8/6(木)晴

三十六歳の誕生日。
夕方から原田が来る。ビーフシチューを作って二人で食べた。指輪を贈られる。特に深い意味はないとのこと。あったら困る。私には結婚願望はない。原田も口ではそういっている。
気分は盛り上がらないが取り敢えず「誕生日のお祝い」的なムードとイベントをこなす。原田は私の気分を知ってか知らずか、健気に喋り続ける。善良なのだ。

父が死んでちょうど二十年。誕生日を迎える度に、暴動を思い出す。安全保障条約締結に、父は殆ど関わっていなかった。単なる外務省の一職員だった。どこから聞き付けたのか愚かな大衆に殴り付けられ踏み倒されて殺されたのだ。その手には私のために買った腕時計が握られていた。

私は無知が悪なのではないと思った。知性のない者が半端な知識を持つことが悪い結果しか生まないのだ。

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