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居酒屋だ!

アナログ作家の創作・読書ノート        おおくぼ系

 秋たけなわ、今までの灼熱の日々がウソのように消えて、また秋が来た。
 山はまだ青々としているものの、空のすみわたった大気感は、何かを思わせる。また食の秋でもあり、ひさしぶりに蒲生町の〈にいなそば〉へ足を運んだ。

 以前述べたように、この老舗は、薩摩焼の沈壽官と司馬遼太郎が通ったところである。鮎の出汁をベースにした手打ちのそばの素朴な味……こってりしたパスタやパエリアもそれなりにいいが、時には清流の透明度に触れるのもまたよい。
 で、注文したのは天そばである。やや混んでいたために十五分ほどして揚げたての天ぷらとそばを乗せた長手のおぼんが運ばれてきた。

 そばは、そのまま素でたべてもよいほどの軽やかな個性をもち、そえられた天婦羅のネタが、近隣で取れたてのものであろう。オクラ、カボチャ、ジャガイモ、ナスなど薄い衣をまとい食材をかみしめればにじんでくる適度な温度であげてある。なかに、丸い衣をまとったものがあった。一口食べて分かったのだが、クリであった。栗の天ぷらを味わうのは初めてであったが、天然の甘さがふくよかな安心感を醸し出す、至福の季節の味におもえた。さいごにエビで締めくくった。実りの秋を満喫した一食であった。

 老齢のおかみさんに、かけてある司馬遼太郎の揮毫を写真にとっていいかと、許可をもらったところ、快諾いただいた。これは、司馬先生が自ら墨をすって描いてくださったものだと懐かしそうに話される。淡々とした語り口が老舗のなかにただよい、しずかな秋のひと時を過ごした。

当の揮毫は〈翔ぶがごとく〉とあり、サツマ時代の気概を現わしたものであろう、と思えた。帰り道で、司馬氏の歴史にサツマの時代と天ぷらがからんでくると、そうだ〈てんぷら金〉というものもあったなと、ひとつの言葉が中空に浮かんだ。
 維新回天の時代に、サツマにおいて贋金(にせがね)を造っていた。それは、素材の金属に金銀をかぶせただけのもので、通称天ぷら金と呼ばれたのである。
 この歴史については、徳永和喜の『偽金づくりと明治維新』に詳しく述べられているが、鋳造所がどこにあったかが、いまだに謎として論議を呼んでいる。果ては、隣県の佐土原町もからんでくる。ここは、西南戦争において〈西郷札〉発行の中心地でもあったようだ。そして〈西郷札〉は松本清張の小説によって全国へ広まった。

 この偽金造りは、格好の小説ネタであり、以前からこれを現代にからめてミステリー小説に出来ないかとあれこれ構想を練っているところである。
 こういった古色然とした感慨が浮かんでくるほどサツマは、サツマなのだなーと、しみじみとした感慨がわいてくる。
 〈にいなそば〉という、地域にひっそりとして、なじんだ店、それは、皆が足を止める居酒屋というサロンの雰囲気をもった異世界なのであろう。ひるがえって現代に即して思うと、NOTEも一種のサロン世界であり、皆が集う現代の居酒屋の機能を備えているのではなかろうかと思っている。

 居酒屋にエントリーした客は、各自の思いを、それぞれにつぶやき、周りの客が聞くともなく耳をかたむける。意見があり、泣きがあり、励ましや解説などが入混じり、うっそうとした大仮想空間となっている。そのなかで昨年から参加した私は、物語の語り部をやっていたのだが、ながーい話は一夜では終わらないし、また独壇場になってしまい、客も引いてしまいがちである。それで、今は、自身の創作した小説は紹介程度にとどめおき、別の場にて公開して興味のある方はそちらへご足労くださいとした。
 毎回の投稿は、皆が求めるであろう、軽いおしゃべりやふれ合いにとどめ、この創作・読書ノートでエッセイを主にするように変えた。
 小説は、読者に対しては、あきらかな時間泥棒であり、作品に入り込んでもらわないといけないし、読者をトリコに出来る作品でなければならない。これがなかなか難しいのである。

 で、今回は、POD出版で短篇集を出すことにした。内容は最終的には、①〈岩壁〉これはオイラと姉貴とすうちんが織りなす奇想天外なドラマ。次は②〈ドッペルゲンガー・分身〉で、これは新たに書き下ろしたもので、外交官から衆議院議員の政策秘書へと昇りつめた安東俊介が、分身、作家江夏和史として、ベストセラー短歌集『ひまわりの約束』の著者新田原智美と対談するストーリ―。③〈「かけまい!」 石清水と深山霧島〉は、超栄冠の深山霧島シリーズのひとつで、深山霧島茶碗に対して歴史伝説の石清水茶碗が出現する、ミステリーサスペンスである。最後の④〈百日紅(ひゃくじつこう)の海〉は、歴史小説で、九州文學に掲載時に70パーセントにカットされたものを全編書き直したもの。亜紀代と山陸中尉の時代を超えた愛?。
 以上の四編でもって一冊としてPOD出版にのせた。あと最終校正をして販売する予定である。
 居酒屋のとなりに、ゆったりとした時間を共有し、どっぷりと思いにふける充実した喫茶カフェを開く気分である。小説にとことん付き合ってみたい方は(笑)、開店したらどうぞおこしください!

最期に司馬遼太郎のひとこと、サツマ人に対して「君たちはえたいが知れない」という。読書の秋でもありますね。ヨロピク!


                (適時、掲載します。応援ヨロピク!)



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