四文転結の役 選評:小竹田夏

四文転結の役は読者投票ではなく、一般的な文学賞に倣い、選考委員会によって優秀作品を決定することになりました。初めての試みです。今回選出される作品は、今後の四文転結を牽引する新しい顔になると思われ、またそのような気持ちで選考に挑むことにしました。

投稿受付期間中は作品を読まないようにして、終了後、投稿順にまとめて読みました。なるべく同じ条件で判断するためです。

全作を一読し、四つの文にエッセンスを詰め込んだ濃密な作品の数々に、頭がクラクラしました。
そして、十作品を選び出すのが非常に難しいと思いました。常連さんの作品には四文転結の型を活かした技があり、新たに参戦した人は型に迎合しない新鮮な個性が出ていました。

非常に困りました。一発で十作品を選ぶことは不可能でしたので、強引にいくつかの基準を適用して、徐々に作品を絞り込んでいくことにしました。

最も重視したのは、オリジナリティです。具体的にいうと、どこかで読んだことがあるような作品、または「四文転結の役」で構成やモチーフが重複した作品は、ふるいにかけることにしました。このことは図らずも、一作家一作品に近い状態を生みました。
構成が重複していたものとして、
「生きているように思わせておいて死んでいた」
「人間だと思わせておいて人間ではなかった」
があり、モチーフとしては蛇や魔人などが重複していました。

それから今回は、優秀作品の英訳があるため、英語では伝わりにくい、いわゆる地口オチもふるいにかけました。

二十作品までどうにか絞り込んだところで、ピタリと作品が絞り込めなくなりました。ここからは、作品の英訳もイメージしながら、まったくの好みで順位をつけました。

選んだ十作品を振り返ってみると、四コマ漫画的なオチの作品がほとんどないことに気付きました。最初に起承転結が提唱された漢詩で理想とされる「意に窮まる無し」に近い作品を選んだように思います。四文転結という形式の一つの方向性として、物語性を強調した詩歌があるのではないかなと感じた次第です。

さて、以下が小竹田の選んだベスト10です。

1位: 草野理恵子 @riekopi158
「拷問器具」

圧倒的なオリジナリティのある作品です。「拷問器具」×「入院」の組み合わせは、この作品をおいて他にないでしょう。前半からはグロテスクな結末になってもおかしくないのですが、フラットな最終文が調整弁的にうまく機能しています。また特定の世界に限定しない作品世界は、日本を超えて広く受け入れられると思いました。文句ない傑作です。

2位: 海棠咲@感想等用 @kaidousakinovel
「旅は鯨に乗りながら」

李白の漢詩を読んだような、飄々とした世界観に魅了されました。悠々としたファンタジーは胸躍るものがあります。この作品は欧米だけでなく、中国でどう受容されるのか、興味があります。

3位: UBEBE(T. Misaka) @TM_Official
「断捨離(Decluttering)」

この作品は断捨離に関して、まったく容赦がないのが魅力です。自己の断捨離を断捨離するという自己言及型の構造に加え、最後に僕から断捨離されてしまうという徹底した断捨離は、唸るしかありませんでした。見事です。

4位: むーむー @mumu_1050
「自白」

この作品の魅力は、ほのぼのとした結末です。サスペンスの冒頭からの落差が大きく、同時に温かい気持ちにさせてくれます。この後、刑事さんがぽんぽんと肩を叩くような展開が自然とイメージでき、作品世界に広がりがあります。起承転結のお手本とも言えます。

5位: 最寄ゑ≠ @XavierCohen
「審判」

自信たっぷりの悪党河童という、何とも魅力的なキャラクターを、たった四文で描き出しています。四文でもここまで描き出せるのだということを広く知ってもらいたい、自慢できる作品です。

6位: makihide00 @makihide00
「縁は異なもの」

「That is my ex-wife.」という結の一文が、さっと頭に浮かびました。切れ味鋭い、アメリカンジョーク的な魅力にあふれています。

7位: A級コネクタ@『ハッカー・ゲーム』発売中! @aq_conecone
「自粛」

時節柄、コロナ禍をテーマにした作品がいくつかありましたが、この作品はコロナウイルスを直接描写しない代わりに、自粛という人間側の対応を描くことで濃厚にコロナ禍を暗示する、示唆に富んだ作品でした。

8位: 薊未ヨクト @clevtw
「終電」

三文までは、よく見かけるシチュエーションで、結の「空中ブランコ」の異質性に脱帽しました。コミカルで、どこか物悲しい。こういう作品はなかなか書けません。

9位: 梶舟景司 Keishi Kajifune @Kshi_kaji
「お葬式」

四文ではなく、六文と言えそうなグレーな作品ですが、確かな世界観と突き放す結末に魅力を感じました。

10位: O @O48764969
「モテ期」

この作品も一読して、結の「Que sera sera」という一文が浮かびました。余分な表現を排したミニマリズムの第三文は、作品世界に無限の広がりを与えています。

番外編

悩みに悩んだ二十作品の、残り十作品を挙げます。ベスト10にまったく引けを取りません。

一作だけ補足を。星野いのりさんの俳句連作は、四文転結としては物足りないところもありますが、俳句で物語を構築しようという試みを高く評価しました。今後も、俳句で四文転結を楽しみにしています。

以下、投稿順です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?