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【連載小説】ガルー(5)脱力系冒険小説

「こうやって、高速道路に乗ってドライブするのって、なんだか久しぶりだなあ」
とタナカがしみじみと言った。

「何度言わせるんだ。ドライブじゃない、調査だ。いい加減、その認識不足をどうにかしたまえ」

はじまったばかりとはいえ、いつになったら、この調査隊はまともな調査隊として機能してくれるのか、不安がつきまとう。

平凡なサラリーマンだったボクの資金力もそれほど当てにできるものじゃないし、毎日タナカと705に支払う日当だけでも日に1万円、その他の移動費、雑費を入れるとかなりのハイコストとなっている。

焦っても結果は同じだが、一日でも早くガルーを捕獲しないことには、ボクの貯金も底をついてしまうだろう。

705の言う通りかもしれない。

呑気に構えてなどいられないのだ。

北へ向かう705の車は相変わらず制限速度を60キロは軽くオーバーしている。

飛ばし屋といわれて完全否定する705だったが、実際の行動は飛ばし屋以外の何者でもなかった。

現在、まったく当ての無い調査なのに、どうしてそんなに飛ばす必要があるのか?

それは705の激しい性格所以だ。

高速道路を走行する我々の車は、常に時速150kmに達していた。

「そんなに飛ばしたら、捕まっちゃいますよぉ?ナンバープレートとかばっちり写真撮られちゃうんですから」

「おいおい、そんな罰金まで経費に入れてないぞ」

「ふん、大丈夫よ。あたしってこう見えても抜かりは無いわぁ。こっそりナンバープレートを張り替えておいたのよ」

「それってば705さん、犯罪ですよね?」

「わかりきったことを言うよねえ、相変わらず。犯罪?そうかもしれないわね。でも、あたしは大丈夫。犯罪者がいるとしたら、この車内よぉ」

「どういうことだ?!」

「どういうことって、そういうことよ」

「まさかボクの車のナンバープレートを?」

「ううん。違うわよ」

「じゃあ、どういうことだ」

「タナカさんの・・・」

「え?!わたくしめの車のナンバーですか?」

「いつの間に・・」

「うふ。ちょっと拝借しちゃった、えへへ」

「これってば、どういうことでしょうか、教授?」

「つまり、スピード違反で罰金を受けるのは、タナカになる可能性が高いということだな」

「勘弁してくださいよぉ~」

「タナカさんの車だとは知らなかったのよ。今朝、あなたのマンションに迎えに行ったとき、たまたま近くに止めてあった車からね、拝借したってわけ」

「つくづくツイてないね」

「ついてないとか言ってる前に、スピードを落としてくださいよぉ」
というタナカの願いもむなしくかき消されるように、705はアクセルを再び踏み込んだ。

街の中心からは、短時間ながらずいぶん遠ざかったのか、窓を開けると、新緑の香りが車内に充満した。

五月の臭いがする。

あたりの風景も緑が多くなった。

「かなり田舎に来ちゃいましたねぇ。ホントにガルーはいるんでしょうかね」

「こうやって窓を開けて田舎道を走ってると、アブが飛び込んできて危うく事故を起こしそうになったことがある」

「あたしなんか蜂よぉ。それもスズメ蜂。生きた心地がしなかったわぁ」

「わたくしめは、車内にゴキを飼っていたようで、運転中おでこに止まったことがありますです」

「それで?」

「びっくりして急ブレーキをかけてしまいまして、車から逃げ出したので、一命は取り留めました」

「それから?」

「え?それで終わりですよ」

「オチはないのねえ、つまらないわぁ」

「そう申されましても・・」

「そうだ、そろそろ窓を閉めないと、また妙な虫が入ってきて、それこそ次は本当に我々は事故にあってしまうかもしれません」

「そうだな、ボクも虫は苦手なんだ」

「あら、あたしはぜんぜん平気よ。家でたくさん飼ってるんだから」

「705さんがよくっても、我々一般人は密室パニックに陥りますよぉ」

「仕方ないわねえ」

仕方なく窓を閉めきった。

都心から遠ざかったこともあるが、日中のこの時間は、他の車の姿もまばらだ。

アスファルトは太陽を照り返して、明るく輝いていた。

こんな田舎に、ガルーはいるのか?

いるとも言えるし、いないとも言える。

都会に残って調査をしたとしても、可能性の範囲ではさほど変わらない。

自分の勘だけが、今は頼りだ。

そろそろお昼にしたいところだったが、なかなかサービスエリアも見つからないまま、先を行くしかなかった。

タナカは後部座席でひとりスニッカーズをかじりはじめた。

ひとりで食べるのは、さすがのタナカも遠慮したのか、

「ねえ、教授、705さん、食べますか?」

「あたしはいい。甘いものって実は苦手なの」

「じゃあ、教授は?」

「一体、何本持ってきたんだ?そのチョコレート」

「リュックに半分くらいでしょうか」

「ほとんど、チョコじゃないか」

「はい、わたくしめの主食ですから」

「いつか成人病で死ぬな」

「不吉なこと言わないでくださいよぉ」

「偏食にも程度がある」

密室の車内には、タナカのスニッカーズの甘い臭いが充満していた。

「甘い。甘いなあ。あたしって甘い臭いダメなのよぉ」

「甘いものが苦手な人にとっては臭いもキツイな」

「申し訳ないです・・」
というタナカだったが、一度着いた火を消すことはできず、二本目の封を開けた。


しばらくして。

「ねえ、才原さん、なにか臭わない?」

「あはは。これぞ密殺でございます」

「やると思ったよ。必ずやると。もう読めてた」

「さすがは教授です。わたくしめの行動パターンを早くも掴んだご様子。あっぱれです」

「確かに甘い臭いよりは、ある特定の人にとってはマシであると思われる。だがな、ボクにとっては非常に不快だ」

「教授のことまでは考えてませんでした」

「ボクにとっては、むしろ殺人的ですらあるね」

「だから、密殺と・・」

「しかし、なぜ屁は臭いのだろう?」

「さあ、どうしてでしょうか?臭いものは臭いからです」

「我々は生まれながらに、屁は臭いものとして認知していたのだろうか?」
「あるいは後天的に認知したものなのか?」
「仮に後天的な認知であるとするならば、俗世間一般にあまりにも無自覚に迎合してしまっているようで、なんだか癪だな」

「最初に屁が臭いと言い出した人がいるんですよ」

「屁の発見だな、まさしく。発見されるまでは、屁は屁として存在しなかったに違いない」

「いやあ、さすが教授、深いですねえ」
とタナカは腕組みをして感心している。

「あんたたち!つべこべ言ってないで早く窓を開けなさいよ!」

705の金切り声が響いた。


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