マコちゃんの宝物~絵本の下書き~

 聞いていただけますか?これは、マコちゃんの8年前からのお話です。

 マコちゃんには、とっても大切に思っていたおばちゃんがいました。おばちゃんは、まこちゃんが学校に馴染めなかった時、気さくに、そして普通に付き合って、遊んでくれた人です。おばちゃんは、マコちゃんより15歳も年上でしたが、親しいお友達を作るのが苦手なマコちゃんの、気の置けないお友達になってくれました。そして、山登りに一緒に行ったり、温泉に行ったり、スキーを教えてくれたり、いっぱい、いっぱい、楽しい遊びを教えてくれました。マコちゃんは、おばちゃんが本当に、本当に大好きでした。おばちゃんが仕事を辞めて離れてしまっても、ずっと、ずっと、連絡を取って、いつまでも、ずっと一緒にいられると、そう思っていました。

でも、8年前の2月、おばちゃんは亡くなりました。

 おばちゃんが倒れたのは、11月のことでした。息が止まってしまい、人工呼吸器につながれていました。マコちゃんは、毎日のように、お見舞いに行きました。そして、お歌を歌いながら、いい香りのする油を手に取って、硬くならないで、硬くならないで、と祈りながら、おばちゃんの体をマッサージしました。おばちゃんは、お歌がとてもうまかったのです。おばちゃんは、話しかけても、お返事もありません。マッサージしても、お歌を歌っても、うれしい顔もしません。でも、マコちゃんは、おばちゃんと一緒にいられるだけで、幸せでした。

 おばちゃんのお葬式で、マコちゃんは、目が流れてしまうのではないかと思うほど涙を流し、大きな声で泣きました。おばちゃんが、この世界からいなくなってしまったことが、悲しくて、悲しくて、胸がつぶれるほど苦しかったのです。

 それから、マコちゃんは、こころの病気になりました。それでも、毎日学校に行きました。少しでも、何かをしていないと、自分がダメになってしまうような気がしたからです。でも、お花が咲いても、お友だちとお話ししていても、テレビでお笑い番組を見ても、笑うことも、涙を流すことさえも、忘れてしまっていました。

 8年の月日が流れて、マコちゃんは学校を卒業し、お仕事をはじめました。でも、毎日が辛いばかりでした。それでも、がんばって、がんばって、お仕事に毎日行きました。でも、とうとうたえられなくなり、お仕事をやめました。そうしたら、つきものが落ちたように、心が軽くなりました。学校に行くこと、お仕事をすることに精一杯で、心を置いてきぼりにしていたからです。

 春でした。マコちゃんは気が付きました。おばちゃんがいなくなっても、世界は変わらず美しいということを。道端の、マコちゃんの好きな黄色のタンポポも、菜の花も、明るい顔で見上げていました。おおいぬのふぐりの空色の花も、光を集めるように輝いていました。名前も知らない小さな草花も、一生懸命に、かわいいお花を咲かせていました。やさしいスズメたちは、まこちゃんの足元でさえずってくれました。そして、分かったのです。マコちゃんが、みんなを置いてきぼりにしていた間も、変わらずにマコちゃんを守ってくれる、家族がいたことを。そして、やさしく見守ってくれた、お友達がいたことを。そして、思い出しました。おばちゃんはまわりのすべての人に、普通に、そして誰よりもやさしく、手を差し伸べていたことを。

 マコちゃんは、天国にいるおばちゃんにお話ししました。いつか、おばちゃんに天国で会える日まで、おばちゃんと同じように、まわりのすべての人に、やさしく手を差し伸べられる人になりますと。そして、毎日元気に、精一杯生きてゆきますと。天国でおばちゃんは、きっと気にしていると思うから。

「元気にやっているかい?楽しく生きているかい?無理するなよ。」

 マコちゃんは信じているのです。いつか天国に召されたときは、きっとおばちゃんが迎えに来てくれると。そして、こうお話しするのです。

「いっぱい、いっぱい、楽しみました。精一杯、生きました。」

 今でもマコちゃんは、おばちゃんのことを思い出すと涙が出ます。でも、亡くなるまでの間、毎日お見舞いに行けたこと、お話しできたこと、おばちゃんの肌に触れることができたこと。そのすべてが、マコちゃんの大切な、大切な、宝物になっているのです。

         これでおしまいです。

             お話を聞いてくださってありがとう。


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