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炉に入った彼女の母親、あるいは彼の妻だった遺体は炎によって、肌を焼かれ、肉を削がれ、全てを奪われたあげく、ただの骨になった。 近隣住民から、あの人いつまでも年取らないわよねと羨まれていた美貌も、そんな当人がメイクで必死に隠そうとしていたこめかみのシミも、等しく焼き尽くされ、煙となった。 黒く艶のある石で四角く囲われた台の上には仰向けの状態になった白骨体がある。それを囲む遺族たちは故人を想い、鼻をすすりながら目元を拭っている。 火葬場のスタッフのアナウンスで骨上げが
指先で何の感慨もないまま、呟いた言葉があるとする。それはどこかの誰かの共感を誘い、本人が想定していない規模の人数を巻き込んだりする。だが、真摯に考え、なるべく相手が傷つかないようにラッピングし、贈った言葉に限って、当人には届かなかったりもする。 そんな経験があったからこそ、彼は彼女に、なるべく剥きだしの言葉を、脊髄の段階で掬い取った言葉を、躊躇なくぶつけてやりたかった。 「コンポタだろ?」 彼女が黙って頷く。 無人駅のホームで彼と彼女は二両しかない私鉄を待っている
「私たち、どこかでお会いしてませんか?」 「え?」 「いや、だから、どこかで……」 上映開始5分前。 予告編を流すスクリーンと室内灯の明かりを女の顔が遮る。今すぐ後ろに飛んで遠ざかりたいが、シートの背が彼女の逃避を阻む。 自分は彼女とどこかの通りですれ違ったのだろうか。それとも学生時代のクラスメイトか、専門時代のルームメイトだろうか。そもそも全く知らない他人なのだろうか。 判別するには情報があまりにも少な過ぎて、結局、彼女は上映開始からエンドロールまで、女の顔が
「そういや、子供生まれたわ」 「へぇ、第二子か」 「うん。俺もそうだけどさ、お前も反応薄いよなぁ」 送ったメッセージにはすぐ既読がついた。 今、電話を掛けたら、アイツは出てくれるだろうかと彼は考える。 友達として一言、指先ではなく、声で直接伝えるべきではないかと悩む彼は、喫茶店の窓際の席でカレーライスを食べていた。それは、煮込みすぎて最早、豚肉の食感しか残っていなく、実家のカレーを想起させた。 窓際にはボトルシップが飾られている。 外ではあまり見かけないため