパが己の装束の切れ端で応急的に止血を行う。何が起きたのか理解できぬままポイズンキャットは辺りを見渡し、そして気付いた。……四方の壁、その全てから先ほどの黒い霞が滲んでいる。ポイズンキャットは身震いした。

『だから待てと言っただろうに……。人の話を聞かぬ愚か者だからそうなるのだよぴるす君!……さて、これでもう分かってもらえただろうが……逃げようとすればその通りだ。君たちに選択権など用意してあるわけがないだろう!さあ!存分に殺し合ってくれたまえ!』


 ネオサイタマ郊外。コウライヤの廃研究施設前に3人のぴるすが佇む。

「……本当にここなんですけお?見た感じそんな大層なものには思えないんですけお」両腕をサイバネ置換したぴるすが肩を回しながら尋ねる。「他に間違える建物もあるまい」赤き竜のマントをはためかせながら別のぴるすが答えた。「これはまた恐ろしき気配……予兆なんですけお……ウフフ……」灰色ローブを纏うぴるすがフードの奥で陰気に笑う。

「笑い事ではなく実際そうなんですけお」赤い封筒の中から取り出した手紙を一通り確認しなおし、マントのぴるすは封筒ごと火をつけた。「指令の通りこの地にニンジャぴるす失踪案件の犯人が居るのであれば、それは間違いなく油断ならぬ強敵なんですけお。気を引き締めよ」「アイアイ」「フフ……了解……ですけお……」

 3人のぴるす……コウライヤが送り込んだピルスチームのペンドラゴン、パンチャー、ペニテンスは互いに顔を見合わせて頷き、意を決して廃研究施設の中へと足を踏み入れた。



「……ケオーッ!」ポイズンキャットのチョップ突きがピトフーイの心臓を貫いた。幾度となく背を合わせ戦った戦友。その瞳が悲し気に揺れ、「サヨナラ!」……爆発四散した。シュギ・ジキ部屋には9つの爆発痕が残り、生き残っているのはポイズンキャットただ一人のみ。殺し、殺され、皆死んだ。

 真っ先に動いたのはペルビアンだった。負傷したポンピリダエとそれを手当てするプロヴェスパ、隙だらけの2名を真っ先に潰すべく跳んだ。……そして焦り先走った隙を他ぴるすに突かれ、一番に爆発四散した。それを皮切りに乱戦が開始された。

 混乱し呆然と立ち尽くすプラティパスは首を撥ねられ、なんらかの危険なジツを放とうとしたポドストロマは集中攻撃され、パフアダーは不意打ちに倒れ、プロヴェスパはポンピリダエを庇いパラコートと相討ちになり、ピエリスは殺され、ポンピリダエは死に、そして今、共に生き延びようとした仲間に裏切られピトフーイは死んだ。

「ハァーッ……!ハァーッ……!悪く思わないでくだち……ピトフーイ=サン……!2人で生き残る路なんてありはしないんですけお……!」血に濡れた右手を握り締めながらポイズンキャットが震える。

「こ……これで……これで助かるんですけお……!おい!プロフェッサー・ピー=サン!最後の1人になったんですけお!早く……早く解放してくだち!」誰も居なくなった部屋で叫ぶ。「殺し合った!殺し合ったんですけお!指示通りに!だから早く……」

 その時、奇妙な感覚がポイズンキャットを襲った。「ケオーッ……!?」何かが己の中に流れ込んでくる。許容量を超えた何かが、拒絶反応を無視して体の中に。「ケ……ケオーッ!?ケオアバーッ!?」内側から爆発するような苦痛が全身を貫き、耐えきれず床にうずくまる。

 視界が暗転し意識が途絶える寸前、ポイズンキャットは何かが青く輝くのを見た。


「彼の様子はどうかね」UNIXを操作しながら白衣の男が尋ねる。防護メンポを付け、目元には青いクマドリペイント。……この男こそ、狂気のマッドサイエンティストニンジャ、プロフェッサー・ピーその人である。

「イヒヒ……拒絶反応はこの半月の間想定範囲内をキープ。自我も肉体も時間はかかったもののおよそ回復済み。静かに憩っているんですけお」血に濡れた白衣姿の助手ぴるすが答える。「うむ、それならばよい。……では私も早く決めねばなるまいな」UNIX操作を中断し、椅子から立ち上がった。

 テーブル上の筆を手に取り、白紙の前で己の顎を撫でる。「ウム……決めたぞ」そして一気に筆を走らせ荒々しくショドーした。「彼はポイズンアントゥデス=サンだ。再構築された彼の自我にこの名を覚え込ませたまえ」「ハ、仰せの通りに!」

「……ところで」助手ぴるすは思い出したかのように途中で振り返った。「……どうやらネズミがここに迷い込んだご様子なんですけお」「そう!私はそれについて言おうとしていたのだよペインフル君!」プロフェッサー・ピーは突如興奮し、弾かれたように振り返り助手ぴるすを指差した。

「下位の実験ぴるす君たちを放ち、戦闘データを取りつつ時間を稼がせついでに奴らに処分までさせるアブハチトラズ!我々は移動の準備!以上だ!手早く済ませたまえ!」「イヒッ……!了解なんですけお!ケオーッ!」助手ぴるす、ペインフルは連続高速側転し隣室へと飛び込んだ。

 ペインフルが飛び込んだ部屋には10個の巨大な培養カプセルが並び、それぞれ「PYRE」「PATCHWORK」「PLATINUM GOLEM」「PUTREFY」「PASSION」「PROWLER」「PINGUICULA」「PURPLE SLUDGE」「PEDE」
のショドーが貼られていた。

 そして……嗚呼、なんたる常軌を逸した悍ましき光景であろうか!培養カプセルの中には蛍光色に光る怪しげな液体が満ち、その溶液の中には正気を疑う忌まわしき異形のぴるす達が浮いている!

 ペインフルは無銘の培養カプセルへと駆け寄り「POISON unto DEATH」と書かれたショドーを貼り付け、一瞬の考慮の後「PUTREFY」と「PURPLE SLUDGE」のカプセルを解放した。「行くんですけお!ピュートリファイ=サン!パープルスラージ=サン!獲物を炙り出してくだち!」

 ……蛍光色の液体を滴らせながらカプセルの中からぬたりと出た2体の異形ぴるすは、一方は天井の隠し扉へと、もう一方は排水溝へと消えた。


 KRAAAASH!扉を破壊し、三人のニンジャぴるすが部屋へなだれ込んだ直後、部屋内の全ての機材が連鎖爆発し煙を上げた。「チッ……一歩遅かったか……!」ペンドラゴンが呟く。「どうやらこちらの存在は向こうに既にバレているようなんですけお」

「ヘッ!わざわざ今破壊してるあたり慌てて処分したってのが見え見えなんですけお!」パンチャーがサイバネ腕の内蔵UNIXを起動させながら鼻を鳴らす。「そちらは任せたんですけお。私とペニテンス=サンは周囲を調べる」「任せといてくだち!」

 パンチャーが破壊されたUNIXと己のサイバネ内臓UNIXをLAN接続してデータを探るのを横目に、ペンドラゴンとペニテンスは扉を開けて隣室へと踏み込んだ。

「これは……」ペンドラゴンが足を踏み入れたのは、タタミ敷きの四角い小部屋であった。それはシュギ・ジキと呼ばれるパターンで、十二枚のタタミから構成されている。四方は壁であり、それぞれにはアジサイ、スイセン、キョウチクトウ、トリカブトの見事な墨絵が描かれていた。

 タタミには黒ずんだ血痕が残り、抉れたかのように大きく凹んでいる。周囲には複数の爆発四散痕。どちらもまだそこまで古くはない。血痕を撫でたペンドラゴンは指先にヒリヒリとした僅かな痛みを感じた。指の表皮が僅かに溶けている。

「……最後に連続誘拐されたぴるす達はドク・ジツ使いだったなペニテンス=サン?」「ええ……そのように記憶を……」……ペンドラゴンは全てを察した。「被誘拐ぴるすは全滅なんですけお。恐らくはこの部屋で……」

 その時!KRAAAASH!床が下からの衝撃に爆ぜ、シュギ・ジキを作るタタミの1つが宙を舞う!「「ケオーッ!」」ペンドラゴン、ペニテンスは直前に察知しバックフリップ回避で距離を取った!タタミが地面に落ち、鼻に突き刺さるような刺激臭が部屋に充満し始める。

「ケオアバー……」床を突き破り現れた襲撃者は白く濁った瞳でペンドラゴン達を見、白骨が露になった手を合わせアイサツした。「ド……ドーモ……アバ……ピュートリファイ……デス」その体から黒ずんだ腐肉が垂れて落ち、足の腐肉に溶けて体へと戻る。

「……ドーモ、ペンドラゴンです」「ペニテンスです」両者はそのおぞましい姿に気圧けおされながらも瞬時に立て直しアイサツを返した。

「何なんですけお今の音!」隣の部屋からパンチャーの声!「待機せよ!こちらで迎撃する!」「ケオアバーッ……!」会話が終わるのを待たずピュートリファイが腐肉を撒き散らしながらペンドラゴンへと飛び掛かる!

「チッ!ケオーッ!」「ケオアバーッ……!」ペンドラゴンの蹴りが鳩尾を捉え、ピュートリファイは空中分解しタタミ上に散らばった。「……」ペンドラゴンは構えを解かぬ。……その目線の先で散らばった腐肉がタタミ上で蠢いた。「ケオアバー……」バラバラになろうともこのゾンビーニンジャぴるすは未だ健在なのだ!

 ペンドラゴンは迷わず追撃を加える!「ケオーッ!」口から溢れた炎が竜の形となってピュートリファイを飲み込んだ!「ケオアバーッ……!ケオアバーッ……!」腐肉は苦しげに悶え、先端から炭化を始める。そして逃げ惑うように一つの塊へと戻った。「これで……」

「ケオアバーッ……!」炎の中で腐肉がバスケットボール大にまで縮み……そして突如として爆ぜた!骨と腐肉が周囲一帯へと撒き散らされる!「ヌウーッ……!?」ペンドラゴンはクロスガードで飛来する致命的骨片を防ぎながら呻く。運悪く体内に溜まった可燃性腐敗ガスに引火したのか!?……否!ピュートリファイは自らの腐肉運動で爆散し、その衝撃で炎を消し飛ばすと同時に周囲に腐肉と骨を撒き散らし攻撃したのだ!

 そしてこれはヤバレカバレの自爆などではない!見よ、ペンドラゴンの体に纏わり付く腐肉を!飛び散った腐肉が鎧の隙間から入り込みペンドラゴンを窒息死させんとヘビめいて首を締め付ける!「ケオーッ……!」ペンドラゴンは腐肉を掴み引き剥がすが、脆く千切れてしまい首から離れぬ!「ケオアバーッ……」ピュートリファイの顔無き肉塊に邪悪な愉悦が浮かぶ。

「ケオーッ!」バリア光球で腐肉爆散から身を守っていたペニテンスが跳び、ペンドラゴンを締めつける腐肉を掴み引き抜こうとする!だが、やはり腐肉は脆く千切れ、そして破片同士が互いに再度結合し効果は無い。「ぐっ……ケオッ……!」ペンドラゴンの苦しげな呼吸音が響く。

「ならば……!」ペニテンスは懐からハンドメイスを取り出し構える。……しかし何処を攻撃すれば良い?この悍ましき腐肉を本当に倒す事など……一瞬の思索をペニテンスは振り払った。考えている猶予などない。己の直感を信じよ!「ケオーッ!」ペニテンスはペンドラゴンに背を向け跳んだ!

「ケオーッ!」床を這う肉塊の一つにハンドメイスを降り下ろし力を込める!聖なるバリアの力がメイスを伝い、腐肉を焼け焦がす!「ケオアバーッ……!?」腐肉塊が超自然的な悲鳴を上げ、直接接触していないペンドラゴンを締め付けていた塊や床を這う塊までもが苦しみ悶え出す!効果あり!

「ケオアバーッ……!」腐肉は堪らずペンドラゴンから離れ、ペニテンスの元の腐肉塊を核に一つの塊へと再び凝集を始めた!再度爆ぜようというのだ!「ケオーッ!」ペニテンスは一歩も引かず、ハンドメイスを更に深く、聖なる光を更に強く込める!

 だが、ピュートリファイを殺すには一歩至らぬ。腐肉塊が小さく凝縮し、小さく震えた。……臨界点。「くっ……!」ペニテンスがハンドメイスを手放し後ろへ跳んだその瞬間、腐肉の塊が爆ぜた。「ケオアバーッ……!」尖った骨片が手榴弾めいて四方六方へと高速で飛び散り、一際鋭い肋骨が狙い澄ましたかのようにペニテンスとペンドラゴンの眉間目掛けて飛来する。回避もできぬまま、肋骨クナイの鋭い切っ先が2人の頭へと命中した。

 そして、2人の眉間に命中した肋骨は脆く砕け、骨粉となって散った。……腐肉塊が爆散したその爆心地にカタナが突き刺さり、砕けた小さな青い結晶が散らばっている。腐肉が爆散する寸前、ペンドラゴンの投げたカタナが肉塊の中心を貫き、そして内部の謎めいた青い立方体結晶を両断していた。

「ア……アア……ア……ア……」辺り一帯に飛び散った腐肉塊は……ピュートリファイは苦しげに悶え、そして力無く溶けた。辺りに散らばった骨が脆く砕け散る。「サヨ……ナラ!」ピュートリファイが爆発四散し、青い結晶片は砕け散った。力を失った腐肉が液状になり床に広がる。

「ゴホッ……助かったペニテンス=サン」「ペンドラゴン=サン……今のはいったい……なんなんですけお……」2人は油断なくザンシンしながら周囲を見渡す。「分からん。……だがひとまず死んでくれはしたようなんですけお」警戒を続ける2人の元へパンチャーが駆けて来る。

「オイさっきのは……」「こちらで処理した。だが恐らく今のは先兵……倒されたとなれば更に強力な敵が来るんですけお。データの方はどうだったパンチャー=サン」パンチャーは首を横に振った。「全損なんですけお。慌ててやったにしちゃ抜かりねぇ」「……そうか」

「あの……よろしいですけお……?」そのとき、ペニテンスが声をかけた。「どうしたペニテンス=サン」「先ほどの腐肉が開けた床の穴より……ニンジャ気配が……」

「……」ペンドラゴンとパンチャーは穴の縁に立ち、中を見下ろす。ペニテンスほどの超鋭敏なニンジャ感覚を持ってはいないが、意識を研ぎ澄ますと確かに微かな気配が漂っていた。邪悪なニンジャ存在感が。「……ハ!刺客送って居場所バレてりゃ世話無いんですけお」「……誘い出すための意図的な罠で無ければ、だがな」

(とはいえ、罠でも行かねば手詰まりなんですけお……)ペンドラゴンは顎に手を当てしばし沈思黙考し、二人の顔を見た。二人はペンドラゴンの目を見返し首を縦に振った。「……ゆくぞ」三人は意を決し、穴の中へと落ちてゆく。


「へへへェ……なァんか面白い事になってるッぽいんですけお……!」カプセルの並ぶ部屋。天井の隠し扉を眺め、部屋の隅の強化ガラスケースの中でニンジャぴるすが笑う。

「ようやくツキが回って来たかァ?」彼の襤褸切れめいた装束は端からボロボロと崩れ、その破片は黒い霞となって装束へ飛び戻り再び一体化する。

「そォら……こっちだ……こっちなんですけお……早く……早く来いよ……!ヘヘヘ……!」下顎骨めいたメンポが震え、笑い声が部屋へと響いた。



「イヨーッ!」凛としたカブキシャウトが響き渡り強大な爆発が引き起こされる。「ケオアバーッ……!」紫色の不定形腐肉塊は大きく吹き飛ばされながら粉々に砕け散り、爆風の中で青い結晶が砕け散った。

