第二章

 学生たちが広場のようなところを経って、新しくできた大通りにやってきた。

 この辺りの灯りはさっきのより一層眩しくて、ここを通ったすべての人の目を奪うほど光っている。学生たちの心は繁華な商店街に建ち並んだ店のガラスに投射されたチカチカしたスポットの光に激しく打たれている。
 ある商品に説き及ぶと実用性とそのもの価格を常に合わせて得だかという考え方は早々世に溢れていて、自分にふさわしいものを選ぶべき一説はいつも新鮮ではなくなってきた時代において、各々の消費観念によって、同じ商品でも良いところも悪いところもちゃんと見切られても、ある点にも必ず共通しているのを知っていても、主観経験に基づいての選び方が世論に影響されて、変わっていくかもしれない。

 ショーウィンドウにローズウッドの小型箱のステントに支えされて陳列してある時計バンドが輝いているか、光を浴びて反射されたかのを知らないが、近くに置いてある始めが9で、6桁も書いてある数字の札を見ると、歩いている行列の学生誰にでも、その一瞬にも感触を得ないわけがない。それには誰かの心にもそれぞれの想いがある。世には絶対的な価格はないが、相対的な価格はある。少なくない人の目に映ったものよりそれより一層まばゆい光が誰かが未来への希望に繋がる力に変えるようになる。彼らには腕時計の意味はもう多言する必要がないというより言わずもがなのことだ。世の上のないものを求めて、一時たりとも止まらずに、権利であろうと、金であろうと、所詮欲望に塗れた心が祟っている一言が伝えられているのをまるっきり悪もなし良もなしとされない世の現状に。


 金色の光に遊離していた学生たちの白昼夢を情けなく砕けたのは隣の車道を次から次へとひっきりなしに通過している自動車のタイヤが地面の砂利を轢いた音とか、時折のクラクションの尖った音とか、またガソリンが不充分に燃えたため、空気に滲んだ排気の臭味だった。


 天空の密雲は引きちぎられて、漆黒な夜空を横切った飛行機が低空飛行で、周りの空気を切り裂いた轟音とエンジンの爆音が商店街の騒がしさを隠しきった。それが目指しているのは遠方にある遠くないプートン国際空港にほかならない。一日中にはそのような空の便が地元の少なくない人には日常茶飯にすぎないなんだと思われたが、外来の遊客には実に珍しい風景だ。さっきまで輝きに溺れていた人も、呑気に歩いていた散歩者も、速歩で歩いているサラリーマンも思わずに止まって大空に浮かんだ巨大な物に気が散っている。



「つまらないな、どうせ私と関係ないものなんだ」


「そう、そう、俺にも、っていうか、シャンハイではそんあ店の外で7桁にも達した札を見たことがあるけど」


「へえええ、すごい、すごい、金持ちは想像よりいるんだね」

 一部の学生たちはまださっきの高価の腕時計で盛り上がっていて、大声で騒いている。


 眩い光が柔らかくなるとともに、車も歩行者もあまり見えないようになる。四つの角を回って、二つの坂を登って商店街に完全に離れている行列には旅の疲れさを嘆いた声も喧しい呟きも大きくなる一方だ。そのところこそ、カウンセラーが学生を呼び止めた。


「はい、はい、皆さん、ちゃんと並んで、いま点呼を取るから、よく聞いてね」

「すみません、少し急用があって、お先に言わせてもよろしいでしょうか」

「はい、どうぞ」

 案内が発言の権利を受け取った。


「はい、皆さん、着くところだ!もうすぐ御社のホテルの一つ~映月藍霞湾(インユェランシャワン)だ。ただいまほんホテルの人事部長の鐘明景(ゾンミンジン)、人事部副部長の任遠帆(レンユエンファン)の代わりに、皆さんにようこその気持ちを表せてもらおう」

 すると、学生からの雷鳴のような拍手が鳴る。

「映月藍霞湾はそのネームにぴったりしたところだ。なぜならば、その建物の中から眺めると長江に含まれた蘇州川がよく見える。うちのホテルのガラスは特別な材料から作られたものだから、月がそれに当てた光が反射されて、ちょうど川に映って、それで川の水面が幽かに蒼くなるように見えるんだよ」


