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四コマ漫画みたいなノリで書けないかなと思い、始めたショートストーリー集です。
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#幼なじみ

サマー・ライアー【堕】

before episode… ☟ 「わたしだけのアツムでいてね」  その問い掛けに対し、幼いアツムはノータイムで頷いた。  アザミはアツムのことが好きだった。  ナツキはいつも五月蠅くその割にはリーダーシップをとる力がない。それに無遠慮に頭を撫でたり、体を触られるのは気持ちが悪かった。だからアツムに目が行った。わけではなかった。  アツムはナツキと知り合う前から親同士のつながりで一緒にいることが多かった。アツムはアザミと二人きりの時はよくしゃべった。彼女の手もよく引っ

サマー・ライアー【序】

 その濁流に触れれば最後だ。引きずり込まれ、あっという間に呼吸は奪われる。入り乱れる水流は幼子の身体を容赦なく蹂躙し、飽きたかのように岩底に叩きつける。  3人は滝壺の前で手を繋いでいる。歳は皆、同じく十四だ。右の少年、ナツキは二人より半歩前で、小指にまで力を入れて踏ん張っている。左の少年、アツムは半歩後ろで瀑布の轟音を聞きながら二人分の引力を感じている。そして真ん中の少女は震えながら言った。 「ナツキ、アツム。せーので、で行くから」  ナツキは妹をなだめるように少女の頭

プライマリー・カラー 〈Rの章〉

 たった二両しかない赤色の私鉄に乗り込む。  透香は母親にゆるめに巻いてもらった黒髪の先を摘まみながら、隣にいる彼に気付いてもらえないだろうかと思っている。  ロングシートには誰も座っていないが、二人は一席分空けて座っている。照れ臭いのは幼馴染みだからだろう。  透香は俯き、自分の両膝を見ている。海沿いを歩いていたときに転んで出来た傷は、まだ若く赤い。一方、彼は股を広げて座っている。車窓から見える森ばかり彼は眺め、アセロラ味のキャンディを口の中で転がしている。  団地に住んで