「サヨナラ!」不定形腐肉塊が爆発四散し、一人の男が排水路を再び歩き始める。


「「「ケオーッ!」」」前転着地により落下衝撃を無効化した三名は即座に背中合わせに立ち周囲を確認する。彼らの降り立った部屋は弱々しく光る蛍光灯に照らされ、無数の強化ガラスカプセルが並んでいた。ペンドラゴンは目を凝らす。カプセルは空だがその内側はまだ湿っている。そして床に伸びる濡れた跡。……何かが抜け出した、あるいは解放された痕跡。

『オイ、こっちなんですけお』不意に声が響き、警戒を続ける三人の視線が一か所へと集まった。彼らが上階で感じ取ったニンジャ気配、その源へと。部屋の隅に設置された強化ガラスケースの中、タタミ1枚ほどの広さのその空間で一人のニンジャぴるすがアグラする。

『ヘヘヘ……ようやく来たんですけおォ……!』ニンジャぴるすは強化ガラスの向こうで膝を叩き愉快そうに笑う。「バカな……貴様……生きていたんですけお」ペンドラゴンは驚きながら眉を寄せ、ペニテンスは怯えるように距離を取った。彼らはこのニンジャぴるすを知っている。

「……ドーモ、ポリューション=サン。ペンドラゴン及びペニテンス、パンチャーです」ペンドラゴンが代表でアイサツし、三人はオジギした。『ドーモドーモ、ポリューションです』ガラスケースの中のニンジャぴるす、ポリューションが軽薄にアイサツを返す。

 ……ポリューション。読者諸氏の中にはこのぴるすをご存知の方もおられよう。かつて身勝手な逆恨みからぴるす大量殺戮を行ったニンジャぴるすであり、その渦中にペンドラゴンとペニテンスは巻き込まれていたのだ。そして最期には駆け付けたカブキニストによって討たれ死んだ……はずであった。

『感動の再会をして早速で悪ィんですけお、オレをココから出してくだち!』「……って言ってるんですけお」パンチャーが判断を仰ぐ。彼はポリューションの邪悪さを知らぬ。「……聞きたいことは山ほどあるが、まずそもそも貴様は何故そこにいる?説明せよ。話はそれからなんですけお」

『チッ……ケチなヤツなんですけお』ポリューションは舌打ちし、耳を穿りながら話し始めた。『話せば長くなるんですけお。……まず、ある日オレは地下水道を歩いていた』人差し指と中指を動かし歩くジェスチャーをする。

『……そしたらなんか変な奴らに捕まって、ここに連れてこられ、こうして囚われのお姫サマってワケなんですけお。以上!』両腕を掲げてけらけらと笑う。『だから、助けてくだち』

 ペンドラゴンは不愉快そうに眉間に皺を寄せた。「……駄目だ。かつての殺戮……今回の件に関しては本当に単なる被害者なのかもしれぬが、貴様も十分コウライヤの討伐対象なんですけお」

『過去は過去だろ!水に流してくだち!オレはあン時カブキアクターに一回ブッ殺されて改心したんですけお!』「信用できぬ。そもそも生きていることからして不審すぎるんですけお」『現にアンタらコウライヤが問題視するほどの事は起こしてねェだろ?』「……問題視されぬ程度の事は起こしているんですけお?」『……』ポリューションは口笛を吹いた。

『……だからァ!過去じゃねぇ!話は今なんですけお!オレを助けてくれりゃ知ってる事を教える!役に立つ!ギブアンドテイク!』「……例えば?」『オレはずっと捕らえられてたからメンバー構成と情報を持ってる!』

「……」ペンドラゴンは思案する。確かに魅力的ではある。長らく捕えられていたのが本当であれば我々よりもこの施設や敵の事を知っているだろう。貴重な情報ではある。……だが、この凶悪なぴるすを解放するリスクと見合うのか?"これ"を本当に信用していいのか?

『アー……』不意にポリューションが声を上げた。「……なんなんですけお」『それともう一つ』ポリューションが付け加える。彼の視線はペンドラゴン達の頭上、通気ダクトを見ていた。『アンタらもソイツらと戦うにはもっと戦力が欲しいんですけお?』

「ケオーッ!」通気ダクトの金属蓋が弾け飛び、中から何者かが飛び出した!「ケオーッ!」ポリューションの言葉からアンブッシュを察した三人は即座にクロス腕ガードし何者かの飛び蹴りを寸前で受け止める!「……チィーッ!」アンブッシュ者は反動でタタミ4枚飛び退き、速やかにオジギした。「ドーモ、パッチワークです」

 そのニンジャぴるすの全身は適当に填められたジグソーパズルめいて継ぎ接ぎで、各部位が全く異なる姿形を持っていた。右腕には白い毛皮と鋭い爪。左腕には青い鱗と鋭利なヒレ。イカめいた触腕が2本。バッタの足。トンボの翅と鳥の翼。顔面の右には虫の複眼と単眼が並び、左にはぴるすの目が2個。……生命への冒涜が如き姿。

「ドーモ、パンチャーです」「ペンドラゴンです」「ペニテンスです」『ポリューションです』「聞きたまえ!我はセンセイの……」「まだ二人……上にいるんですけお……!」パッチワークの言葉を遮りペニテンスが警告する。

「……フン、バレているんですけお。ならば仕方あるまい。降りてくるんですけお!」パッチワークの声に応じ、ダクトから全身が薄緑色のぴるすが飛び降りた。その体表は妖しげな粘液光沢を持っている。「ドーモ、ピンギキュラ、デス」

 続けてダクトからぴるすが体を乗り出し、そして天地逆転したままオジギした。「ドーモ、ピードです」ピードはオジギ姿勢のままワイヤーアクションめいて緩やかにダクトから逆さまに降り、腹這いに着地した。……その胴体は異常なまでに長く、ムカデめいて無数の腕が並んで生えている。コワイ!

「……仕切り直すんですけお!我々はセンセイの命により貴殿らを始末に来た言わば神の使い!速やかに投降すれば慈悲が……」「ケオーッ!」ペンドラゴンの吐き出した炎の竜が宙を舞い襲い掛かる!

「チィーッ!話を聞かない奴らなんですけお!」パッチワークは側転回避!「もう良い!ヤッチマエ!」「ケオーッ!」「ケオーッ!」ピンギキュラ、ピードも動き出す!

『前貸ししてやる!ピンギキュラの奴は触ると溶けるんですけお!素手で触んな!ピードは無数の腕のカラテが危険だ!パッチワークはちゃんと知能があるしキモい体のカラテがアブねぇ!こいつらに殺されたくないなら早くオレを出せ!殺されたいンなら先にオレを出してからにしてくだち!』

「先にピンギキュラとやらを潰すんですけお!ケオーッ!」ペンドラゴンが追加の炎の竜を生み出す!「させぬんですけお!」パッチワークは両腕で炎の竜を滅する!「ケオーッ!」パンチャーがピンギキュラへと飛び掛かる!彼の両腕はサイバネ置換され生身ではない。触れても問題なし!

 パンチャーの拳がピンギキュラを捉える、その寸前。「KEOOOOH!」ピードが長い下半身を振り回しパンチャーを打った。タタミ3枚以上の長さはあろう胴体に由来する超長リーチ!「ケオーッ!?チクショウ!」パンチャーは床を転がりながらピンギキュラを探す。「……居ねぇんですけお!?」

「ケオーッ!」「ケオーッ!?」突如現れたピンギキュラのチョップがパンチャーの肩を打つ!触れた装束が溶けて煙を上げる!「ケオーッ!」反撃のカラテパンチは空を切り、跳躍回避したピンギキュラは再びその姿を消した。パンチャーは拳を構え周囲を警戒する。ステルス機構やジツなどではない。恐るべきニンジャ野伏力により目視しているはずなのに脳が認識出来ぬのだ。

『オイ!聞いてンのか!オレを出せ!』

「ケオーッ!」「KEOOOOH!」ペニテンスは聖なるメイスでピードの頭部を狙うが、ピードは上半身をムカデめいて持ち上げ無数の腕で多重クロスガードすると同時に空いた腕で反撃する!「ケオーッ!」「ケオーッ!」ペニテンスの周囲に生じた光の壁がピードの腕を、そしてピンギキュラの背後からのカラテ介入を阻む!

「ケオーッ!」「KEOOOOH!」パンチャーの拳をピードは無数の腕で防ぎ、頭上からのキックで反撃する。今やピードはUの字めいて上半身と下半身を持ち上げた体勢を取り、上半身でペニテンスと戦いながら同時に下半身でパンチャーとカラテ応報を続ける!なんたる長い体と無数の腕により行われる千手観音めいた超高度なマルチタスク戦闘!

『オレを出せっつってんですけお!』

「ハッハッハ!ピード=サンは何本だか知らんがとにかく沢山腕があり、つまり二本ぽっちの貴殿たちより無限に強いんですけお!ケオーッ!」「ケオーッ!」パッチワークの腕ヒレとペンドラゴンの剣が切り結ぶ!「ケオーッ!」その背中をピンギキュラが不意に襲った!「ヌゥーッ!」赤き鎧が拳を受け止め……表面が溶ける!

「ケオーッ!」ペンドラゴンは振り向きざまに横薙ぎの斬撃を放つ!剣がピンギキュラを捉え、そして傷付けることなく体表面を滑った!体表の粘液だ!「……クソッ!」ピンギキュラは飛び下がり気配を消す。「ケオケオーッ!」「ケオッケオーッ!」パッチワークの両腕と触腕によるマルチプルカラテを連続斬撃で防ぐ!ピンギキュラを追う余裕なし!

オ!レ!を!出!せ!

「ケオーッ!」「ケオーッ!……この際やむを得ん!誰か!ポリューション=サンを解放せよ!」「仕方ねぇ!ケオーッ!……んですけお!ケオーッ!ここは任せたペニテンス=サン!」ワンインチで無数の腕とのカラテ応報を繰り広げていたパンチャーが連続側転で距離を取り、強化ガラスケースへ向かった!「ケオーッ!」その背後へとピンギキュラが現れる!

「させぬ!ケオーッ!」炎の竜がピンギキュラを襲う!「AAAAAAAAARGH!?」ピンギキュラは唸りながら慌てて飛び退き、再び消えた!「ケオーッ!よそ見とはずいぶん余裕なんですけお!」「ケオーッ……!」バッタ脚によるドロップキックがペンドラゴンを打つ!

「……オイ!で、どうすりゃいいんですけお!」強化ガラスをノックしながらパンチャーが問う。『なンかあんだろ!解放ボタンとか鍵とかよォ!それをどうにかしてくだち!』「そんな分かりやすいモンあるわけ……」パンチャーはケース周辺を探る。

「……あった」黒と黄色の警告色テープで囲まれ『解放な』と書かれた赤いスイッチが壁に付いている。「ケオーッ!」パンチャーの拳が保護ケースを砕きスイッチを押し込む!

 ブガー!ブガー!ブガー!警告音が響き、強化ガラスケースが開き始める。開いた隙間から内部の凍えるような冷気が流れ出すよりも速く、一陣の黒い風が飛び出した。「ケオーッ!」黒い靄……否!蠅を纏ったトビゲリが空中のパッチワークを襲う!「ヌウッ!?」

「オイ!ペンドラゴン=サン!アンタはピンギキュラをヤってくだち!オレは相性が悪りぃ!アイツのせいで捕まったんですけお!」「……分かったんですけお!」ペンドラゴンはパッチワークに背を向ける!「逃がさ……」「お前の相手はオレなんですけおーッ!」「チィーッ!」蠅が薄いカーテンめいてパッチワークの前に広がり追撃を許さぬ!

「ケオーッ!」「KEOOOOOH!」ペニテンスのメイスに腕を破壊されながらピードは別の腕で反撃!「ケオーッ!」「KEOOOOOH!」メイスが反撃腕を破壊!ピードは別の腕で反撃!「ケオーッ!」「KEOOOOOH!」メイスが反撃腕を破壊!ピードは別の腕で反撃!「ケオーッ!」「KEOOOOOH!」メイスが反撃腕を破壊!ピードは別の腕で反撃!

 恐るべきニンジャ再生力によりピードの先に破壊された腕は既に完治しつつある!サウザンド・デイズ・ショーギめいたカラテ応報……だが。(ケオォ……クウフク……ナンデスケオ……)ペニテンスの背後に気配を消したピンギキュラが迫っていた。

 ピンギキュラはペニテンスの無防備な背中へと必殺のカラテを構える。獲物を殺して喰らう、ただその原始的な欲求を満たすために。「ケオーッ!」ピンギキュラが心臓を穿つチョップ突きを繰り出した、その瞬間。「……そこだ!ケオーッ!」炎を纏った剣がピンギキュラを捉えた!「ケオーッ!?」

 類稀なるニンジャ野伏力により認識レベルで気配を消すピンギキュラであってもカラテを行う際には気配を露にせざるを得ない。そして、彼はこの戦闘中常に隙のある者への背後からの不意の一撃だけを狙っていた。プリミティブな狩猟本能に由来する合理的であり、そしてワンパターンなカラテ。その隙をペンドラゴンは見逃さぬ!

「ケオーッ!」「ケオーッ!?バカナ……!?」剣は体表で滑ることなくピンギキュラを捉えている!カラテを受け流す消化液を、潤滑油めいた粘液をカトンが焼き乾かしているのだ!「ケオアバーッ!」刃が断頭処刑の如くピンギキュラの首筋にめり込み、その首を撥ねた!

「KEOOOOH……!?ピンギキュラ=サン……!?」ピードは仲間の死にほんの一瞬気を逸らした。1秒にも満たぬ些細な時間。だが、ニンジャのイクサにおいてそれは致命的な隙であった。「隙ありィーッ!」パンチャーのサイバネ腕が各部から炎を噴出し、右拳がジェット加速する!「ケオォーッ!」音速の拳がピードの腹に突き刺さり大穴を穿つ!「KEOOOOOOH!?」ピードは巨体をムカデめいてくねらせ悶絶!

「ケオーッ!」震えるピードの体を駆け登り、ペニテンスが頭部へと全力でメイスを振り下ろす!「KEOOOOOOH!?」ピードの硬い頭蓋が割れメイスが脳へとめり込む。そして!「ケオーッ!」聖なる光がペニテンスから溢れ出し、メイスを通じてピードの脳へと流れ込む!

「ケオアバババババババァーッ!?」ピードの目から、耳から、口から、鼻から光が溢れ出す!「ケオーッ!」「ケオアバーッ!」パンチャーの左サイバネ腕から仕込みカタナが展開し、ピードの長い体を二つに等分する!「ケオーッ!」ペンドラゴンが床に落ちたピンギキュラの頭を踏み潰す!

「「……サヨナラ!」」二体の異形ニンジャぴるすは同時に爆発四散し、爆風の中で青い結晶が砕け散った。

「ヌゥーッ……!これは……ケオーッ!……言う所の形勢不利で……ケオーッ!」パッチワークは蠅をいなしながら状況判断する。「ケオーッ!」バッタ脚でポリューションから飛び退き、そのまま連続バックフリップで扉の前まで移動した。

「……いいか!貴殿ら!良く聞いてくだち!我は撤退するがこれはセンセイへの報告の為の正当行為であり敗走などでは……」「「ケオーッ!」」炎の竜と蝿がパッチワークを襲う!

「チィーッ!ともかくサラバなんですけお!」パッチワークは炎の竜と蝿を避けて扉から転がり出ると、飛び跳ねるような独特のスプリントで廊下を走り去る。

「……奴の逃げ行く先に十中八九黒幕有り!追うんですけお!」「「了解!」」「へへヘェ!」ペンドラゴン達は廊下へ飛び出し、パッチワークを追って駆け出した!



