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「それ、捨てるの? 気に入ってたやつじゃん」 「うん。衣替えだし、思い切って断捨離」 夏日が続いたかと思えば、連日の雨。雨が上がると今度は気温が一気に低下した。日本は四季のある国であるが、秋と春は年々短くなっている気がする。 今日も外は雨が降っていて、そんなときに限って衣替えを始める彼のタイミングの悪さに呆れている。彼女は箱ティッシュを抱えながら、Tシャツや、パーカーをせっせと袋詰めする彼を見下ろしている。強く鼻をかんでみるが、彼は断捨離に夢中で振り向きやしない。なん
指先で何の感慨もないまま、呟いた言葉があるとする。それはどこかの誰かの共感を誘い、本人が想定していない規模の人数を巻き込んだりする。だが、真摯に考え、なるべく相手が傷つかないようにラッピングし、贈った言葉に限って、当人には届かなかったりもする。 そんな経験があったからこそ、彼は彼女に、なるべく剥きだしの言葉を、脊髄の段階で掬い取った言葉を、躊躇なくぶつけてやりたかった。 「コンポタだろ?」 彼女が黙って頷く。 無人駅のホームで彼と彼女は二両しかない私鉄を待っている