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銀杏通り

通り過ぎるバスをみながら僕はひとりバス停に立ち尽くしていた。

道を歩いているうちにマフラーが風にさらわれそうになって、まるで恋人と二人で歩いているみたいだなとひとりごちた。受け取った封筒はあとで開けてみることを決意したのだけれど、遠くに画材屋が見えてくるまでぼくはその存在を忘れていた。

サカナクションの「バッハの旋律を夜に聴いたせいです」を聴きながら秋の道を歩くのはなんとなく面はゆい気持ちがした。待っていたバスはもう行ってしまったけれど、(次にバスが来るのは45分後だそうだ)ipodで再生される曲を聴きながら街を歩くのはなんとなく物語の主人公に自分がなれたような気がする。

「ある」ことと「成る」ことは根本的に異なることだとある哲学者がいっていた。正確にはなにかの雑誌でみたような気がするだけなのだけれど、「ある」人生を歩むより何かに「成る」人生を歩むほうがカメラ越しにも客観的にも面白いような気がする。毛糸が少しほつれてきた。僕は次に再生されたバンドの名前をみた。「ネクライトーキー」という名前だった。変わった名前だなと思った。画材屋の前を通るとき、中からカレーの匂いが少しした。

前に入ったことはあったのだけれど2,3年前のことだからあまりよく覚えていない。その時は絵具か何かを買ったような気がしたのだけどそれも覚えていない。僕は久しぶりに画材屋によろうかと思った。

ーいらっしゃい

ドアを開けると威勢のいい声が聞こえてきて僕はびくっとした。店の中は様々な画材やら絵やら絵具やらであふれかえっていた。