「イヨーッ!」「ケオアバーッ!?」内部浸透する衝撃に内臓を破壊され、体を金属めいて超硬質化させていた巨体のニンジャぴるすが倒れた。その体がすでに虫の息であったもう一体のニンジャぴるすを押し潰し、二体のニンジャぴるすは爆発四散した。「「サヨナラ!」」


 BZZZ……BZ……BZZZZZ……古ぼけた電気ランプが悲鳴を上げながら光り、薄汚れた研究室を照らす。

「ケオーッ……リンピオトーシ……カイジンリッツァイゼン……」部屋の中央にザゼンするぴるすがブツブツとネンブツめいて呟く。彼の体は松明めいて燃えており、時折激しく炎を噴き上げる。

「オイ!パイアー=サン!テメェの炎アチーんですけお!」「リンピオトーシ……カイジンリッツァイゼン……」文句の声もパイアーの耳には届かぬ。

 BZZ……KABOOOM!老朽化した電球の一つが突如爆ぜ、ガラス片をまき散らした。「ケオーッ……!久々に起こされたと思ったら部屋は埃塗れ、ルームメイトは火柱、電球は爆発……マジでクソなんですけお!」体中に危険な有刺ツタ植物を絡めたぴるすが騒ぐ。「だがこのクソさが堪らねぇ……!サイコーなんですけお……!」

「最高なら黙っていたまえパッション君。……状況はどうなっているのかね、ペインフル君」高級回転研究イスに座するのはプロフェッサー・ピー。「イヒッ……今確認を……」ペインフルは小型UNIXを操作した。「アアッ!?ピンギキュラ=サンとピード=サンのピルスヴァイタル信号がもう無い!」「なにっ!?」

「ヌウーッ……!」プロフェッサー・ピーが唸る。「これで今何体目かね!」ペインフルは指折り数えた。「ピュートリファイ=サンにパープルスラージ=サン、今のふたり……ああっ哨戒中のプロウラー=サンとプラチナムゴーレム=サンも信号が無い!既に6体ですけお!」

「ウヌヌ……ヒルコの指ももはや片手か……!予定よりかなり早いぞ……早すぎる!これでは資料処分と移動の時間が足りぬではないか!コウライヤ本隊でもない相手に失敗作達はともかくプラチナムゴーレム君やピンギキュラ君までもが……対コウライヤ戦力に痛手……」プロフェッサー・ピーは爪を噛んだ。「……いや待て、そういえばパッチワーク君はどうした」「そちらはピルスヴァイタル反応有り、生きてますけお!位置情報は……どうやらこちらに帰還しようとしているようですけお」「……」

「……ヌウーッ!」一瞬の思索の後、プロフェッサー・ピーの顔が怒りに染まる!「あのバカ!」机を殴る!「総員迎撃準備せよ!パッチワーク君が敵を引き連れてここまで来るぞ!ペインフル君は"奴ら"を放ちたまえ!」

「ム……戦闘なんですけお……」全身を包帯で覆われたミイラめいたぴるすが立ち上がり、己のカタナを確かめた。紫色の刀身がギラリと輝く。「我が初のイクサか……ウム……多分そうなんですけお……多分……?」「ポイズンアントゥデス君!キミの毒汚染された記憶などどうでもよい!さっさと準備したまえ!」


「パッチワークの奴のソウル気配はこっちなんですけお!」先頭を走るポリューションが十字路を右折する!「合っているかペニテンス=サン!」「私の感覚も……相違なく……!」ペンドラゴン一行も右折!

「……言っておくが、ポリューション=サン」風の如く駆けながらペンドラゴンが言う。「もし反逆の意志や怪しい動きを見せれば我々は容赦しないんですけお」「ハハァーッ!しねェよ!どの路蠅が足りねェんですけお」

「貴様は何に使われた?奴らは何をしようとしている?」ペンドラゴンが問う。「知らねェんですけおアイツらの目的なんか。オレの蝿を奪い取り採取しやがった!それしか知らねえ!」「他に情報はないんですけお?知ってることを教える契約のはずだ」

「ああ、約束通りオレが知ってる事を教えといてやるんですけお!」ポリューションは駆けながら続ける。「アンタらの来た方向からしてピュートリファイ=サンとは戦ったんだろ?……あの腐ってるヤツ」「そいつなら殺したんですけお」「だったら残りは6体!実験体以外も含めば8体なんですけお!」

「まずパープルスラージ=サン!腐ってるヤツ2号!プロウラー=サン!イカレた徘徊者!この二体は目立った何かも無かったし多分そんなに注意はいらねェんですけお」「……その根拠は?」「アイツらの実験とかトレーニングを見てたんですけお。……檻の中はヒマでヒマでよォ!」

「他は……常に燃えてる奴がパイアー=サン。……燃えてるんだから多分カトン使いなんですけお。偉丈夫がプラチナムゴーレム=サンで肉体の硬化をしてた……ハズ。あと……半裸でトゲトゲしたの巻いてる奴がパッション=サンで紫色の包帯男が確かポイズンアントゥデス=サンとかいうヤツ。こいつら二体はよく知らねェんですけお」

「プロフェッサー・ピー=サンと助手のペインフル=サン、こいつらは実験体じゃないし多分黒幕なんですけお。こいつらも能力は知らねェ。オレが知ってるのはこれで全部なんですけお」「……なんかさっきから肝心の情報に『知らない』『多分』が多いんですけおコイツ」パンチャーに後ろからブーイングされ、ポリューションはヘラヘラと笑った。ペニテンスが顔に手を当て呆れたように首を横に振る。

「ヘヘヘヘェ……!なァんて楽しくご歓談してる内に追い付いたみてェなんですけお!」目の前の角を曲がり、重厚な大扉の前でポリューションが立ち止まる。「……確かに……ソウル気配はこの扉の向こうなんですけお……!」「恐らく向こうも迎撃準備はしているはず。警戒……」「ケオーッ!」ペンドラゴンの話を聞かずポリューションは勢いよく扉を蹴破った。

「「「「ケオーッ!」」」」扉が開いたその瞬間、奥からペンドラゴン達へ無数のサッカーボール大の影が飛び掛かった!「ケオーッ!」ペンドラゴンはチョップ反撃!「ケオアバーッ!」謎の影は死亡し床を転がった!その姿は……ぴるすの生首からクモの足を生やした形容しがたき化物!言うなればピルスパイダー!

「「「「ケオーッ!」」」」無数のピルスパイダーが扉の奥から現れる!「こいつら!どんどん来やがンですけお!」ポリューションが踏み潰す!「ケオアバーッ!」「一気にまとめて殺すんですけお!」ペンドラゴンの剣がピルスパイダーをダンゴめいて貫く!「ケオアバーッ!」ピルスパイダーを殺しながら部屋の奥へと突き進む!

「「「ケオーッ!」」」天井からピルスパイダーの群れが糸を垂らし降下する!「ケオッケオッケオーッ!」パンチャーの拳がピルスパイダーを砕く!「「「ケオアバーッ!」」」「ケオッケオッケオーッ!」ペニテンスのメイスがピルスパイダーを砕く!「「「ケオアバーッ!」」」

「「ケオーッ!」」ピルスパイダーは数を減らしながらも果敢に襲いかかる!「クソウゼェんですケオーッ!」ポリューションの体から溢れ出す蠅群がピルスパイダーを貪る!「「ケオアバーッ!」」「ケオーッ!」ペンドラゴンの炎の竜がピルスパイダーを燃やす!「「ケオアバーッ!」」

「ケオーッ!」「ケオアバーッ!」最後の一匹を蹴り飛ばし部屋を進むと、そこは広大なホールであった。何らかの研究発表などに使われていたのだろうその部屋は吹き抜けが3階層を貫き大舞台が広がる、さながら大カブキステージである。そして、その大舞台の上に1人の男が待ち構えていた。

「よく来たなぴるす君たち。歓迎のピルスパイダーは気に入ってくれたかね」研究椅子から白衣の男が立ち上がる。その顔は防護メンポで覆われ、露わな目元には凍えるような青色でクマドリが描かれていた。

「ここまで来た君たちの根性に、そして愚かにもコウライヤなどに従う蒙昧さに敬意を表しアイサツしよう」白衣を翻し手を合わせるその姿には恐るべき圧があった。彼は研究者でありニンジャであり……そして間違いなくカブキアクターだ。「ドーモ、私こそがプロフェッサー・ピー……またの名をカブキルだ」

「ドーモ、カブキル=サン。ペンドラゴンです」「パンチャーです」「ペニテンスです」「ポリューションです」「アイサツも済んだ所早速で悪いが……私は忙しい!ぴるす君風情になど構っている暇はないのだよ!」カブキルが急に興奮し、その顔を真っ赤に染めた。「情緒がイカれてんですけおアイツ」

「という訳で、だ!イヨーッ!来たまえ!」「「「「ケオーッ!」」」」カブキルの合図に合わせ、4体のニンジャぴるすが舞台袖より飛び出した!

「ドーモ、また会ったんですけお!パッチワークです!此度こそは我が真の実力を貴殿らに」「ドーモ……パイアーです」燃えるニンジャぴるすがパッチワークの言葉を遮りアイサツした。「パッションです」有刺ツタ植物を身体中に巻く半裸のぴるすが続く。「ポイズンアントゥデスです」最後に全身包帯姿のぴるすがオジギをした。

「コホン……先のイクサは確かに我の敗北にやや近かった。そこは認めるんですけお」パッチワークが宣言する。「だがあれは低知能ニンジャぴるす2名を引率するハンデを負った上での」「ケオーッ!」「ケオーッ!?」パッションがパッチワークを踏みつけ高く跳んだ!「ケオーッ!」パンチャーが迎え撃つ!

「現場は任せたぞペインフル君」「ハハーッ!」いつの間にか現れた血濡れ白衣のぴるすに呼び掛け、カブキルは舞台の裏へと歩み出す。「逃がしは……」「ケオーッ……!」カブキルを追わんとするペンドラゴンの前にパイアーが立ち塞がった。「オヌシとは……一度相見えたくけお候……」「邪魔な……!」通路を歩くカブキルの姿が黒い靄の奥に消える。

「雪辱を果たす機会が訪れたんですけお!」パッチワークが挑戦的にポリューションを指差す。「貴殿らにあの時のあれが我の実力では無いということを骨の髄まで……」「ケオーッ!」蠅が凝集した弾丸がパッチワークの眉間を狙う!「ヌゥーッ!」ブリッジめいて回避し空中へ飛び上がる!「ええいどいつもこいつも!会話を遮らないでくだち!」「ペチャクチャうるせェんですけお!黙って死んでろ!」

「ドーモ、ポイズンアントゥデスです。……いや、アイサツはもう済んでいたんですけお……?」ポイズンアントゥデスはぼんやりとカタナを構える。装束代わりに全身を覆う包帯には何らかの液体が染み込み紫に変色している。「……」アメシストめいた半透明の結晶で作られたカタナが美しく、そしてどこかブキミに輝く。言い知れぬ危険を感じペニテンスは注意深く身構えた。

 誰に言われるでもなく自然と1対1の状態が作り上げられ、ニンジャぴるす達は己の標的を前にカラテを高め構える。にわかに静まり返ったホールの中、老朽化した舞台証明の一つが弱々しく明滅し……ついに爆発した。瞬間!広大なホールはニンジャぴるす達の壮絶なイクサ場と化す!



「ケオーッ!」「ケオーッ!」階段を駆け上がりながらパンチャーとパッションはミニマルなカラテ応報を繰り広げ、吹き抜けの最上階である3階に到達!「ケオーッ!」「ケオーッ!?」パンチャーの右ストレートがパッションの顔面へと突き刺さる!体中に巻き付けた有刺ツタ植物もサイバネ腕の前には無意味だ!

「ケオーッ!」「ケオーッ!?」続けざまの左ストレート!「相性悪かったな!ケオーッ!」「ケオーッ!?」右ストレート!「クソがッ!」折れた鼻を直しながらパッションは後ろへ跳ぶ!「イテぇんですけお!クソッ!いいパンチしやがって!……いい!最高だ!もっとくだち!」その傷口がみるみる内に癒えてゆく。「チッ……気持ち悪ぃヤツなんですけお……!」舌打ちし、パンチャーはサイバネ腕を構え直した。

 頭上!ホールの空中をパッチワークが飛び、それを蠅の群れが追う!「ケオーッ!」パッチワークは高速飛翔しながら蠅群を叩き落とす!「ヘッ!1匹2匹殺してもなンにもなんねェんですケオーッ!」蠅の群れを纏い飛ぶポリューションは吹き抜けの中央を陣取り、ジツの蠅を追加で生み出す!「おのれ!コシャクなんですけお!……我がカラテに恐れをなし真向勝負を避けた判断力は称賛に値するが!」

「……だが!この蝿共のすっトロい飛行速度では我が耀かしき二対の翼に追い付くことなど出来ようはずもないんですけお!見るがいい!この速……」「ケオーッ!」ポリューションが槍状に密集した蝿群を投擲!「ウヌーッ!」空中旋回し避ける!

 大舞台上では天井にまで届かんばかりに火柱が立ち上がる!「ケオーッ!」「ケオーッ……!」ペンドラゴンの吐いた炎の竜を飲み込み、パイアーの体から昇る炎は勢いを増す!(相性が悪いか……!)ペンドラゴンは舌打ちしながら腰の剣に手を添えた。タタミ4枚以上離れてなお、パイアーの激しい熱放射が鎧を焼きペンドラゴンの身をジリジリと焦がす。

「ケオーッ!」踏み込みとともに放たれた鋭いイアイがパイアーを正中線で両断!「ケオーッ……!」だが、両断されたパイアーの姿は揺らぎ、そして消えた。……蜃気楼だ!熱気が生み出す光の屈折をパイアーは本能的に理解し、使いこなしている!「ケオーッ……!」「ケオーッ!?」揺らぐ大気の奥から瞬時にワンインチ距離まで跳んだパイアーが膝蹴りを打ち込む!

「ヌゥーッ……!」ペンドラゴンは咄嗟に背後へ飛び退くことでカラテ衝撃を減退させ、大きく距離を取りカラテを再び構えた。膝蹴りを受けた特殊強化ナノカーボン製の鎧が、その高耐熱性をもってして熱に歪み燻っている。

「我が素体の第一候補でありながら捕獲能わずと聞いたが……この程度なんですけお……?」パイアーの姿が炎の向こうで揺らめく。「期待外れ……つまらぬ薪よ……」

 ホールの吹き抜け2階!不可思議な紫色クリスタル結晶のカタナをポイズンアントゥデスが上段に構える。「ウム……ケオーッ!」「ケオーッ!」無造作に振り下ろされたカタナを光の壁が拒む。KRACK!甲高い音を立ててカタナが折れ、床に落ちた刃が砕けた。「ム……?」ポイズンアントゥデスは飛び退き、折れたカタナを見ながら不思議そうに首を傾げる。

(一発で折れた……強度は思ったほどじゃないんですけお……?)ペニテンスは注意深くポイズンアントゥデスの様子を伺いながら光球バリアを解除した。休息も取れぬままの連戦。これ以上ジツを多用すればガス欠もそう遠くない。ペニテンスは静かに息を整え、そして。

「……ゴホッ」ペニテンスはむせた。彼の周囲の空気が、電灯の光を受けてダイヤモンドダストめいて紫に煌めく。……砕けた結晶の微細な粉塵が舞っている。ポイズンアントゥデスが生み出す紫のクリスタルはそれ自体が高濃度の劇毒結晶であり、戦えば戦うほどに砕けた結晶粉塵が空気中を飛散し空間を汚染する!