「すごい、」

「まさか、ぜんぜん聞いたことがないんだ。すごい、すごい」

 学生たちが顔を見合わせて、息を呑んだ。


「えっ、詳しいことは明日に入れば分かる。こちらはちょっと用事があって、後はほかの責任者に案内してもらうから、では、」

 早口で後の手配を言い終わって、何も構わずに、ひたすらに携帯を耳に当てながら、ホテルに走っていく男の人が学生たちの視界から消えたばかりに、ほぼ同じふりをしたビジネスマンが前に現れてきた。その男の顔は学生とのあまりの差が見られないが、その代わりに襟元に締めたネクタイの複雑な柄から見ればさっきの案内よりずっと上等な地位に立って、重要な役を担当しているようだ。



「その人って、もしかして」

 袁章は眼鏡を直して、目を見張った。

「へえ、見たか」

 穎毅然の顔色も急に変わった。


「見た、って、いつのこと」


「午後カウンセラーが注意事項を話していた時に見た、その人」


「へー、そうなの」


「そういえば、その人のことを知っているって言ったっけ」


「テーバでは見たがあるよ、冗談としたけど、」


「言ってみて」


「どうやらホテル、いや、もっと適切言えば、そのホテルの二番目株主の末っ子、鐘明景(ゾンミンジン)は、」


 携帯をじっと見つめる穎毅然が何度もキーワードを変えても、鐘明景についての文字が何も出てこなかった。

「へっ、嘘だろう、ちょっと調べてみたけど、そんなことは微塵もなかったよ。」

 「やめよう、そのことはテーバの友達が教えてくれたんだ。今まで本当なのかどうか決めつけることができない。今なら、十中八九したことだ」



「さぞ皆さんはもう疲れきっただろう。ただ、その前にはいろいろなことがあるから、なにとぞ協力してもらってね。まず、カウンセラーさんとバトンタッチをしてから、皆さんを食事のところに連れて行くから、皆さんは一応フロントのレストルームで待ってください。そういえば、ごめん、ちょっと順番を間違えちゃった。寮の配りって、寮の配りは二番目なんだ、今一番重要なのはお互いに両方労働契約と学校の紹介書の内容をご確認させていただいておく。前は皆さんがうちの係りと話し合ったのも事実ながら、それは別なんだ。ごめん、ごめん、」


 街灯の薄暗がりを浴びていた1.78mぐらいの身長の鐘明景の発した澄んだ声が模糊な身なりも相まって、さらに神秘な彩りがいささかに添う。


 これから、学生たちは言われたとおりに契約の内容を確認してから、もう一人の責任者についてホテルに入って、複雑な道を歩いて係専属の生活の地域についた。


 寮の管理者と相談した末に、穎毅然と袁章と望まれたとおりに、同じ室に配られることになった。



「まあ、悪くないけど、どうして下にすることができないの、面倒くさい」


「言われた上に仕方がないんだよね」


 袁章と穎毅然が配られた寮には四つの二段ベッドがある。一番奥の右でも左でもの下には既に布団や枕など据えてある。ドアに近く接した二つのベットの下でも上でも原木から加工された板が灰色の漆塗りの金属の枠にぴったりと嵌ってあるだけで、ほかに何もない様子なので、人の気配が少しも感じられないが、寮に入る前に『下の二人は暫く休みで帰っていることで、上の4つだけから選んでください。』ってずっと前からこの部屋に泊まっている人に伝えられて、今ここに泊まっている下の二人を邪魔しないように二人が別々と左右対称の上のベッドにした。


「あっ、疲れた。シートを敷いたら本当に何もやりたくなかったのに、腹も減ったよ」


「そんなこと言うな、速く降りて」


 箱をベットの下に詰めて、ぎゅうぎゅうとした音を立てた穎毅然が腰を伸ばして、下の板に腰を掛けて足を組む。


「ちょっと、ちょっと、足も腰も痛くてたまらないよ、ああ、」

 穎毅然のそばの壁に寄りかかっている、浮かない顔をした袁章が部屋の真中に取り付け時折に妖しい赤い微光を放っている丸い煙警報機を見上げながら、大字にして板に寝ている。


