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【読書履歴】藩邸差配役日日控

著者:砂原浩太朗
初版:2023.04.30
初出:オール讀物 2021.12 2022.03/04/06/09/10/12 2023.01

「藩邸差配役日日控」は時代小説の短編集連作です。

 里村五郎兵衛は神宮寺藩7万石の江戸藩邸の差配役で、この物語の主人公での短編5篇の連作集である。差配役とは藩邸におけるほとんどの管理・調整などを担い、その役割は、殿の身辺警護から襖・障子の張替えまでピンキリで「何でも屋」と蔑まれたりもする立ち位置であった。
 現代社会で言うと上司の無茶振りや部下の勝手な行動に翻弄されながらも自分のすべきことを矜持を持って全うしていく主人公に共感を覚えるところが多い。

登場する里村五郎兵衛の下役もそれぞれが魅力的に描かれている。いつも汗をかいている野田弥左衛門、やる気無さげながら剣の腕がたつ安西主税、次期副役候補の迫水新造などの脇を固めた面々のドタバタ劇が、読み手をすんなりと物語へ誘う。

各篇ごとに、物語全体を通しての不穏な出来事がひとつひとつ重なっていき、読み手はその事柄を気にしながらそれぞれの短編を読み進めていく。

 「拐かし」 老中大久保重右衛門の謎の言葉
 「黒い札」 清廉潔白の森井惣右衛門の真実
 「滝夜叉」 女の匂いを発する魅力あるお滝
 「猫不知」 正室お熙の方の愛猫探し
 「秋江賦」 窮地に陥った里村五郎兵衛は?

それらがひとつになる最終篇「秋江賦」で、大きなクライマックスを迎えます。主人公里村五郎兵衛の苦悩、自分ならどうするか、読者に最後の最後まで物語を楽しませる仕掛けがあって面白いと感じました。

・・・・・誰にもできぬお役を果たすのが、勤めにございます

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