「ウム……?……どうにも……こうなんですけお……?」ポイズンアントゥデスがカラテを込めると毒水晶は伸長し、新たな刃を作り出す。「ゴホッ……!」ペニテンスは鼻血を拭いながらメイスを構えた。様子見などと悠長なことは最早できぬ。時間をかければかけるほどこの研究ホール全域が汚染され、己のみならず全ての戦況に影響を与える危険存在!

「分かってきた……いや……元々分かっていたんですけお……?そう……こうなんですけお……」ポイズンアントゥデスがカタナを構え、振りかぶる。それは先程の無造作な太刀筋とは比ぶべくもない鋭いイアイ!この僅かな間でポイズンアントゥデスの中で何らかの最適化が始まっている!

「ケオーッ!」ペニテンスはイアイに対し正面からメイスを振り下ろした!「ケオーッ……!?」カタナが砕け、ポイズンアントゥデスは弾かれたボールめいて吹き飛ばされる!「ケオーッ!」砕けた刃が粉塵となり一層色濃く空気を染める中へペニテンスは追撃すべく飛び込む!最適化が成されていない今が最大の勝機!

 だが、寸前でペニテンスは足を止め飛び退いた。彼の研ぎ澄まされたニンジャ第六感が死を予感し踏み留まらせた。次の瞬間には粉塵を切り裂いてツララめいた鋭い結晶が四方六方へと伸長していた。

「なるほど……こういうことなんですけお……」伸びた結晶が枯れるように自壊し空気をより濃く汚染する中、粉塵の奥から現れたポイズンアントゥデスは全身に紫水晶の鎧を纏っていた。「ウム……掴めてきたんですけお……」(カラテ最適化の速度が想定より遥かにハヤイすぎるんですけお……!)ペニテンスの頬を汗が伝う。

 このまま戦闘が長引けばポイズンアントゥデスのカラテはどこまで伸びる?……分からぬ。一秒でも早く殺さねばならぬ!メイスに聖なる光を纏わせながらペニテンスが跳ぶ!「ケオーッ!」横振りのメイスがポイズンアントゥデスの側頭部に打ち込まれる!水晶の兜が砕ける感触にペニテンスは致命打を確信した。

 頭を砕かれたポイズンアントゥデスは大きく仰け反り……踏み留まった。彼の頭は砕けてなどいない。水晶兜は耐えきれず砕けたのではなく、あえて砕けることでメイスの威力を大幅に弱めたのだ。……判断ミス。ペニテンスのニューロンが加速し、時間が泥めいて鈍る。

 カラテ最適化があまりに早すぎる。致命打が読み違えである以上、当然ダメージで仰け反ったというのも読み違えであろう。「ケオーッ!」背後を振り向くような捻れた体勢でポイズンアントゥデスはカタナを構え、振り返りながら鋭く斬り上げる。恐らくは光の壁でも防げぬ太刀筋。鈍化した視界で迫るカタナを目視しながらペニテンスは死を覚悟した。

「させっかってんですけおーッ!」「ケオーッ!?」死角から突如飛来した物体が衝突し、ペニテンスは床に倒れた!「やめッケオーッ!?」悲鳴を上げたのは……パッション!パンチャーと戦っていた彼は一瞬の隙を突かれ、3階から吹き抜けを通して2階へとアイキドーめいて投げられたのだ!「ケオアバーッ!」パッションの体が袈裟状に切断され床に転がる!「ウム……?何事なんですけお……?」

「ケオーッ!」「ケオーッ……!?」パンチャーの飛び蹴りが脇腹に突き刺さりポイズンアントゥデスはきりもみ回転しながら吹き飛ばされる!「ゴホッ、ゴホッ……クソ!」飛び蹴りにより砕けた毒水晶の鎧が危険な粉塵となって舞う中でパンチャーはむせながらサイバネ腕を操作する。左腕の側面から展開式防塵ガスメンポを取り出し、一つを装着しながら予備をペニテンスへと投げた。「付けとけ!これで防げるんですけお!……多少は!」

「ゴホッ……!確かに『多少は』みたいですけお……フフ……フ……」「ヘッ!簡素な装備だから仕方ねぇんですけお!」軽口を叩きながらカラテを構える二人に向かい、粉塵の中から人影が現れる。鎧を再生させたポイズンアントゥデスが。「なるほど……ウム……よく分かってきたんですけお」その手には紫水晶で精製されたスリケンが握られていた。


「ヌゥーッ……!同士討ちなどと能の無い仲間どもめが!ケオーッ!」「ケオーッ!」空中ではパッチワークとポリューションのドッグファイトが続く。パッチワークの攻撃は蠅群に阻まれポリューションには届かぬ。だが、同時にポリューションも有効打を決められない。ピルスパイダー死体を貪り幾らか増えたが、それでもまだ蠅が足りぬ。

「オナカマを助けに行かなくていいのか……よッ!」「ケオーッ!バレバレな挑発……フレンドリーファイア狙いが分からぬとお思いか?ケオーッ!」「ケオーッ!」巻き添えなど気にしないポイズンアントゥデスとパイアーの大規模ジツ行使により、パッチワークの行動可能範囲は大幅に狭められている。

 だがそれはポリューションも同じことである。毒と炎、どちらも蝿の弱点。近寄ることもサポートもできぬ。「ケオーッ!」「ケオーッ!」膠着状態が続く!


「ケオーッ!」ペンドラゴンのイアイがパイアーを切り裂き、その姿が揺らいで消える。ペンドラゴンの鎧には無数の焦げ跡と凹凸が刻まれている。無数の蜃気楼が現れては消え、紛れるように本体がカラテを浴びせる。パイアーは近くにいるのか遠くにいるのか、右にいるのか左にいるのか、あるいは後ろか……。

 鎧から滝のように滴る汗が床に水溜まりを作り、照り付ける灼熱がそれを蒸散させる。視界が霞む。蜃気楼ではない、急激な脱水に体が悲鳴を上げているのだ。ソウルの影響により炎や熱に対して高い耐久力を誇るペンドラゴンだが、それでもおそらくは幾ばくの猶予も残されていないだろう。

 つまり、パイアーが回避と撹乱に専念すれば打つ手はない。(……幸いにも奴はこちらに何らかの執着を見せ、そして侮っている。ならば……)ペンドラゴンは一歩踏み出し、そしてふらりと力無く膝をついた。

「……もう限界なんですけお?」大気が揺らぎ、燃え上がるパイアーがペンドラゴンのすぐ傍らに現れる。「実につまらぬ……不完全燃焼にもほどがあるんですけお……苛立たしい……!我が炎は燃え足りぬ……!」パイアーの感情の高まりに合わせ、さながら間欠泉めいて炎が吹き上がる。

「せめてオヌシの薪を焚べ……我が溜飲を下げるんですけお……」表面が炭化した黒い右腕がペンドラゴンへと伸び、その首を締め上げた。「グ……」ペンドラゴンが苦しげに呻く様を見て、パイアーの炭化した顔が邪悪な愉悦に歪んだ。

 迸る灼熱がペンドラゴンの肌を焼き、手が触れた首元からは肉が焦げる不快な臭いと煙が立ち上る。並大抵のニンジャぴるすであれば既に消し炭と化しているであろう焦熱にペンドラゴンの体は抗っている。……だがそれももはや限界。体が燃え尽きるのが先か首が折れるのが先か、あるいは窒息死か。

 SLASH!ペンドラゴンの体がパイアーから離れた。パイアーは訝しんだ。ペンドラゴンを締め上げる右腕がその付け根から……肩から切断されている。ペンドラゴンの手にはカタナ。膝をついたのはブラフか?我の接近を誘うための……。SLASH!カタナが首を切断し、パイアーの頭が床に落ちる。

 パイアーの生首が激しく燃え上がり、己の炎に焼かれて塵に消える。首無しの体がぐらりと揺れ……しかし、そのまま立ち直った。ペンドラゴンは眉根を寄せる。首を掴む腕が離れぬ。どころか一層強い力で首を締め上げ始める!「グ……ケオーッ……!?」

 パイアーは死んでなどいない!「ケオーッ……!」ペンドラゴンのケリキックがパイアーの鳩尾に刺さる!「……」反応無し!「ケ……ケオーッ……!」ペンドラゴンのイアイがパイアーの胴体を腰から切断する!だが!「……」反応が……無い!

 切断された胴体が頭と同様に炎上し始め、次いで下半身が炎上し、そしてペンドラゴンを締め上げる右腕も燃え上がる。パイアーの肉体全てが灰塵と化して散る。……それでもペンドラゴンの拘束は解けぬ!炎が意志あるかのように首に巻き付き離さない!パイアーの肉体を焼き尽くした炎は、今や人を象って燃え盛っている!

『肉体など……枷にすぎないんですけお……失ったとて……どうと言うことは無し……!』炎が、パイアーが嗤う。「グゥッ……ケ……ケオーッ!」ペンドラゴンのイアイは炎を通り抜ける。炎と化したパイアーはもはや実体を伴わぬ。「カーテンと腕相撲しても疲れるだけ」ミヤモト・マサシの残したコトワザの如く、ペンドラゴンのカラテはパイアーをすり抜けてしまう。

(ケオーッ……!)ペンドラゴンはもはや声も出せぬ。万事休すか。『このまま……我がカトンの薪と消えよ……!』パイアーが炎の腕にさらなる力を加えた。鉛筆めいて首の骨が容易く折れ、ペンドラゴンは爆発四散する……はずであった。

『……?』パイアーは訝しむ。力を加えてもペンドラゴンの首が折れぬ。どころか、己の手がペンドラゴンの首に押し返され始めている!『なんだと……!?』「やむを……得ぬ……!ケオーッ……!GR…GRRR…!」ペンドラゴンの声が獣めいて歪む!

『これは……奥の手か……!』「GRRRR……!」唸り声が響き、ペンドラゴンの首に、顔に……全身に深紅の鱗が生じる!「GRRRRRRRR!」爪が鋭く伸び、口はマズルめいて伸び大きく裂けて鋭い牙が並ぶ。頭には角が生え、全身に鋭い棘が生じる。尾が伸び、鎧を突き破って背中に翼が生じる。

 肉体の変化をペンドラゴンは途中で強いて止めた。……彼はこの姿を、この力を忌避している。『良い……!これでこそ我が炎は』「AAAAAAAARGH!」紅き竜人が天を仰ぎ叫ぶ!竜の咆哮が衝撃波となり、体に纏わりつく炎を吹き散らした!『ヌウーッ……!?』

『コシャク……なり!ケオーッ!』離れた位置に再出現したパイアーは全身から火山噴火めいて火炎を吹き上げ、周囲一帯を灼熱の海へと変える!あらゆる生命の存在を許さぬ焦熱が吹き荒れ、竜人を襲う!「GRRRR……!」ジゴクめいた熱に竜人は一切動じず、炎の中で平然としながらパイアーを睨んだ。

 パイアーは怯むことなく二の矢を放つ!『ケオーッ!』灼熱の海で風が渦を巻き始め、炎を巻き込んで燃え盛る竜巻となった!辺り一帯に広がる炎はパイアーの体そのものであり、故に自由自在!これこそがパイアーのフーリンカザンである!巨大な火災旋風が竜人の体を包み込んだ!

「AAARGH!」だが、竜人は煩わしげに体を振るい、羽虫でも払うように無造作に火災旋風を振り払った。『……!』パイアーの実体なき炎の顔に驚愕が滲む。「スゥーッ……」竜人は大きく息を吐き、そして深く深く息を吸い込み始めた。周囲の炎ごと空気を吸い込み、竜人の首元で喉袋が大きく膨らんでゆく。パイアーは死の気配を感じ、跳んだ。

『ケオーッ!』大気が揺らぎ、無数のパイアーが生じて竜人へと飛び掛かった!彼らは炎の蜃気楼であり、しかしもはや実体無きパイアーにとっては実物と等しい!炎の肉体と一帯に広がる火の海のフーリンカザンが可能としたカゲロウ・ブンシン!『ケオーッ!』パイアー達は竜人の全方位から一斉に跳び蹴りを繰り出した!

 竜人は構えることなく無防備に炎の跳び蹴りを受け、そして受け止めた。「GRRRRR……」反作用でパイアー達の炎の輪郭が崩れる。『……!』竜人が強く羽ばたくと、全てのカゲロウ・ブンシンが散って消えた。

『アア……』パイアーは観念したかのように……あるいは感動したかのように、小さく唸った。彼の眼前で竜人が大きく口を開ける。パイアーはその喉奥にジゴクを見た。「AAAARGH!」竜人の叫びと共に恐るべき爆風と火炎のブレスが吹き出しパイアーを呑み込んだ。『ケオーッ!?』

「AAAAAAAARGH!」パイアーの炎を竜人の炎が焼き尽くす!『ケオアバーッ!』竜人の吐き出す炎が赤から青へと変わり、そして炎の中で青色の結晶が音を立てて砕け散った。『……ミ……ミゴト……なり……!完全燃焼……果たしたり……!』パイアーの炎が爆風に千々に裂けて消える。『サヨナラ!』パイアーは爆発四散した。

「AAARGH!AAAARGH!」竜人が吼える。その鋭い眼が戦い足りぬとばかりに周囲を見渡し、そして頭上を飛ぶ二体の影に気付いた。「GRRRRR……!」歓喜に喉を鳴らす。竜人は闘争心を満たすべく飛ぼうとし……そして頭を押さえて膝をついた。

 竜人の体が人の……ぴるすの姿へと戻ってゆく。「ハァーッ……!ハァーッ……!」荒々しく息を吐きながらペンドラゴンは己の腕を見た。……ジツを解除したにも関わらず腕の一部には鱗が残っている。「この程度で済んだなら……ハァーッ……!まだマシ……なんですけお……!ハァーッ……!」心臓を押さえ、ボロボロの鎧姿でペンドラゴンはうずくまった。


「ケオーッ!」パンチャーの拳がポイズンアントゥデスのカタナを折る!「ケオーッ!」同時にペニテンスのメイスが頭を狙う!「思い出して……きた……」毒の結晶が盾へと形を変え、メイスを防ぐ!「チィーッ!この……ッ!」パンチャーの左拳!「こう……か?ケオーッ!」ポイズンアントゥデスの腕に毒のガントレットが形成される!拳がぶつかり合う!

「ケオーッ!」ペニテンスが背後からメイスで殴りかかる!毒水晶の鎧が砕け、ポイズンアントゥデスの体へと到達する前にメイスが止まった。「……!」ペニテンスは息を飲む。ポイズンアントゥデスが纏う毒水晶の鎧は不可思議な多層構造へと変化していた。衝撃を吸収し、そして細かく砕けて散るために。……ジツへの理解が急速に高まっている!

「こう……か……?ケオーッ!」毒水晶鎧の表面がにわかに泡立ち、そして無数のタケノコめいた結晶が周囲を襲う!「「ケオーッ!」」二人はバックフリップで回避し距離を取る!「ケオーッ!」ポイズンアントゥデスは逃げる二人へと毒水晶スリケンを投擲!「「ケオーッ!」」メイスとサイバネ腕で弾く!砕けた結晶は毒粉塵となって空気中に散った。

「流石にこれは不味ぃんですけお……!」額から流れる汗を払い、パンチャーが呟く。ポイズンアントゥデスのカラテ・ジツ精度は瞬く間に向上し、今や二人掛かりですら上回られ始めている。ぼんやりとしていたその太刀筋は鋭く洗練され、手探りであった毒水晶を操るジツも今は攻防自在。……これ以上最適化が進めばもはや一縷の望みすらない。

 そして何より、蔓延した毒粉塵が否応なしにタイムリミットを突き付けている。彼らの周囲は今や濃霧めいて紫に霞み、防塵ガスメンポはもはや気休め程度にしか機能していない。パンチャーは垂れ流される鼻血を拭い、横目でペニテンスを見た。

 ペニテンスはパンチャーよりも早くポイズンアントゥデスと戦い始めている。当然毒への被曝時間も長い。「ゴホッ!ゴホッ!」ペニテンスが激しく咳き込み血を吐く。明らかに限界だ。吐血するペニテンスを見、パンチャーは覚悟を決めた。……捨て身の速攻しかない!