「急に寝台に寝て、ましてこんな硬いものに、お前の腰がてっきりだめなんだろう、これはこれは、」

「いや、皮肉なことをやめよう、お、ぉ、痛い、手柔らかくして、お願い、痛い、」


 穎毅然がマッサージをやっているうちに、食事のことを口にする。


「っていうか、そんなところで食事するなんて、想像できなかったなあ、そういえば、そんなところまで前には調べておいたっけ」

「一応現代名所っていう感じなんだけど、低給料のサラリーマン向きの受けやすい価格で名が流れている飲食街らしい。夜に入ると上海からのサラリーマンでも車をかってまでもいくそうだ」

「ここに来て初めの食事はそんなところでって?じゃ、何をおごりになるの」

「僕もびっくりしちゃった。はい、叩かなくてもいい、もうずいぶん楽になった。どうも、」

「はいはい。治ったらはやく起きて集合するよ、そろそろ時間だし、」


 二人が時間を確かめて、ほかの学生と一緒に約束のところに集まりに行く。


 すべての人が約された時間どおりにホテル前の空き地に集まってきた。

「じゃ、点呼終わった。全員揃ったら行こう」

 鐘明景がリストで学生人数を確かめたあとに、進行の号令をかけた。


 ほとんどの学生はスナックをたくさん食べたが、さすが長い時間も経ったし、一番先の鐘明景について、道の長さを知らない店に行くのはあまりにも頼りないし、それに愚痴をしたりして、だんだん騒ぐようになる。

「皆さん、ごめん、ごめん、また200mくらいだけだ。梅林止渇ではないよ。その店の店長が私の知り合いだし、店もホテルのほうとも繋がりがあるだし、食物の安全性なら心配する必要はない。味はもちろん逸品だよ。もう一つは事前に知らせたから、今日の食客は私たちだけだ。ご馳走するから、遠慮なく注文するよ」

 学生たちが一斉に歓声を上げた。
 心を滾らせるほどの誘いに含まれた人が生きていけるような基本的なものを求める欲望が満たされたように伴った快感がひとりひとりの錆のついた心を走っていく。



「皆さん、もうすぐ着くよ。そうだ、そうだ、酒はやはりだめだね、明日九時に新人教室で会議は行われることになるので、なにとぞ遅刻しないように、寮の建物の2階にあるぞ、本館ではなく、ちゃんと覚えてくれて、もし道に迷ったら、うちの係に気兼ねなく聞けばいいよ」

「はい!」

 あまり隔たっていないので、久ぶりにすっと元気満々と高鳴った声に驚いた食客も思わずにちらちらと学生の方へ目を移していく。が、間もなく喧しい世間話の声が一層高まって、杯と杯がぶつかり合う鈍い音も側面に遠くなく隔たった蘇州川が堤防に当たり続けている小波のような声紋もその狭くなくて広くない歩道の人々の心に鳴り響いて、飲食街の奥に包まれる激情を探しにいくように誘われている。

 

 チームが鐘明景に言われたとおりの店の前に足を止める。
 
「さあ、さあ、皆さん、気兼ねなく席に付こう。どこでも、」

「はい!」

 店の外に四つの真四角な食卓がたくさん並べてある。ホテルからずっと鐘明景のそばについてきた一人の係を足せば十四人で、つまりある食卓を囲んでいる人はただ二人いるだけだ。言うまでもなく、それは鐘明景とその係り二人だけの専属の席だ。


 両側の飲食店に挟まれた道の末はまだ未開発で険しそうに、崖崩れが出やすい地域だ。そこ以上は通行禁止になっているだけでなく、その区間にでも駐車してはいけないことになっているらしい。もともと土や石などのものを載せたトラックや仕事師たちが必ず通う道だが、地勢は予想以上複雑で、工事が進むとともに作業の難しさも恐らくそれ以上何倍変わっていくのに気づいたエンジニアのチームが安全性から考え直して、元の提案を廃棄して、もう一つ側の長い代わりに、安全性が確保できた提案にしたそうだ。道路両側の店はもともと道路工事に従事していた肉体労働者向けの価額低廉の仮設された露店だったが、前の進みを諦めて、残った時間が不足の厳しさに面していた工程隊の担当者が安全性にも慮ったことが加わって、地元の役所に申し込んで、何度も商談を開いて、まとまったのは前札に外れた組を足して、両方にチームを再編させて、突貫工事のままで作業を再開させることになって、そのおかげで、約束された日の二日前無事に出来上がったそうだ。
 その期間には土方の激増で飲食店のいろいろな付属施設をいち早く完備した露店の経営者の中に誰でも大儲けになったらしい。道路工事が終わったばかりで、道路の安全性にぴったりした味と安全性と価格と三つ兼備された飲食街は存在を宣伝せずに、料理をPRせずに、二つの町に急に大人気になるに至った。それで一度立地の悪い辺鄙なところは商業用地だと認められたが、いかにむちゃくちゃとされて、いかにも辺地という理由で反駁して繰り返して、最後にまるでロハで経営者たちに土の使用権を転売したことで収まってきた。
 
