声(846字)
僕は友人とふたり、山道を歩いていた。
足元は岩がごろごろしていた。歩きにくい。普段なら人は入らないのだろう。
僕だってこんな険しい道、誘われても本当なら歩きたくない。
歩く理由があるのだ。
以前にも彼と同じような人気のない道を歩いたことがある。その時は彼には嫌だと言ったのだが強引に押し切られてしまった。
苦労して山道を歩いた甲斐があった。
その時の山歩きで僕たちは埋まっていた江戸時代の小判を見つけたのだ。
彼は昔から探しもの名人だった。親友の僕は他の級友に隠された上履きを何度彼に見つけてもらったか分からない。
彼になぜ探しものが見つかるのか聞いたことがある。なんでも彼が言うには頭の中に声が聞こえると言うのだ。僕も始めは信じていなかったが、これだけ続くと信じるしかない。
昨日、またその声が聞こえたそうだ。きっと今回も素晴らしいものが手に入るに違いない。
そう思うと険しい山道も苦にはならなかった。
リュックから取り出したスコップで地面を掘っていた。前回の小判の時よりも大きな穴が空いている。
穴の中に入って掘り続ける。なんだったら人でも入れそうだ。きっと大きなお宝が埋まっているのだろう。胸が高鳴った。
彼は少し休憩したいと地面の上で座り込んでいたが、僕は早くお宝を拝みたくて穴の中で掘り続けていた。穴は自分の背丈よりも深くなっていた。
顔に土がかかった。
「え?」
更に土が降ってくる。頭にも肩にも土がかかった。友人の仕業のようだ。
慌てて呼びかけようとした。開いた口にも土は入った。
「何をするんだ!」
やっとのことで叫んだが土の雨は止まなかった。体を覆うように更に降り注いでくる。
足から腰、腰から胸、胸から顔。土で埋まった僕は叫ぶことすらできない。
彼の声が聞こえてきた。かろうじて聞き取ることができた。
「声が言ってた。お前、俺の彼女と浮気したんだって?今まであんなによくしてやったのに」
僕は弁解しようとしたが声は出なかった。
更に土は僕を覆い上から踏み固めているのだろう振動が伝わってきた。
そして何も聞こえなくなった。
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