「ケオーッ!」パンチャーが跳ぶ!ポイズンアントゥデスへと真正面から迫り、衝突寸前で回転跳躍し飛び越した!「ケオーッ!」ポイズンアントゥデスの迎撃イアイが空を切る!背後に着地したパンチャーは即座にサイバネ腕を構え、ジェット機構を最大出力で稼働させた!「ケオーッ!」

 甲高いジェット音が響き渡り、パンチャーの拳がポイズンアントゥデスの頭を捉える……その寸前。「……ケオーッ!」有刺ツタ植物がパンチャーの腕に絡んだ。「俺を!忘れてんじゃねぇんですけお!」……上半身だけとなったパッションが投げ縄めいて器用に有刺ツタ植物を操り、二人の間に割って入った。

「ケオーッ!」「ケオーッ!?」ジェット速度のカラテパンチがパッションの頭部をトーフめいて砕き、床に叩きつけられた上半身は大きくバウンドしながら慣性で転がっていった。パンチャーの拳はパッションの介入により逸らされ、ポイズンアントゥデスには当たらなかった。「ケオーッ!」ポイズンアントゥデスが振り向きながら毒カタナを振るう。「……クソッ」パンチャーは吐き捨てるように呟いた。

 切っ先がパンチャーへと迫る、その寸前。「ケオーッ!」ペニテンスが飛び出し、ポイズンアントゥデスの腕を掴みイアイを止めた。毒水晶の鎧に触れた手から劇毒が直接ペニテンスの体内へと侵食する。「……ゴボーッ!」粉塵とは比べ物にならぬ毒濃度にペニテンスは激しく血を吐いた。

「おいバカ!手を放せ!それ以上は……!」パンチャーの言葉に応じず、ペニテンスは一層力を込める。ポイズンアントゥデスは振り払おうとしたが、万力めいた力でペニテンスは離さぬ。鎧表面から毒水晶の槍が伸びペニテンスを貫いた。……ペニテンスは離さぬ。「……ケオーッ!」聖なる光球が周囲に形成され、ペニテンスとポイズンアントゥデスを包み込んだ。

 ……二人を包み込んだ光球はわずか一秒と保たずに砕けた。聖なる光がガラスめいて砕けて散り、力尽きたペニテンスは仰向けに倒れる。ポイズンアントゥデスはカイシャクせんとカタナを構える。パンチャーが阻止に動くが間に合わぬ。ポイズンアントゥデスがカタナを振り下ろし……そして苦悶の声を上げた。

「ケオーッ……!これは……!」ポイズンアントゥデスのカタナが、兜が、鎧が、あらゆる毒水晶が白く透き通り、そして溶けた。……聖なる光がポイズンアントゥデスの劇毒を浄化し無害なる液体へと変えた。「ケオーッ……!?」それは体外に留まらぬ。ポイズンアントゥデスの体内を流れる劇毒体液までもが無毒化され流出する!

「こんなもの……!知らないんですけお……!」ポイズンアントゥデスは未知の脅威に悶えながら瞬時に 自己分析した。ジツを受けたのは僅か一秒足らず。無毒化されたのはほんの表層に過ぎぬ……致命的ではない。平静を取り戻し、ポイズンアントゥデスは己を守る毒結晶の鎧を再形成しようとした。

 それよりも速く、パンチャーのサイバネ腕がポイズンアントゥデスの無防備な頭を捉えた。「ケオーッ!」「ケオアバーッ!?」頭蓋が砕け、毒汚染された脳漿が床に飛び散る。鈍化した主観時間の中でポイズンアントゥデスは何かを思い出しそうになった。自分とよく似た誰かの顔を。……だが、何も思い出せなかった。青い立方体結晶が脳漿の中で砕けた。「……サヨナラ!」

「オイ!しっかりするんですけお!」パンチャーは倒れるペニテンスに駆け寄る。……意識がない。ポイズンアントゥデスの死と同時に周囲を紫に染める粉塵は消え去った。己の体調から判断するに体内の毒すらも恐らくは消えている。……だが。「それまでに負ったダメージが深刻すぎるんですけお……!?」パンチャーはサイバネに内蔵された医療機構を作動させた。

 モニタに『心停止な』のミンチョ体が1680万色で明滅し、自動的に電気ショックが放たれる。パンチャーはバンテリンシリンジをペニテンスの静脈に注射し心臓マッサージを続ける。「ゴホッ……」何度目かの電気ショックの後、ペニテンスが弱々しくむせモニタのミンチョ体が『蘇生な』に切り替わった。

「ハァ……ひとまずはこれでセーフなんですけお……」パンチャーはペニテンスをホールの隅へと横たわらせ、床に座り込んだ。


「チィーッ全員死亡だと!?役立たずども……ケオーッ!」パッチワークが蠅群を回転飛翔回避!「これでは……ケオーッ!……て……撤退ィーッ!」パッチワークはカブキルが去った舞台裏通路へと……「……行かせぬ!」

 小さな炎の竜が宙を舞い、パッチワークの羽を焼いた!「ケオーッ!?」飛行能力を失ったパッチワークは地に落ちる!「ク……クソッ……!」パッチワークは起き上がり、バッタの足で……「ケオーッ!」「ケオーッ!?」ポリューションのストンプがバッタ足を破壊した。

「よォ……ちょこまか逃げやがって……」パッチワークの顎を掴み、口をこじ開ける。「ケ……ケオーッ……!?」「メンドクセェ奴なんですけお……お前よォ……」ポリューションの顔が憤怒に燃える。彼は面倒を一番嫌っているのだ。

「ケオーッ!」蠅の群れがパッチワークの口から侵入する。「ケオーッ!?オゴゴーッ!?」「ケオーッ!」内臓へと侵入した蠅は臓器を食い破り、そのまま体内へと侵攻する。「ケオアバーッ!?」パッチワークは生きたまま体を内側から喰い荒らされてゆく。……それはジゴクめいた苦痛。「ケオアバーッ!ケオアバァーッ!」

 体内で増殖した蠅がパッチワークの目や耳や鼻、口から溢れ出し、今度は表皮から食い進んでゆく。ウォウウウウ!ウォウウウウウ!唸るような羽音を立てて彼の周囲を黒い靄が覆う。「ケオアババババババァーッ!」

 パッチワークは爆発四散することも出来ず……やがて蠅が去ったその場には骨の破片一つすら残ってはいなかった。唯一残された青い立方体が崩れて散った。


「オノレーッ!センセイの生み出したニンジャぴるすが全滅……!」ペインフルは泣きながら呻く!「クソーッ!」「……オイ」「これでは次の計画に進むことも出来ないんですけお!」「オイ!」「なんなんですけお!今忙しいんですけお!」ペインフルが振り返ると、そこにはパッションの上半身が居た。「……おお!生きていたんですけお!」

「ボコボコ殴られて仲間に斬られて頭を潰されてとか……クソすぎて最高すぎて死ねねぇんですけお!」このニンジャぴるす……パッションは苦痛を生命力へと変えるジツ、イタミ・ジツを持っている。それ故にポイズンアントゥデスに斬られパンチャーに頭を潰されながらもこうして生きているのだ。

「……けどこれじゃあ不便なんですけお。不便もまあクソで最高だが……どうにか下半身を」「これで計画が進むんですけお!」「……?オイ……下半身を」「イヒッ!イヒヒーッ!」ペインフルの手元で、青い立方体結晶が超自然的な光を放った。



「ケオーッ!」「ケオアバーッ!?」ペインフルが拳大の青い立方体結晶をパッションへと捩り込む!「な……何をアバーッ!?」「イヒッ!これで……研究は無事に次段階へと進むんですけお!」「ケオアバーッ!」「パッション=サン!君には教えておいてあげるんですけお!君たちに埋め込んであった青き結晶、その中枢を今!君に追加で埋め込んだんですけお!」「ケオアバーッ!」

「この結晶は我らぴるすのソウルを集め縫い合わせる結晶。我らぴるすの為のテンプル……!」「アバッ!ケオッ!」ペインフルは天を仰ぎ、叫んだ!「カブキル=サンはこう名付けられた!……ベッカク・テンプルと!」「……ケーオオーッ!」


 KRAAAAASH!「……ケーオオーッ!」巨大なホールを破壊音と叫喚が揺らす!「なんだ!これは……!?」ペンドラゴンが言葉を失う。「オイオイ……」「けお……」パンチャーが呆然と呟き、眠るペニテンスが無意識に呻いた。「コイツ……!」それは恐るべき異形の巨体!「ケオアバァーッ!」

 クジラ、あるいは首長竜めいた規格外の巨体から不規則に生える無数の腕と足!様々な生物を掛け合わせたかのような混沌とした肉体!体から滴り床を溶かす毒の体液!頭部に乱雑に並ぶ無数の眼!もはやぴるすとも、生物と呼ぶことすら憚られる巨獣!「ケオッ!ケーオオーッ!」ホールに収まりきらぬ巨体が壁を、天井を突き破り狂ったように叫ぶ!「イヒィーッ!センセイに代わり!私が命名するんですけお!行ってくだち!ピースレス=サン!」

「ケーオオーッ!」巨獣が腕を振り上げ無造作に振り下ろした!KRAAASH!人の身長よりより遥かに大きい拳が叩きつけられ一撃で床が砕ける!「ケオーッ!」「ケオーッ!」「ケオーッ!」炎の竜で、蠅群で、サイバネ腕で床破片を防ぐ!「……このままだとペニテンス=サンが不味ぃんですけお!」パンチャーはペニテンスを抱え物陰へと退避!

「ケーオーッ!」巨獣が再び腕を振り上げる!「ケオーッ!」阻止すべく跳んだのはペンドラゴン!「ケオーッ!」鋭いイアイ斬撃が腕を斬り落とす!「ケーオオーッ!」だがその腕は無数!別の手により煩わしげに振り払われたペンドラゴンは床に叩き付けられる!「ケオーッ!?」

「オイ!死ンだか!?ケオーッ!」ポリューションは巨大な槍状に蠅群を密集させ投げる!「ケーオオーッ!」足を貫通!だが巨獣は意に介さぬ!「ケオオーオオーッ!」地面を転がるペンドラゴンへ巨獣が腕を振り下ろす!「ケオーッ!」パンチャーがインタラプトし、巨獣の腕を殴り返した!

「……助かったパンチャー=サン!ケオーッ!」ペンドラゴンが炎の竜を吐き出す!「ケーオオーッ!」巨獣の腕が振り払うように容易く火の竜を掻き消し……おお見よ!水飛沫めいて指先から飛んだ体液が空中で紫の水晶クナイとなり降りそそぐ!「「「ケオーッ!」」」側転回避!

「ケオーッ!」ペンドラゴンが跳び上がり腕を斬り落とす!「ケーオオーッ!」「ケオーッ!」別の腕を蹴り反動で飛び退く!「ケオーッ!」入れ替わるようにポリューションが跳び上がり蠅剣で腕を斬り落とした!「ケオッ!オオーッ!」「ケオーッ!」蝿を纏い飛び退く!

(こいつ……動きは緩慢!地道に潰すしかないんですけお……!)「ケオーッ!」ペンドラゴンのイアイ!……だが!「ム・デ・ギ……!」「……なにっ!?」巨獣の腕が硬質化し……剣が弾かれた!「ケーオオーッ!」「ケオーッ!?」巨獣の腕がペンドラゴンを捉えた!

「アイツ!戦闘中に最適化してるんですけお!……ポイズンアントゥデスの奴みたいに!」

「ケーオオーッ!」床を転がるペンドラゴンへ腕が振り下ろされる!回避する暇無し!「ケオーッ……!」正面から受け止めた腕が軋む。「オイ!何してやが……」「ケオオーッ!」巨獣が別の拳をポリューションへと振り下ろす!「アブネ!」蠅群が拳を受け止める!

「ケオオーッ!」ペンドラゴンへ巨獣が拳を振り下ろす!「ケオーッ!」パンチャーがインターラプトし、拳で防ぐ!「ケオオーッ!」巨獣が別の拳を振り下ろす!「ケオーッ!これは……!」蠅群が拳を受け止める!「ケオオーッ!」巨獣がさらに別の拳を振り下ろす!「「ケオーッ……!」」受け止めたペンドラゴンとパンチャーの足が床を砕き沈む!

「ケオオーッ!」巨獣が拳を振り下ろす!「ケオーッ!蠅が……!」蠅群が拳を受け止める!「ケオオーッ!」巨獣が拳を振り下ろす!「「ケオーッ……!」」ペンドラゴン、パンチャーの足がさらに床へ沈む!「ケオオーッ!」巨獣が拳を振り下ろす!「ケオーッ!蠅が足りねェ!」蠅群が拳を受け止める!「ケオオーッ!」巨獣が拳を振り下ろす!「「ケオーッ……!」」床が砕け、二人は半ばドゲザめいた姿勢を強制される!

 恐るべき力による釘打ちめいた打撃が無数の腕により絶え間なく繰り返され、回避も攻めへ転じる事も許さぬ!

「ケオオーッ!」巨獣の拳が振り下ろされる!「ケオーッ!」蠅が足りぬ!ポリューションはクロス腕で受け止める!「ケオーッ!?」……受け止め切れぬ!「ケオオーッ!」巨獣の拳が振り下ろされる!「「グヌゥゥゥーッ……!」」ペンドラゴン、パンチャーの身体が床へと埋め込まれる!

「ケオオーッ!」巨獣がポリューションへ掌を振り下ろす!「クソ……ケオアバーッ!」薄い蠅群を突き破り、巨獣の掌がポリューションを叩き潰した。床が巨獣の掌の形に碎ける。「ケッ……ケオアバッ……」ポリューションはうつ伏せで床に埋まりながら呻いた。

「ケーオオーッ!」ポリューションへと巨獣の腕が再度振り下ろされる。「アバッ……」ポリューションは潰され呻いた。「ケオオオーオオーッ!」無慈悲なる追撃がポリューションへと振り下ろされた。……ポリューションの体が平らに潰れた。「サヨナラ!」ポリューションは爆発四散し、蠅が霧散した。

「クッ……!」「ケオオケーッ!」残る二人を葬らんと、拳が振り下ろされる。ペンドラゴン、パンチャーは必死にガードするが、もはや決壊も時間の問題。「ハァーッ…ハァーッ…!」ペンドラゴンもパンチャーも既に満身創痍であり死にかけと言っても過言ではない。

 ポイズンアントゥデスがパンチャーに残した爪痕は深く、ペンドラゴンもこれまでの戦闘の傷とジツ行使による精神疲労、そして竜人化による反動が重くのし掛かっている。彼らは今まで連続して決して戦い続け、休む暇も無し。体力、スタミナ共に限界なのだ。「ケーオオーッ!」巨獣が腕を振り下ろした。二人はクロス腕ガードを構えたが、もはや防げぬ。拳が二人を纏めて叩き潰す。

 ……その寸前。

「……イヨーッ!」鋭いカブキシャウトが響き、ホール天井に空いた穴から凛としたカブキ装束の男が舞い降りる。巨獣の腕が切断されて落ちた。ファオー!場違いともいえる幽玄なシャクハチ音がホール全体に響き渡る。「ケオオオーッ!」「「ケオーッ……!」」巨獣は気にせず別の腕を振り上げ、ペンドラゴンとパンチャーは必死にガードを硬める。

「……ヒカエオラー!」ホールをつんざく声量でシャクハチ演奏ニンジャぴるすが一喝した。威圧的なニンジャスラングにペンドラゴンとパンチャーが……巨獣すらもがたじろぎ止まる。「ズガタキェー……者共、お言葉を黙って聞き届けるんですけお……!」

 カブキ装束の男は悠然と巨獣にオジギした。「ドーモ、皆さん。私はコウライヤCEOを務めるマツモト・コウシロ、またの名をサルファリックと申します」ファオー!フォワワー!カブキ音楽隊がシャクハチを吹き鳴らす。「ヨッ!コウライヤ!」シャクハチ演奏ニンジャぴるすが合の手を入れる。

「此度の戦い、ここからは私が預かろう。……来たまえ!」「「「ケオーッ!」」」サルファリックの合図を皮切りに、無数のニンジャぴるすが現れる!
「ドーモ、パラワニクスです」「パルヘリオンです」「プラエトルです」「ピュトンです」「パニヒダです」「プルソンです」ニンジャぴるす部隊を代表し、数人のマスター階位ニンジャぴるす達がアイサツした。その全体数は優に100を超える!「「「「ケオーッ!」」」」アイサツを終えたニンジャぴるすたちが一斉に巨獣へと飛び掛かる!