 料理ができていないうちに穎毅然と袁章と二人でひと目が届かないところに隠れた。

 
 小高い丘に隠れた袁章がタバコを燻らすと後ろに付いてきた穎毅然に一本渡したが、「いらない」振られた。袁章が何も言わずに箱に納めた。

 

「って、ここどう思うの、」穎毅然が呑気に、

「なんの、」

「景色だよ、景色、」


 両側の店は都会に転がった飲食店に比べたら、風格にはあまり差がない。たかが三階できた店と普通二階できた店との差別くらいだ。一階のドアは防盗門ではなく、昇降を手動で操るシャッターのタイプだ。ガスの来ていない郊外のどの店でもガスタンクを使っているから、ほとんどの料理人が台所を店外に設けている。焼き魚の焦げた香りと四川料理ならではの、喉を掻き毟る程の塩辛さの混じった空気が細い道を包み込んむ。

「ニコチン中毒するよ。そろそろ料理が出来上がるところだ、お先に、」

「へ、また一服したいのに、まあ、行こう行こう、」

 
 どこかから現れてきた二人を見たら、同席するほかの二人が手を大きく振っている。

「いいところだね、ちょうどユーシャンロースーを揃えたばかりだわ」

「すみませんでした。すみませんでした。さあ、さあ、食べよう、待ってくれなくてもいいよ、」

 穎毅然と袁章と謝りながら、食卓に寄っていく。

「すみません、お二人、前、学校で会ったことがないだろう」

「学部は違うだろう、私とそのやつ、日本語学部なんだけど、」
 向う側に座ったボブをした女の人に身分を明かしながら、親指で側の穎毅然を突いている。

「ええ、日本語学部なのか、それは、やはり鐘さんに伝えるほうが、」

「え、なんで」

「実はさっき鐘さんが何人にも聞いたわ。学部についてのことだったわ」

「って、私二人のことまでも聞かれたの」

「いいえ、なかったわ」

「じゃ、特に伝える必要がないと思うけど、どうせ大したことではないから、そういえば、私二人以外、他の人全部クラスメート?」

「いいえ」

「なら、余計なことを考えなくてもいいよ、いくつの学部の学生だから。気まぐれにすぎなかったよ、きっと、」

 穎毅然が相手を口説いて、諦めさせた。

 一人ひとりの自己紹介が終わって間もなく、穎毅然が最後の学生として簡潔な自己紹介を終わらせた。

 「穎毅然と申す。みんなと同じ学校から来た。今回のインターンシップを心そこから期待している。なにとぞよろしく」

「では、改めて自己紹介させていただこう。鐘明景(ゾンミンジン)と申す。ようこそ蘇州の映月藍霞湾へ、楽しいインターンシップが過ごせるように、いい思い出になれるように、心込めて祈る。では、食事を楽しんで、遠慮なく召し上がれ」

 鐘明景は世間的な話以外に、何の言葉を何も残さずに去っていった。それから向かっていくのは出来上がった料理を盛っている四十代くらいに見えた料理人のところだ。遠ざかっていく姿を見ると、穎毅然が長くため息をした。



 
「王さん、大丈夫なの、」鐘明景が料理人のところについて、タバコを一本渡した。

「あら、鐘さん来たの。こっちはもうすぐ出来上がるところだ。後で一杯付き合ってくれないの、」
 
 満面に笑みを湛えた料理人が手練の早業でタバコを耳に当てて挟んだ。

「悪い、悪い、実は午後友達といっぱい飲んでしまったし、明日新しく来たインターンシップの学生にホテルに関する授業する予定あるけど、でも王さんならば、一杯、一杯だけだ」

