第九章

「あっ、さむっさむい、朝っぱらこんな服を着てはきついなあ。背広が薄すぎるんじゃないの、」
 袁章の先に便服からスーツに変身をした穎毅然が更衣室の外でぶるぶる震えている。

「さむい!雨が降っていたの、昨日はないと知らせてくれたのに、まったく頼りない。穎毅然、もう終わったの、速い」袁章が言いながら、携帯webの天気予報を穎毅然にみせている。

「雨?朝は十時半まで小雨で、午後は雨のうち晴れの可能性って大きくないか、すると、カフェのほうも少々楽になるかも。あ、袁章も新人歓迎会の後にカフェに行くの」

「その件なの、私が別のところに行くみたいけど、」

「具体的に知っているの、」

「まだ知っていない。任遠帆の知らせを待っているだけだ。カフェでは、何をするの」

「日本人の客と予約を確かめるということだ、多分、」

「ん、なんだか」難色を浮かべた袁章が息を呑んだ。

「そうね、ずいぶん厄介だぞ。私が受けた日本語能力試験は新しかったので、前との試験内容もだいぶ変動したということだ。その中には予約確認する情景という問題がある。ホテルの係りとして宿泊予約をどうやって扱えばいいかのは多大だ。でも、いざとなると役に立たなく思う。宿泊予約するようなことでもあるまいし、日本人についてくる人にも両国の言語に堪能している人があると祈っているだけだ。日本語はともあれ、中国語でもの手はずも知っていない私にとって、あ、もういい。速く歩いて、後でインターネットで大雑把と調べるしかない。あまり期待してほしくないといいけど、私にはどうでもいいけど、」

「それもそう。心配しないで、初めてだから、きっと誰かに見習いするだろう。新人だし、決まった仕事でもないし」

「なるほど、それもそうね、考えすぎた。」


「袁章、おはよう」
「あ、おはよう」
 二人が食堂に入っているところを、陽気に笑っていてきちんとした白い歯を表した女の人に呼び止められた。

「あの、昨日、袁章とお友達、勝手にお二人を指してすみませんでした。知らず知らずに声を漏らしてしまった。」

「そんなことなら、謝るに値しないだろうに、ただ、ただ驚いた。とにかく、大丈夫、穎毅然はどう思うの」

「へいき、平気、同じなんだよ。ちょっとびっくりしちゃった。そういえば、むかし二人は同じサークルだっけ。日本語のサークルだろう。私が入っていなかったけど、ちょっと耳にしたがある程度にすぎないけど、」

「はい、日本のアニメや文化などに興味持っていて入部にした。皆さんはいい人だし、部活も面白かったし、本当に素晴らしかった思い出だ。あ、そう、そう、袁章のおかげで、いろいろな日本語もできるようになった。でもほとんど忘れてしまったが、」

「へー、そんなことがあるの。袁章がそのようなことを引き受けていたの。じゃ、サークルの頭なら、同じこと?日本に留学したそうだぞ。あいつの日本語能力も舐められないぞ、」穎毅然は呟いて、思い込むようになった。

「呉(ウ)、呉部長、呉偉卓(ウウィゾ)のことでしょう。呉部長ったら確かにあまり顔出しをしていなかったらしい。普通、日本人の留学生がうちの学校に一ヶ月や一週間くらい遊びに来いていた間、たまに見かけていたほどだ。」

「それはあいつの責任の一方で、責任にすぎないんだ。日本人の留学生と一緒にあっちこっちに遊ぶというより、一人でパソコンに向き合う生活のほうが楽しいだろう。」

「え?外国人とうまく話し合えることが羨ましくてしかたがないよ。」

「そういえば、呉偉卓はけっこうお金持ちなんだよ。そのようなことに何度もあったら、新鮮な感じもなくなるのも想像しやすいだろう。」

「それに賛成する。ちなみに、日本語といったら、ぜんぜん穎毅然に比べ物にならないよ。呉偉卓のことを言い忘れた。彼はうまく話せることはぜんぜんないことだったよ。遊んでいた間は時々先生もいるし、そして携帯の持っている翻訳のアプリも便利だし、後者はあまり頼っていないけど、それでも充分だ。しょせんあまり複雑な話題に入らないとなんとかできるからだ。」

「学校では、日本語なら穎毅然が一番凄いって話を先輩に言及されたり、袁章ももちろんだ。失礼ながら、なぜ穎毅然が入部していなかったか」女の人が二人も一時黙り込んで、話題が切れそうな時に割り込んだ。

「別に、やりたくないことはやりたくないだけだ。日本語能力は一番凄いことなら否認にするつもりはないけど、」

「調子に乗るな、穎毅然!」袁章が大笑して、軽く穎毅然の肩を叩いた。

「お二人、仲良さそうだね。しまった、新人歓迎会の発表を忘れるところだった。」

「大丈夫なの、代表さん、」

「ちょっと緊張しているだけど、さすが久しぶりにそのようなことをしていなかったので。」

「うちの学校の代表が原稿を忘れたら大変だろう。そういえば、アナウンサーの、あの、芸術生という呼び方だろう。例えば、美術やアナウンサーや、作劇、舞踏という別科も習っている高校生は芸術生で、いろいろ異なった体育の項目を練習しているのは体育生だろう。どっちにも偏っていない私たちのような文化生がなんだか高考の戦場ではいちばん天に恵まれない存在だなあ。」