 舞台上のペインフルは驚愕し、叫んだ。「バカナ……コウライヤ本隊だと!?厳重に警戒を……!」「警戒をしていたのだろう」遠く離れたサルファリックがこちらを指差す。「……少し前まではね」ペインフルは眼を見開いた。「……侵入者対応で優先度が下がった隙を突いたんですけお!?」

「ハハ……ペニテンス=サン。お前の悲観が今回は当たりのようだな……我々は囮の餌だったんですけお」巨獣から離れ、ペニテンスの横たわる壁際までフラフラと歩み寄ったペンドラゴンが笑いながら仰向けに倒れ込む。「ハァーッ……やってらんねェ……」パンチャーが壁に寄りかかり座り込んだ。

「ご苦労だった」凛とした声が響く。ピルスチームの傍らにサルファリックが立っていた。「やべッ……!」パンチャーは慌てて口を手で覆う。「君たちの活躍は実際優秀であったよ」「「ケオーッ」」2人のニンジャぴるすがピルスチームへ駆け寄る。医療ぴるすのペインクリニックとプレベント。「ここからは私たちに任せるといい」

「イヨーッ!」サルファリックは跳んだ!壁を蹴り柱を蹴り、瞬時に巨獣の眼前に!「ム・デ・ギ……!」巨獣は腕を極度硬化させ外敵の接近を防ごうとする。「……イヨーッ!」その腕を、サルファリックのカブキチョップが切断した!「……ケーオオー!?」サルファリックの纏う毒がムテキを蝕み、完全性を歪め壊したのだ!

「イヨーッ!」「ケーオオオー!?」腕切断!「イヨーッ!」「ケーオオオー!?」腕切断!「イヨーッ!」「ケーオオオー!?」腕切断!「イヨーッ!」「ケーオオオー!?」腕切断!「イヨーッ!」「ケーオオオー!?」腕切断!「イヨーッ!」「ケーオオオー!?」腕切断!

「ケオーッ!ケオーッ!」パラワンオオヒラタスタッグの遺伝子を持つニンジャぴるす、パラワニクスの頭部大顎が巨獣の足を連続で切断する!「毒体液に留意せよ!」「「ケオーッ!」」彼の弟子であるプロソポコイルスとプリスモグナトゥスが続く!「ケーオオーッ!?」足を一度に複数失った巨獣は体勢を崩す!

「ケーオオーオーッ!」巨獣は体勢を立て直すべく背中に生える複数の翼を動かし始めた!そして圧倒的巨体が……浮き始めたではないか!なんという巨体の質量をものともせぬ物理法則から逸脱したニンジャの力であろうか!「かかれぇい!かかるんですけお!」「「「「ケオーッ!」」」」プラエトルが指令を下すと無数のニンジャぴるすが巨獣の背へと飛び掛かり、翼を攻撃し始める!

「ケーオオーッ!」巨獣は背中に生えた無数のイカめいた触腕で抵抗する!「「「ケオアバーッ!」」」一振りでニンジャぴるすがまとめて無惨に死んだ!「「「ケオーッ!」」」それでも止まらぬ!「ケーオオーオーッ!」「「「ケオアバーッ!」」」「「「ケオーッ!」」」毒の体液を浴びたが仲間が目の前で溶けようともカラテを止めぬ!いくつもの翼をもがれ、ついに巨獣が床へと無惨に落ちた!「ケーオオー!?」「フハハ!死をも恐れぬ連携!これこそ我らが古代ローマカラテぴるす部隊の神髄よ!」

 堕ちた巨獣へ無数のニンジャぴるすが群がりカラテを叩き込む様を見ながら、ぴるす楽士長のプルソンは音楽隊の先導としてシャクハチを吹き続ける。彼の、彼らの演奏は超自然的な力を帯びニンジャぴるす達の力となる!

「ケオーッ!」ピュトンのヘビめいたカラテが巨獣の腕を破壊する!「ケオーッ!」パルヘリオンの身体が光り、超自然の熱を放出して巨獣を焼く!「ケオーッ!」パニヒダのディバインカラテが巨獣の汚染体液を浄化する!無数のニンジャぴるすが、おぞましき超巨体を数で制する!それはゾウを食い殺すバイオグンタイアリの群れが如し!

「イヨォーッ!」鋭いカブキシャウトを放ちながらサルファリックが跳び上がる!巨獣の頭部を目掛けて!「イィィィィィ……ヨォーッ!」鋭いカブキ・ツキが眉間を貫き、分厚い頭蓋骨をも貫通して巨獣の脳へと毒を直接注ぎ込んだ!

「ケオオゴゴゴッ!ケオゴーッ!」毒を注入された巨獣が断末魔の咆哮を上げのたうつ!ニンジャぴるすが巻き込まれて爆発四散するが、それでも生き残り達は果敢にカラテを打ち込み続ける!「ケオオゴオゴゴッ!」巨獣が震えながら一際大きい咆哮を上げ、やがて力を失い地面に沈んだ。もはや己の体を流れる毒にすら耐えきれなくなったのであろうか、巨獣の全身が融解し始め……そして爆発四散した。『サヨナラ!』無数の声が混ざりあった奇妙な断末魔の叫びがホールに響いた。



 研究所から通路の通じる地下水道。「ケオアバババハハハハァーッ!」一人のぴるすに蠅が群がる。
ぴるすはひとしきり悲鳴を上げて痙攣した後、落ち着きを取り戻した。「ハァーッ……ヒデェ目に遭ったんですけお」その顔に下顎骨めいたメンポが生成される。……ポリューション。

 ピースレスとのイクサで彼は叩き潰され死んだはずでは!?実際先の戦闘で彼は死の縁にあった。そしてついに命尽きるその寸前、超常の蠅群へと己のソウルを宿しマッタキな死を装って逃走したのだ。蠅群は無辜なるぴるすを襲いその肉体を奪い……ポリューションはここに再誕した。

「脱走した実験体かなんかか……?ともかくこんなトコにぴるすがいて助かったんですけお……ン?」ポリューションは暗闇に目を凝らす。「アレは……」水路の奥、闇の中に浮かぶ白い影。……白衣姿の男が駆けている。「カブキル……とかなんとかいうヤツ……!」

 ポリューションは身構える。幸い向こうはこちらに気付いてはいないようだ。……捕獲され、蠅を奪われ、痛い目に遭わされ、辛酸を嘗めさせられた元凶。復讐を試みるか?「……ヘッ!」ポリューションは笑い、構えを解いて反対の方向へと駆け出した。「んな事命懸けでやる必要も無し。ここらが潮時……ってヤツなんですけお」

「それに……オレの鼻は良く利く」ポリューションは後ろをチラリと振り返える。「……アイツよりもっとヤベェ奴の臭いがプンプンしやがるんですけお。状況判断が長生きの秘訣、ッてな……!」



 白衣の男が地下水路を駆ける。プロフェッサー・ピー、またの名をカブキル。彼は手にしたハンドヘルドUNIXによって大ホール内のイクサの顛末を悟った。「ヒルコの指の全滅、それはいい。いずれ至るべきフェーズだ。……だがキメラぴるすすらも死ぬとは!」赤ら顔で叫ぶ。「これでは何も……!」

「ドーモ、カブキル=サン」突如、前方の闇から声が飛んだ。「その声……」「ペイルアイズルです。お久しぶり」その姿は闇に溶け込み窺い知れぬ。「ドーモ、ペイルアイズル=サン。カブキルです。……丁度良い、どうにかしてコンタクトを取ろうと思っていたのだ」

「ふむ……なにゆえに?」「ヒルコの手を使ったぴるす実験体が全滅した。キメラぴるすもだ。研究のためにもう一度……」「うーむ……」その姿は闇の中にあり見えないが、おそらくペイルアイズルは顎に手を当てさも悩んだような素振りをしてみせているのだろう。……何故か鮮明に分かる。

「残念ながらそれはできない」「なんだと……?貴様は私のコドク・ジツを頼りにしていたのだろう?いいのか、私が……」「いいよ」ペイルアイズルが闇の奥で笑う。「君に将来性は無さそうだ。フフ……カラダニキヲツケテネ」その気配が闇に完全に溶けて消える。

「待ちたまえ!まだ話は……クソッ!」

 カブキルは地下水路を駆ける。コドク・ジツによりニンジャぴるす同士を掛け合わせ、ヒルコの手から生み出したベッカク・テンプルにより強制的に魂を縫い合わせ生命として成立させる。そうして作り出した改造ニンジャぴるすを戦力とする計画は今潰えた。「それでも……生きてさえいれば次がある……!」カブキルは闇の中を駆ける!「何がヒルコだ……何がペイルアイズルだ……!また一から始めればいい!そしていつかは……!」

「……そんなに急いでどこに行こうというのかね」地下水路に凛とした鋭い声が響き、カブキルは足を止める。「この声は……!」「君に『いつか』などありはしない。ここで終わるのだ」モノトーンを基調としたヤマブシカブキ装束の男がカブキルの前へと立ちはだかった。

「ドーモ、ホワイトパロットです」

「……ドーモ、ホワイトパロット=サン、プロフェッサー・ピーです。貴様……マツモト・コウシロ!会いたかったぞ!」カブキルが興奮する。「貴様のために集めた戦力はもはや果てたが……ここで会えるとは!」「私はもうコウシロではない。君は情報弱者なのかね」挑発にカブキルの顔が真っ赤に染まった。「やかましいッ!貴様はマツモト・コウシロであり、マツモト・コウシロは貴様以外に居ないのだ!」

「私はずっと苦しんだ……貴様の顔をメディアで見るたびに、ぴるすの顔を見るたびに!」叫び、カブキルは防護メンポを外し投げ捨てた。カブキルの秘められた顔が露わになる。青いクマドリが描かれたその顔は眼前のホワイトパロットとよく似ており、そして……同時にその顔はぴるすともよく似ていた。

「……久しいな。ポチョムキン君」「その名は捨てた!私はカブキを殺す!私はカブキルだ!」彼らは互いを知っている。果たして彼らの間に何があったのだろうか。ホワイトパロットとぴるすをAI合成させたコラージュ画像の如き奇怪な顔を持つこの男は一体何者なのか。

 ……かつて、コウライヤの反マツモト派閥が企てた呪わしき計画が存在した。その名はクローンカブキ計画。高位カブキアクターのジーンを盗み、作り出した従順なるクローンカブキアクターと共にコウライヤを乗っ取るというカブキに対する冒涜とも言えるおぞましき計画。

 彼らは秘密裏にホワイトパロット、当時のマツモト・コウシロから血液検査と称してDNAを採取し、そして単なる人クローンではなくコウライヤ内に設備が整いクローン形成自体も容易なぴるす細胞と組み合わせたバイオ生命体として培養を行った。

 こうして無数に作り出されたクローンカブキアクターであったが、その大半はカブキDNAに繊細なぴるす細胞が耐えきれず胚の段階で死亡していった。……しかし、ただ一体だけは生き残り、この世に生まれていたのだ。その個体こそが実験体名「ポチョムキン」……現在のカブキルである!

 程なく反マツモト派閥はマツモト家により直々に解体され、所属者は左遷またはクビ……あるいは処刑された。そして派閥の滅亡と共にポチョムキンは廃棄処分された……はずであった。しかし彼はニンジャとなって処分場から生き延び、ネオサイタマの闇に潜伏していたのだ!

「私は紛れもなくカブキアクターだ。コウライヤの誰よりも純粋な、文字通り生まれながらのカブキアクター……なのに!同時に私は間違いなくぴるすなのだ!この呪われたソウルが、苦しみが貴様に分かるかね!」カブキルが吼える!「私はコウシロではなく、しかしぴるすですらなく!私は所詮ポウシロなのだよ……!その苦痛が!」

「知った事ではない」ホワイトパロットが切り捨てるように言い放つ。「君の懊悩など私には関係ないし、そもそも今の怨み節のどこに私の責任がある?恨むのなら君を産み出した奴らを恨めばいい。そこで私を逆恨みするような人格だから君はぴるすなのだ!」「黙れッ!イヨーッ!」カブキルの右ストレート!「イヨーッ!」ホワイトパロットのクロスカウンターがこめかみを打つ!「グワーッ!」

「ぐ……イヨーッ!」「イヨーッ!」二者のカブキチョップがぶつかり合う!「……グワーッ!」弾かれたのはカブキル!「半分ぴるすの分際で100パーセントハクオウであるこの私に勝てると思うてか!イヨーッ!」ホワイトパロットの回し蹴り!「グワーッ!」

「おのれ……イヨーッ!」カブキルの足首を刈る水面蹴り!「イヨーッ!」ホワイトパロットはその場で跳躍し回避!「イヨーッ!」カブキルは続けざまに上段蹴りを繰り出す!空中のホワイトパロットに回避はできぬ!カブキルの狙い通り!

「イヨーッ!」「……なにっ!?」ホワイトパロットは空中でカブキルの蹴り足を掴み、鉄棒前回りめいて回避し着地後0コンマ2秒で裏拳を叩き込んだ!「イヨーッ!」「グワーッ!」「力の差はこれで分かっただろう」膝を付くカブキルへと、ホワイトパロットが声を掛ける。「コウライヤの軍門に下りたまえ。そうすればその命は保障しよう」

「……舐めるなッ!」カブキルは立ち上がり、構える!「勝手に私を生み出し!勝手に私を処分しようとしたコウライヤなどへ!下るわけがあるまいッ!イヨォーッ!」カブキルは床を強く踏み込み……跳んだ!ホワイトパロットへ己の全身を衝突せしめんと!

 おお……これは!カブキアクターに伝わる暗黒カブキの奥義、トビ・ロッポー!反マツモト派に教え込まれたのであろうその技をカブキルは一分の狂いもなく放つ!クローンとはいえ彼も確かにカブキアクターなのだ!トビ・ロッポーを至近距離からまともに食らえばいかなホワイトパロットと言えど爆発四散は必至!

「……愚か者め!イヨォーッ!」だが!カブキルのトビ・ロッポーが衝突するよりも速く、ホワイトパロットはクラウチングめいて大地を抉るように強く踏み込み……恐るべき速度で跳んだ!「「イヨォーッ!」」KABUKRAAAAAAASH!激しいカブキの衝突が衝撃波を生み出し地下水道を揺らす!「「イヨォーッ!」」両者の間で莫大なカブキエネルギーが凝集され、余剰カブキが紅白の火花となって飛び散り地下水路の壁に焦げ跡を残す!

KABUKOOOOOOOM!

 ついに両者の間で極度圧縮されたカブキが臨界点を超え、激しいカブキ爆発を引き起こす!「アバーッ!」衝撃波に吹き飛ばされ、一人の影が爆炎の中から転がり出た!「ケオアバーッ!」……それはカブキル!黒焦げになり手足を失ったカブキルが水路の中を転がる!