「冗談、ジョウダンなんだ。さっき彼らに言っただろう、彼らに飲ませないのに、リーダーらしくないんじゃないの。ハハハ」

「じゃ、やめよう。今度こそ付き合おう。っていうか、今日は向かう側の店も閉めているの」

「あら、今日のことじゃないよ。鐘さんが多分一週間くらい来ていなかっただろう」

「ええ、」

「向う側の店は焼き物だ。平日、特別な調味料の匂いでいつも大勢の客が集まっているけど、今は店主が行方不明になって、調味料は使い切ったし、店の雑役には前のような焼き物も作れないし、無限期に閉める状況に陥っているらしい」

「じゃ、店主はどこ、」

「さあ、噂なんだけど、澳門へ行って、何百万元もの借金をしまった」

「へっ、それはそれは、でも戻ったらせっせと、いや何百万なら、」皺を寄せた鐘明景が唾を飲んで、急に黙り込んだ。

「恐らく戻れないはずだ。なんと言っても二人の息子もお母さんに連れられたそうだよ」

「見限られただろう」

「彼の家から遠くないから、私の知っている限り、何度も妻や息子に暴力を振る舞った人ようなイメージが強い」

「そうなんだか」

「じゃ、」
 鐘明景は軽くうなずいて、捨てた吸い殻を踏み荒らしてぐるりと歩こうとしょうところを、誰かに呼び止められた。



「おい、お前ちょっと、って、王星翔(ワンシンシャン)、やっと俺の言葉を受け入れてくれたの、」
 真っ赤な顔をした皺だらけの汗に濡れて真っ赤な皮膚が見えるほどに透けた白いシャツをした男が揺れながら、大声を出している。

「へっ、何よ、お前言ったのって、」
 鍋を清めている料理人の王星翔がとっさに手が滑って、鍋がシンクを落としてしまう。

「人手、人手なんだよ。ああ、本当に、なんで毎日毎日もこんなに早く閉店しているの。若いうちにもっともっともっと儲ければいいんじゃん、そのところのみんなは誰でも客が出ないまで開いているのに、お前、変じゃん?」

「もう年を取っているのに若いなんて冗談やめよう。って、人手は内弟子一人だけで十分だ」

「へえ、じゃ、その人って、」

「人って、いや、この方は、」料理人の王星翔相手の視線に沿って、鐘明景こそだ。

「食客だよ、常連だぞ。」鐘明景は言葉を遮って、速くタバコを一本手渡した。

「ああ、そうか、そうか、悪い悪い、え、お名前は?」

「鐘明景だ」

「なかなか腕じゃないの、今日貸し切られただろう、」

「はい、」

「すごい!すごい!王さんの手を貸し切ったなんて、人手のことを説得してもらってくれないの、ほら、向こうの焼き物屋もなくなったし、もっと気を出せば利益が倍になる可能性がないわけじゃないだろう。って、一夜でいくら儲けられるの」

「コスト抜きでは800元くらい」

「少なくねよ。ここの店の誰でも毎日2500元なんだよ。もし王さんがやれば3000、いや、4000元にも達する可能性もあるじゃん、この辺りの四川料理なら王さんの腕に比べられる人あるわけねよ。4000、4000元なんだせ、ただ一夜で、」
 声がじわじわと弱くなっていって興奮極まりないシャツマンが震えた声にせずに、震えた手で四本の指を揺らす。

「まあ、身体が持たないから、しかたないことなんだ。二十歳、いいえ、十歳若ければやるぜ。まあまあ、そういえば、久しぶりだね。最近はどう、」王星翔が油っぽい右手を適宜に擦って、煙草に火をつけた。

「最近ボースの身体は悪くて時折どっちへ散歩に行きたがって、遠いところに送らせてるだけでなく無理矢理に一緒に歩かせたなんて、残業代をちゃんとしてくれたけど、そのためうちの女房に罵られたのがどうしても避けられないって本当に疲れきった。まあ、専用ドライバーだから」

「なかなか大変そうだね」

「そうだよ、もし人手が要れば、ぜひ私のことを考えてくださいね。まあ、冗談、冗談、明日仕事があるから、また」
 シャツマンが答えを待たずに、苦笑いをして軽くうなずいて、揺らいで前の店へ戻っていった。


「いいタバコ、いいタバコだね」

 一縷の烟は夜の黒さにじんわりと消え去って、その塩辛さに飲み込まれて、彼の声も周りの喋り声やフライ返しや刀などの音、また料理人なりの激情に富んだ売り声に飲み込まれてしまった。


 

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