みっちゃんとしづちゃん

みつ子としづ子は双子の姉妹です。

でも二人は全然、似ていません。

それどころかその姿は全く正反対でした。

みつ子は真っ黒な髪に白い肌、目も鼻も口も小ぶりで身体は小柄、しづ子はいつも日焼けしたような皮膚の色で目が大きく、髪は少し栗色がかっていて背の高い女の子でした。

彼女たちの家はとても貧しく、だから仲の良い二人はどんな僅かなものでも等しく分け合います。もちろん、珍しいものが手に入ったときもそれは同じ。美味しいお菓子は半々に、綺麗な千代紙は半分に切り、真っ赤な薔薇の花も半束ずつ。いつもそうやって日々を暮らしていました。

しかしある時、しづ子はお金持ちの家へ養女にもらわれていきました。みつ子としづ子のお母さんは、どうしても二人の子供を育てるお金を工面することができなかったのです。

それでも、しづ子はよくみつ子のところへ遊びに来ました。そして日が暮れるまで二人は仲良く過ごします。

ある日、しづ子はお養母さんからもらった、深緑色に光る石の付いた耳飾りをして現れました。それを見てみつ子は

「そのイヤリング、片方頂戴よ。前みたいに何でも二人で分けっこしましょ」

と、しづ子にお願いしました。

しづ子は、それは当然という風に片側の耳からその緑色の宝石をはずしてみつ子に渡すと、みつ子は鏡の前へ行ってご機嫌な様子でしたが、やがて

「やっぱり、一つだけじゃ変ね。もう一つの方も頂戴。あなたの家はお金持ちなんだから、これぐらいの物、他にもいっぱいあるでしょう?」

と、再びしづ子に頼みました。それは本当にその通りだったので、また、当たり前のようにしづ子はもう一方の耳飾りもみつ子に渡しました。

それを皮切りに、みつ子はしづ子の身につけている物や、持ってきた外国のお菓子などを、皆自分のものにし始めました。

しづ子はいつも喜んでそれらをみつ子に差し出しました。みつ子が嬉しそうにするのを見て、自分も嬉しかったからです。それだけでした。みつ子も自分の家では手に入らないような貴重な品物を受け取って、その時は確かに満足するのですが、しづ子が家へ帰った後、決まって何だかもやもやした、黒い雲のようなものが心の中に沸き上がってくるのです。

それは大好きな妹に、もらった物に相応しいようなお返しができない、もう二人で一つのものを等しく分け合うことができない、ということへの苛立ちだったのかもしれません。

みつ子は時々、ぽつりと

「しづちゃんのお家はお金持ちでいいわね」

としづ子に言います。するといつもしづ子は

「私は本当のお母さんと居られるみっちゃんの方が羨ましいわ」

と言うのでした。

しかし、しづ子のお養父さんのお仕事は次第にうまくいかなくなっていました。それに従って、しづ子の家にあったいろいろな高価な品物もだんだんと少なくなっていきました。それでもしづ子は以前と変わらず、みつ子にたくさんのものを手渡しました。ただみつ子の上機嫌な顔を見たいためだけに。

しづ子のお養父さんが心労から病気になり、それが元でとうとう亡くなってしまった時には、しづ子のお家は空っぽになっていました。

しづ子はみつ子のもとへやって来て言いました。

「もうみっちゃんにあげるものが何も無いの」

まだあるじゃない、みつ子はそう言うとしづ子の足もとを指差して

「あなたのその、黒いビロードの、ぴかぴか光る、素敵な靴を私に頂戴よ」

と、言い放ちました。

これだけはあげられない、としづ子は泣きながら

「だって、靴をあなたにあげてしまったら、私はお家に帰れなくなる。たった一人になってしまったお養母さんのところへ戻ってあげないと」

と訴えましたが

「帰れなければ、この家に居ればいいじゃない。私はまた二人で一緒に暮らしたいの。前のように、一つのものを二人で、同じように半分こにしていたいの」

みつ子はそう言うばかりでした。

しづ子は頷くと、ゆっくりと靴を脱ぎ、震えながらそれを手に取ると、みつ子の前にそっと置きました。

みつ子がぱっ、と顔を輝かせた次の瞬間、

しづ子は裸足で雨の中を、自分が育った家へと一目散に駆け出してゆきました。

しづ子はそれきり、二度とみつ子の前に現れませんでした。

それから後、みつ子はいつまでも、しづ子からもらった様々な品を大切に使い続けます。でも、最後にしづ子から渡された、黒いビロードの靴だけは、靴箱の奥にしまい込んで、一度も履こうとはしませんでした。



#童話のようなもの


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