「……ハイクを詠みたまえ」爆炎の中から現れたホワイトパロットが静かに歩み寄り、カブキルへとカイシャクの右手を振り上げた。仰向けに倒れたカブキルは震える口を動かす。「呪われよ……カブキアクター……コウライヤ……!」「イヨーッ!」ホワイトパロットの拳がカブキルの頭蓋を砕いた。

「サヨナラ!」

 カブキルは爆発四散した。……戦いは終わった。



【エピローグ】

「ケ……ケオーッ!放せ!」ペインフルは必死に抵抗を試みるが、その体はぴくりとも動かぬ。ピンニングのジツだ。「君には聞かなければならないことがある……運びたまえ」「ケオーッ!」「クソッ!放すんですけお!」ペインフルがニンジャぴるす達に運ばれてゆく様をピルスチームは壁にもたれながら眺めた。

「……結局の所」パンチャーが不満気に溢す。「俺たちゃ使いっぱしりのテッポダマで……真相についてもなんの話もナシなんですけお」泥の様に眠る重傷のペニテンスへ配慮してか、その声は控え目であった。「まあそんなものだろう。……我々はむしろ喜ぶべきなんですけお。死ぬ前に救援が来たことを」ペンドラゴンが答える。

「サルファリック=サンは我々を見殺しにしてアンブッシュを仕掛けても良かったんですけお。それなのにサルファリック=サンは優しくも我々を助けてくれた。……そう思っていた方が良い気持ちで居られるんですけお」

「……そんなもんなんですけお?」「そんなもんなのだ。世の中」それから彼らは他愛のない話を2つ3つ話し、沈黙したかと思うと寝息を立て始めた。既に気力も体力も限界だった。

 ……コウライヤの真意がどうであれ、真相がどうであれ、彼らは生きている。それで十分だった。



「やはり、ヒルコの腕」ホワイトパロットは思案する。カブキルの用いていた青き結晶。……彼らの言うところのベッカク・テンプル。それは確かにヒルコの腕から生成されていた。「ぴるすマザープラントから何者かが持ち出し……カブキルに渡したとでもいうのか……?」

 ぴるすの災禍が、水面下で進む。


【マッドネス・アンド・カースド・ソウルズ】 
終わり






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 ……無人のカブキステージ。周囲は漆黒に包まれ何も見えぬ。「あの日、ポープ……即ちヨセフ・ニンジャは討たれた」ステージ中央、カブキ装束の男が目を閉じたままアグラ姿勢で語る。


「しかし。あの日のキンカクの鳴動はこの地上に眠る邪悪な古代のぴるすを目覚めさせた」彼の装束の中をアゲハ蝶のエンブレムが舞う。「……そして、北米で起きた彼の災禍だ。あの日オヒガンから蘇った太古の亡者の中にはぴるすも紛れていた」

「デカン高原に舞い降りた巨大なニンジャぴるすは千個の目と千個の頭、千本の足を持っておった。奴は独立国家を作り統治している」

「知っておるかね?南米ベネズエラの雷の止まぬ湖を。そしてその上空、雷雲の中を舞うプラズマというニンジャぴるすを」

「ランドの森を歩く時は気を付けた方が良い。ピノキオ・ニンジャの土地に迷い込んだら最後、木人カラテ兵の餌食だ」

プランクと名乗るニンジャぴるすは道化師姿で都市から都市へと放浪しておる。……意図など分からんよ」

「もうご存知であろうペイルアイズル。ヒルコの腕を持ち暗躍する奴の悲願が成就すれば、世界は混沌へと堕ちるであろう」

「あるいは、未だ深淵に眠るパンドラ・ニンジャ。奴が目覚めればペイルアイズルの暗躍を待つ必要もなかろうな」

「怪しげな魔法陣を描き歩くペンタクル・ニンジャ。荒野を駆ける騎士パロミデス。海を揺らすポロロッカ。他にも沢山犇めいておる」

「そして南米ペルー。雲を裂く霊峰に佇むマチュ・ピチュ遺跡。蘇りし支配者、パチャクテク……ピルー・ニンジャ

 男は立ち上がり目を見開く。「今や世界中に邪悪なるぴるすの因子が散った。奴らは箱入りの養殖ぴるす共とは全く違う、太古から生きる百戦錬磨のリアルニンジャぴるす達だ」

「奴らは時に世界に災禍をもたらし、時に人々を苦しめ、そしてコウライヤへと牙を剥く!」

「撃鉄は既に起こされた。破滅を打ち出す引き金にはもう指が掛かっている。……コウライヤがその指をへし折るのが早いか、ぴるす共が引き金を引くのが早いか」

「さあ!今、ピルストロフィが幕を開ける!」




カブキ名鑑

◆歌◆カブキ名鑑#081【ペルビアン】◆舞◆
フリーランスの傭兵ニンジャぴるす。ムカデ・ニンジャクランのソウル憑依者であり、その巨体をムカデへと変えて戦う。大ムカデとなった彼の牙には致命的な毒が含まれ、咬まれると非常に危険。プロフェッサー・ピーらに誘拐されコドク・リチュアルの最中死亡。

◆歌◆カブキ名鑑#082【ポンピリダエ】◆舞◆
フリーランスの傭兵ニンジャぴるす。ハチ・ニンジャクランのソウル憑依者であり、右腕に装備した毒針から麻痺毒を注入する。プロヴェスパとコンビを組んでいた。プロフェッサー・ピーらに誘拐されコドク・リチュアルの最中死亡。

◆歌◆カブキ名鑑#083【プロヴェスパ】◆舞◆
フリーランスの傭兵ニンジャぴるす。ハチ・ニンジャクランのソウル憑依者であり、左腕に装備した毒針から致死毒を注入する。ポンピリダエとコンビを組んでいた。プロフェッサー・ピーらに誘拐されコドク・リチュアルの最中死亡。

◆歌◆カブキ名鑑#084【プラティパス】◆舞◆
野良ニンジャぴるす。非常に長いバイオバンブーシュノーケルと電気信号探知能力により濁った水中でも優位に戦闘を進め、サイバネアームに仕込まれた隠しカタナには危険な毒が仕込まれている。プロフェッサー・ピーらに誘拐されコドク・リチュアルの最中死亡。

◆歌◆カブキ名鑑#085【ピトフーイ】◆舞◆
コウライヤのニンジャぴるす。サルファリックが指揮する毒ぴるす部隊所属。モズ・ニンジャクランの空中殺法にドク・ジツを組み合わせた危険なカラテを使う。プロフェッサー・ピーらに誘拐されコドク・リチュアルの最中死亡。

◆歌◆カブキ名鑑#086【パフアダー】◆舞◆
コウライヤのニンジャぴるす。サルファリックが指揮する毒ぴるす部隊所属。その頭部はバイオ手術によりヘビのものにへと置換されており、無論その牙には毒を持つ。プロフェッサー・ピーらに誘拐されコドク・リチュアルの最中死亡。

◆歌◆カブキ名鑑#087【ポイズンキャット】◆舞◆
コウライヤのニンジャぴるす。サルファリックが指揮する毒ぴるす部隊所属。鋭い爪に仕込んだ毒としなやかで素早い動きで敵を翻弄する。プロフェッサー・ピーらに誘拐されコドク・リチュアルを勝ち残るも、その自我は消滅させられた。

◆歌◆カブキ名鑑#088【プロフェッサー・ピー】◆舞◆
半カブキアクター半ぴるすのバイオニンジャ。コウライヤを憎み、カブキルの名を名乗る。コドク・ジツにより誘拐ニンジャぴるすのソウルと肉体を混ぜ合わせることで狂気のぴるす兵器を産み出すという彼の野望は、不意にもたらされたヒルコの腕により遂に叶う事となる。

◆歌◆カブキ名鑑#089【ピュートリファイ】◆舞◆
プロフェッサー・ピーにより生み出されたヒルコの指の一人。ソウル拒絶反応からその肉体は腐敗してしまったが、ベッカク・テンプルを核に腐敗肉体を維持させている。その体は既に腐肉と骨のみであり普通のカラテでは殺すことはできない。

◆歌◆カブキ名鑑#090【パープルスラージ】◆舞◆
ヒルコの指の一人。ピュートリファイの実験を元に腐敗した肉体から骨を取り除くことで流動性かつ変幻自在な動きが可能となった。別動隊として秘密裏に潜伏したホワイトパロットと戦闘し爆発四散した。

◆歌◆カブキ名鑑#091【プロウラー】◆舞◆
ヒルコの指の一人。一般ぴるすと変わらぬ姿をしているがその自我は破損しており、決められた巡回ルートを歩きながら目に映った生物全てを襲う。別動隊として秘密裏に潜伏したホワイトパロットと戦闘し爆発四散した。

◆歌◆カブキ名鑑#092【プラチナムゴーレム】◆舞◆
ヒルコの指の一人。使用するニンジャを近しいソウル憑依者に絞ることで自我と肉体が保持された。10フィートの巨体とムテキアティチュードを使った戦いを得意とする。別動隊として秘密裏に潜伏したホワイトパロットと戦闘し爆発四散した。

◆歌◆カブキ名鑑#093【ピード】◆舞◆
ヒルコの指の一人。"足"というパ行ネームの通り、無数に手足が生えた異常な長さの胴体を持つムカデめいた異形。無数の手足によってクロス腕ガードをしたままカラテを振るうことができ、また上半身と下半身を全く別に動かすことで同時に2人を相手にすることも可能。

◆歌◆カブキ名鑑#094【ピンギキュラ】◆舞◆
ヒルコの指の一人。特殊な消化粘液を常にその体表から分泌しており触れた者の消化吸収をする他、攻撃を逸らす役割も持つ。ニンジャ野伏力に優れ、たとえ障害物の無い空間であってもその気配を消し去り相手の視覚から姿を消す。

◆歌◆カブキ名鑑#095【パッチワーク】◆舞◆
ヒルコの指の一人。ニンジャ耐久力を活かし身体の部位をそれぞれ別の生物へと置換している。一方で免疫機能及び再生能力に制限が掛けられているため、時間経過による自己治癒は見込めない。浅慮な面が目立つ。

◆歌◆カブキ名鑑#096【パイアー】◆舞◆
ヒルコの指の一人。カトン使いのソウルが集められており恐ろしいほどの放熱が可能であるが、その代償として常に溢れ出る炎で己を焼き続けている。ニンジャ再生力が高められている他、痛覚は切除されている。

◆歌◆カブキ名鑑#097【パッション】◆舞◆
ヒルコの指の一人。全身に鋭い有刺ツタ植物を絡めることで常に自傷しているマゾヒスト。そのソウルはイタミ・ニンジャクランの物であり、たとえ両断されても苦痛を糧に生き延びる。ペインフルによってピースレスの器とされた。

◆歌◆カブキ名鑑#098【ポイズンアントゥデス】◆舞◆
ヒルコの指の一人。ポイズンキャットの身体を元に産み出され、身体から溢れる毒液を結晶化させ剣や盾を生み出して戦う。砕かれた毒結晶は微細な粉塵となって空気中を漂い、吸引すると非常に危険。

◆歌◆カブキ名鑑#099【ピースレス】◆舞◆
無数のぴるすソウルを集めた存在であるヒルコの指10体のソウルを更に1つへと練り上げた危険な存在。毒の体液やムテキアティチュード、継ぎ接ぎの身体やカトン、無数の腕とヒルコの指達の特徴を併せ持つ。自我は完全に崩壊し、単純な命令以外は受け付けない。

◆歌◆カブキ名鑑#100【ペイルアイズル】◆舞◆
太古より生きるリアルニンジャであり、ぴるす正教会の混乱に乗じてコウライヤのプラントからヒルコの腕を持ち出した張本人。プロフェッサー・ピーへとヒルコの腕を渡したが、その目的、力、真の名前は未だに不明。

◆歌◆カブキ名鑑#101【ペインフル】◆舞◆
プロフェッサー・ピーに付き従う白衣のニンジャぴるす。戦闘能力は皆無に等しいが医学薬学に秀でておりコドク・ジツにより生み出されたニンジャぴるす達の改造、自我改変、修復を担当する。他人が苦しむ様に性的興奮を覚える異常性癖者。

◆歌◆カブキ名鑑#102【パラワニクス】◆舞◆
コウライヤのニンジャぴるすの中でも最高位であるマスター位階のニンジャぴるす。バイオ手術によりパラワンオオヒラタスタッグ昆虫の頭部を持ち、その鋭い大顎は鉄骨すらも挟み切る。

◆歌◆カブキ名鑑#103【パルヘリオン】◆舞◆
コウライヤのマスター位階ニンジャぴるす。ヒカリ・ニンジャクランの力を装備するパワード鎧の内部構造で増幅させ激しい光と熱を放射する。

◆歌◆カブキ名鑑#104【プラエトル】◆舞◆
コウライヤのマスター位階ニンジャぴるす。古代ローマカラテの使い手であり、無数に存在する古代ローマカラテぴるすドージョーの門下生を指揮して自分は戦わない。自らが動けば地は裂け天は砕けると嘯く。

◆歌◆カブキ名鑑#105【ピュトン】◆舞◆
コウライヤのマスター位階ニンジャぴるす。柔軟な身体から繰り出す変幻自在なコブラ・カラテの他、大きなヘビへと姿を変えるジツも持つ。

◆歌◆カブキ名鑑#106【パニヒダ】◆舞◆
コウライヤのマスター位階ニンジャぴるす。ぴるす正教会の司祭であったがコウライヤへと出奔した経歴を持つ。ディバインカラテの使い手。

◆歌◆カブキ名鑑#107【プルソン】◆舞◆
コウライヤのマスター位階ニンジャぴるす。コウライヤ音楽隊楽士長を務めるぴるすであり、シャクハチ演奏によってカブキアクターの登場を盛り上げるほか、ぴるす達を鼓舞し彼らのカラテを高める力も持つ。

◆歌◆カブキ名鑑#108【プロソポコイルス】◆舞◆
コウライヤのニンジャぴるす。頭部に湾曲した一対の大顎を持ち、そのノコギリめいた刃で敵を挽き殺す。身体中を硬い甲殻が覆い、生半可な力では傷一つ付けることはできない。

◆歌◆カブキ名鑑#109【プリスモグナトゥス】◆舞◆
コウライヤのニンジャぴるす。頭部に垂直な短い一対の大顎を持つが武器としては使わず、主にダガーを得物とする。彼には4本の腕があるので一度にダガーを用いた攻撃を最大4回も放つことが可能であり、強い。

◆歌◆カブキ名鑑#110【プレベント】◆舞◆
コウライヤのニンジャぴるす。コウライヤ医療チームに所属し、傷口を塞ぐジツを使いカブキアクターやニンジャぴるすに手当てを行う。普段はコウライヤ医療室で勤務するが有事の際には現場にも駆り出される。

◆歌◆カブキ名鑑#122【ピンニング】◆舞◆
コウライヤのニンジャぴるす。フドウカナシバリ・ジツと麻痺毒のスペシャリストであり、主に暴徒鎮圧や重要参考人の捕縛など非殺傷任務に就く。

◆歌◆カブキ名鑑#123【パラコート】◆舞◆
野良ニンジャぴるす。背中に装着した特殊機械から解毒不能な致死毒を噴霧する非常に危険な存在。プロフェッサー・ピーらに誘拐されコドク・リチュアルの最中死亡。

◆歌◆カブキ名鑑#124【ピエリス】◆舞◆
フリーランスのニンジャぴるす。得物である二本のダガーには強力な神経毒が塗られており、身体の自由を奪ってからなぶり殺すのを好む異常者。プロフェッサー・ピーらに誘拐されコドク・リチュアルの最中死亡。

◆歌◆カブキ名鑑#125【ポドストロマ】◆舞◆
野良ニンジャぴるす。キノコ・ニンジャクランのソウル憑依ぴるすであり、深紅に染まった指先には危険な猛毒が満ちている。プロフェッサー・ピーらに誘拐されコドク・リチュアルの最中死亡。