「そんなことないんだって、高校時代から未来の専攻が決まった私たちの争いもとても激しいのだ。それに、芸術生だとしても国語、数学、歴史、英語、政治、地理の受験をしなければならないわ。こう見えたら、一つの科目が多くなったため、もっときついでしょう」女の人が袁章の意見を論破した。

「確か、芸術生でもいい、体育生でもいい、みんなどんな学校に入れるのは大概専攻している別科の成績にかかっているだろう。そういう風に見ると別科はかえって主要な科目になったの、」二人の争いはまだ収まっていないが、穎毅然がそれに油を注いた。

「それは、それは、でもいいほどの大学は国語、数学や地理、歴史などの成績も重んじるのも当然でしょう」女の人が嫌々ながら反論していて、不快な色も浮かんだ。

「でも、やっぱ、まあ」穎毅然が嘆いて黙り込むようになった。

「まあ、まあ、過ぎたことは水に流して、発表のこと、頑張ろう!」袁章が隙を狙って、風を変えた。

「あっ、はい、全力で、今日は朝飯ぬけにした。お二人、では、」袁章の応援をいただいた女の人が勢いよく小走りで行った。

「っていうか、芸術生の学費って、高いだろう」
 食事の途中で穎毅然が箸を投げて苦り切った表情を浮かべた。
「うちの学校なら学期ごとに、二万元くらいして、つまり一年四万、五万元したそうだ。袁章のほうは?」

「その点なら、あまりの差がないね。うちなのは、ううん、違う。美術が一年三万五千元くらいだっけ。ただ半学期もの費用が文化生二年間の学費より多いなんて、よく思うとほんとうに怖い。」袁章が嘆じているうちに箸を置いた。
「でも、そのような人は総じて、ごく稀な存在なんだろう。膏粱の子弟(こうりょうのしてい)でないとね。その代わりに体育生は違うだろう。それは自身の運動神経の天資に極大な繋がりがあるだろう。それは決してただ金に関することではないだろう。いくら金を払っても、決まったことは変えられないだろう。ましてこんな国でほかの人と競い合うなんて、多すぎるんだよ、多すぎるんだ。」

「各地は大体同じなのか、そうか。じゃ、もともと理系の身だったら、『芸術』を選ばないだろう。」穎毅然が片手で顎を持ち上げる。

「このように理解しても大丈夫だ。」

「私は数学が苦手で、物理なんて科目は言うまでもない。いつも大学では理科卒業だったら、就職の口も大きいって家族によく言われていたけど、理科出身ということを重んじられるというより学校の出身じゃないの」

「確かに、もっともの話だ。だいぶ大学に負うところが大きい。」

「ならば、芸術生なら、」

「まあ、さあ、行こう、ちんぷんかんぷんなことはあとでもいいんじゃない、ぐずぐずすると遅刻するよ」


 予定された会議室のような会場はもともと平日に来客の要求に応じてインテリアを変えられているという場所なので、それに余計な手間をあまりかけずに済んだのは質の方だが、さすが人数のため、椅子と椅子の距離が見えないほどきっちりしているのにすれば時間の方にはずいぶん苦労してもしかたがないことだ。
 室内には外と同じようなところの一つが天井に固定された小型の無色透明のシーリングランプ、硝子の稜の付いたペンダントップがよく固定されても今にも落ちそうな予感に不安して目を移すたびに橙色の光に再び戻されたりしている。外のカーペットの色と合わせたワインカラーの厚そうな木造の扉が無形の威圧感を発散しているが、扉のほうというより新人歓迎会の司会、またこのホテルの最高支配人及び各リーダーが学生たちとごく狭い距離のため、醸し出された重苦しい雰囲気にいよいよ胸に深く刺さるようになる窮屈感に持たさた窒息するほどの苦痛にしみじみと感づいている、若者は。
 司会が発言したばかりに、若者たちが張り切った神経もようやく幾分緩くなった。在席している各リーダーが自己紹介して、そして学生も簡単な自己紹介をした。その後は二つの学校から別々選ばれた代表者が原稿なしに長談義の建前を流した。すべてはうまく進んでいて、約一時間くらいすぎて、新人歓迎会の幕が下りた。

「あ、終わった。学校の先生たちの説教よりずっと簡潔だなあ、いいね、いいね」

「じゃ、ここで別れよう。これからオフィスに行くから、穎毅然がカフェに行くだろう。」

「ええ、では、」

 二人は新人歓迎会のことにちょっとツッコミを交わしてから、それぞれの道に歩き出す。



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