K-FILES

カブキスレイヤープレシーズンエピソード。ぴるす正教会崩壊後にも関わらず続くぴるす失踪。この事件を解決すべく送り込まれたピルスチームの面々は調査を進めるなかで恐るべき陰謀と狂気の実験によって生み出されたニンジャぴるす達と相対することになる。スクリプトの一話としては異常に長い問題作。


主な登場ニンジャ

ペンドラゴン / Pendragon:コウライヤのニンジャぴるす。ピルスチームのリーダー的立ち位置であり、ズライグ・ニンジャクランのアーチ級ソウル憑依者。炎の竜を操る特殊カトン・ジツの他に奥の手として己の体を偉大なる赤竜にヘンゲさせるジツを持つが、強大なるソウルを御しきれていないため竜化時には正気を失い、肉体の不可逆的竜化も進行してしまう。それゆえ彼はこのジツを忌避し、使用時にも半人半竜の範囲に留める。

カブキル / KABUKill:プロフェッサー・ピーを名乗り非道なぴるす体実験を繰り返す邪悪なニンジャ。コドク・ニンジャクランの高位ソウルを身に宿し、密室内で生物に殺し合いをさせ生き残った一体を力の凝集した危険な生命体に変貌させる秘匿されし禁忌のジツ、『コドク・ジツ』の使い手。ピルスパイダーも彼の生み出したコドク生命体の一種である。

その正体はマツモト家による世襲制の一族経営を快く思わぬ派閥にしてコウライヤの汚点『反マツモト派』によって産み出された、ぴるすの細胞にカブキアクターの遺伝子が組み込まれた半ぴるす半カブキアクターの呪われしバイオクローン生命体である。彼は自虐めいて己をコウシロでもなくぴるすでもない半端な存在『ポウシロ / KPOUSHIROU』と称する。

マツモト家による反マツモト派の大規模粛清の際に存在が露呈し一般ぴるすと同様の手順で処理されたはずであったが、彼は死の寸前にニンジャとなり処分場から逃げ延びていた。その後ネオサイタマ地下水路に住み着き、放棄された研究施設を使いぴるす実験研究へと没頭していった。全てはコウライヤへ、そして己と同じ姿をしながら己と全く異なる存在のマツモト・コウシロへ復讐をするために。

忌むべき存在として産み落とされた彼が、忌まわしき改造ニンジャぴるすを産み出すのは一種の意趣返しである。

ペイルアイズル / Pale Isle:謎めいたニンジャであり、その姿は闇と同化し定かではない。【イニシエイション・オブ・ピルストロフィ】において秘密裏にマザーぴるすプラントへ侵入しヒルコの腕を持ち出したニンジャ本人であり、ヒルコの腕をカブキルへと授けた。闇から滲むように現れ闇に溶けるように消え去る神出鬼没な存在。


ヒルコの指

カブキルがニンジャぴるすを材料に己のコドク・ジツと謎めいた青色立方体ベッカク・テンプル、そして緩衝剤としてポリューションのミニオンである蠅を用いて生み出した禁忌の冒涜的ニンジャぴるす集団。ベッカク・テンプルの基になったニンジャの遺物『ヒルコの手』になぞらえ名付けられた。ジツのみではソウル拒絶反応によりなし得なかったニンジャぴるす同士のコドクを、ベッカク・テンプルと超常の蠅によってなんとか成立させているため大半の個体に自我・肉体的に不安定な面が見られる。

ピュートリファイ / Putrefy:第一の指。使用されたニンジャぴるすは『無作為無選別』。最初に生み出された指であり、腐敗した黒ずんだ肉と鋭く研がれた鋭利な骨、そして核となる青色立方体で成り立つゾンビめいたニンジャぴるす。ソウル拒絶反応により腐敗した肉体をベッカク・テンプルの力によって無理矢理にニンジャぴるすとして成り立たせており、およそ自我と呼べるようなものは持たぬ本能と単純命令で動くだけの腐肉塊である。

パープルスラージ / Purple Sludge:第二の指。使用されたニンジャぴるすはピュートリファイと同様に『無作為無選別』。やはりソウル拒絶反応による腐敗は回避できず、ピュートリファイとの差異を与えるために骨を除去し流体性を与えられた。新たな発見も進歩も得られていない明確な失敗作である。

プロウラー / Prowler:第三の指。使用されたニンジャぴるすは『無作為無選別』。その姿は薄汚れた漆黒のニンジャ装束を纏ったごく普通のぴるすであり、自我は崩壊しているもののソウル拒絶反応による腐敗を完全に免れている。見た目は普通ながら一般的ニンジャぴるすの10倍近い力を秘め、1度敵を捉えると相手が死ぬか命令が解かれるまで執拗に追い続ける。

使われたニンジャぴるすが皆ジツを使えずカラテも貧弱であったことから、カブキルは弱いソウルを使うことで拒絶反応も弱くなる可能性を見出だした。

ピード / Pede:第四の指。使用されたニンジャぴるすは『ジツを持たぬカラテ弱者』。プロウラーから見出だされた理論を実証すべく生み出された個体。腐敗の回避に成功し微弱ながら自我も残る。プロウラーに施せなかった様々な実験が行われ、極めて高いニンジャ回復能力とあらゆるぴるす肉体に対する融和性が見出だされたピードは無数のぴるすの胴体が移植された多腕胴長の異形ニンジャぴるすとなった。触覚に秀で、視覚範囲外であっても皮膚感覚で状況把握が可能。

パッチワーク / Patchwork:第五の指。使用されたニンジャぴるすは『ジツを持たぬカラテ弱者』。プロウラー、ピードと同様の条件で生み出されたが、偶発的ではあるが完全なる自我の保持に成功した個体。本人たっての希望により更なる強化改造が行われ、免疫機能と回復能力に制限をかける代わりに様々な非ぴるす生物の肉体すらも移植に成功した。自分が初の自我完全保持者であることから非常に自尊心が高く高慢。

ピンギキュラ / Pinguicula:第六の指。使用されたニンジャぴるすは『ジツを持たぬカラテ弱者』。パッチワークとの対照実験のために生み出された個体。自我は崩壊まではいかぬものの非常に希薄。ピード、パッチワークとは異なり肉体移植ではなくDNAを導入することでの変異が試され、食虫植物のDNAが用いられた結果、食虫植物由来の危険な体表消化粘液とニンジャ野伏力を持つ危険なニンジャぴるすとなった。

パッチワークの自我との比較から、カブキルは自我保持のためにはニンジャソウルの系統に注目する必要性へと考え至る。

プラチナムゴーレム / Platinum Golem:第七の指。使用されたニンジャぴるすは『ムテキ・アティチュード使用者』。特定のジツ使用者を揃えることでおよそのソウル系統を揃えようと試みた個体。自我自体は低水準に留まったものの副次的に精度の高い強化ムテキ・アティチュードを持つ個体となり、その後の実験に大きな影響を与えた。10フィートを越す巨漢であり、ムテキ・アティチュードを発動しながらの自由落下ボディ・プレスで相手をイカジャーキーめいて潰す戦法を得意とする。

パッション / Passion:第八の指。使用されたニンジャぴるすは『イタミ・ジツ使用者』。パッチワークに続く第2の自我完全保持者。反骨精神に溢れるマゾヒストであり、ロックンロールも嗜む。強化イタミ・ジツにより苦痛を感じさえすれば例え細切れにされようとも生存し肉体再生するが、一方でカラテにはあまり秀でず決め手に欠ける。"あの男"めいて全身に巻かれた有刺ツタ植物は他者の素手カラテに反射ダメージを与えるのみならず、常に己を苛み被虐的快楽を与える自罰装置である。

パイアー / Pyre:第九の指。使用されたニンジャぴるすは『カトン・ジツ使用者』。恐るべき熱量の炎を操り、またカトン熱が生み出す大気の乱れや光の屈折をも使いこなす。しかしそのカトン出力の高さ故に抑えきれぬカトンが常に己を焼き続けており、痛覚切除とニンジャ再生力の強化が施されている。

カトン・ジツを使うニンジャクランは多岐にわたるが、パイアーは拒絶反応を起こすこともなく無事に第3の自我完全保持者となった。これは単なる偶然の幸運というわけではなくジツを幾度も使用しヒルコの手に長期接触した影響でカブキルのコドク・ジツそのものが強化あるいは変質したためと思われる。

ポイズンアントゥデス / Poison unto Death:第十の指。使用されたニンジャぴるすは『ドク・ジツ使用者』。多種多様なニンジャクランが使われながらも自我を完全保持している。強すぎる毒に脳が汚染された影響で肉体と精神、ソウルの相互最適化に時間がかかっており作中時点でも未だ完了していない。

劇毒の体液が体を流れており、この体液を水晶めいて結晶化させ武器や防具として戦う。体液結晶は砕けると非常に微細な粉塵となって大気中に舞い、呼吸と共に体内に侵入し内から肉体を破壊する危険な物質である。ポイズンアントゥデスは本能的に体液結晶の特性を理解しており、あえて結合の弱い砕けやすい結晶を多用し効率的に空間を毒粉塵で満たそうとする。

ヒルコの指最後の一体にふさわしい最高傑作であり、あらゆる最適化がなされていない生まれたての赤子めいた状態でありながらその戦闘能力は極めて高く、またイクサに身を投じることで高速で最適化が進んでゆく。


マスター級ニンジャぴるす

コウライヤのニンジャぴるすの中でも最上位に位置するごく少数のニンジャぴるすたちであり、ぴるすを率いる指揮者やカブキアクターの付き人など特殊な役職を与えられている。

パラワニクス / Palawanicus:パラワンオオヒラタスタッグの遺伝子が組み込まれたニンジャぴるす。4本の腕を持ち、頭部に生えた鋭い大顎はバイオバンブーをも容易く両断する。カブキアクターが居住するリエンの園の環境管理部門の長であり、直属の弟子にあたるプロソポコイルス / Prosopocoilusプリスモグナトゥス / Prismognathusを率いて環境整備やオーガニック梨の管理などを行う。

パルヘリオン / Parhelion:ヒカリ・ニンジャクランのグレーターソウル憑依ぴるす。体格の良い体にコウライヤ特製のパワード鎧を纏う姿は威圧的である。全身から放つヒカリ・ジツをパワード鎧内で収束させることで危険な熱線として胸部機構から放出する。コウライヤの全照明管理責任者であり、カブキステージなどの重要照明にすら携わる。

プラエトル / Praetor:古代ローマカラテ使いのニンジャぴるす。コウライヤの古代ローマカラテぴるすドージョー師範を務め、数多のニンジャぴるすたちに古代ローマカラテトレーニングを施している。地を裂き天を砕くカラテの持ち主であると豪語するが「自分が動くと周囲への被害が甚大になる」という理由からカラテ行使を極力避けておりその実力は未知数である。

ピュトン / Python:コブラ・ニンジャクランのソウル憑依ぴるす。非常に柔軟な四肢から放たれるコブラ・カラテは変幻自在に相手を絞め殺す。敵対ぴるす組織への潜入暗殺を任務とするアサシンニンジャぴるすであり、その存在はコウライヤのぴるす管理事務局内でも重大機密として秘匿される。

パニヒダ / Panikhída:ディバインカラテの使い手であるニンジャぴるす。かつてはプレスビュター / Presbyterという名のぴるす正教会司祭であったが、ぴるす正教会とコウライヤの対立初期に出奔し改名した。その経歴から出奔当時は要注意ぴるすとして扱われていたが、今では(最大級のカブキコードによる首輪付きではあるが)ぴるす達に教えを説き彼らを宗教的に支え導く司祭を任されている。

プルソン / Purson:カブキ音楽隊の楽士長を務めるニンジャぴるす。主に音楽隊のぴるす達を指導し、演奏時には皆の音を先導し導く立場であり、またシャクハチの名手としてカブキショーなどでカブキアクターの登場を盛り上げる役割を担う。彼のシャクハチ演奏にはニンジャぴるすたちを鼓舞しカラテを高める効果がある。


ベッカク・テンプル

青い立方体結晶、日本の伝統的茶菓子であるオブラートに包まれたソーダ味ゼリーにもよく似たそれは、強大なるリアルニンジャの遺骸より作られし不可思議なマジックアイテムである。

いかなる理屈によってかぴるすのソウルをその内に蓄えこの世に縛り付ける性質を持ち、存在の中心核としてヒルコの指たちに埋め込まれている。故にヒルコの指はベッカク・テンプル無しでは成り立たず、逆に肉体を失おうともベッカク・テンプルが存在する限りヒルコの指は、彼らのソウルは現世に留まり続ける。

カブキルがペインフルに管理を任せた拳大のベッカク・テンプルこそが全てのベッカク・テンプルの大元であり、ヒルコの指に埋め込まれたものはそこから切り分けられたいわば子機である。切り離されてなお大元と子機はコトダマ的に遠隔で繋がっており、子機が破損した際には内に蓄えられたぴるすソウルは大元のベッカク・テンプルへと還元される。



メモ

【イニシエイション・オブ・ピルストロフィ】にて完結した「ピルストロフィ・オブ・カブキエイジ」第一部を、新たに始まる第二部へと繋ぐ実験的プレシーズンエピソードとして執筆したのがこのエピソードだ。スレッド連載時にはスクリプトでありながら7日もかけて各パラグラフごとに更新なんてことをした長編であり、我ながら思い切ったことをした恐ろしい作品になっている。

書き始める際に番外的エピソードであることから意外性や最後の最後にカブキアクターが現れるカタルシス、そしてカブキアクターが居ては見えないぴるす同士の争う素顔なんかに重点を置こうと思い、このエピソードはぴるす目線で進めることにした。それで白羽の矢が立ったのがかつてエピソード主役をつとめたこともあるピルスチームだ。彼らを書いていて思ったんだけれど、やはり三人組というチームの描きやすさはすごいね!世の作品に三人組が多い理由がよく分かるよ!

上でも書いた通りこのエピソードはパラグラフ毎に更新をしており、そして各パラグラフは前パラグラフを書き終わりスレッドで公開した後に書き始めていたため実はヒルコの指という存在もカブキルの正体もオチも決まらぬままに物語が走り出してしまっている。これはミスというわけではなく、『話に一区切りがついた状態』で止めてしまうとモチベーションやら勢いやらの関係で話が書けなくなってしまうのが目に見えていたからなんだ。1度話を始めてしまえば否応なしに締め切りが見えてきて動かないわけにはいかなくなる。

……ならば何故リアルニンジャぴるす編である第二部が始まって早々に連載が途絶え今に至るのかという話になってしまう。これには色々な理由があるけれど、一番の要因は『ぴるすが強くマトモになりすぎてしまった』事である。コウライヤを強く大きく見せるために、そしてその上で話を面白くするために僕はぴるす君を強くする道を選んだ。ニンジャでありながら容易く殺されるぴるす君……コウライヤに一撃入れられるぴるす君……コウライヤ相手にカラテ応報できるぴるす君……コウライヤを苦戦させるぴるす君……そうしてついにリアルニンジャのぴるす君にまで至り、ふと僕は自問してしまった。……はたしてこれは本当に有名歌舞伎役者とクソコテのスクリプトなんだろうか。もはやほぼ単なるニンジャスレイヤーのオリキャラ二次創作でしかないのではないか?そんなことを考えている内に筆は重くなり、そして追い討ちをかけるようにPCの不調で書きかけのエピソードや構想、過去作のログなど多くのデータがロストしてしまい今に至るんだ。

けれど、こうして過去作の加筆修正をしていると心の中で沸々とする物を感じる時がある。何かの切っ掛けがあったら、例えばまたいつかスクリプトが盛り上がる時が訪れたりしたら新作を書きたいね。


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