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before episode… ☟ 「わたしだけのアツムでいてね」 その問い掛けに対し、幼いアツムはノータイムで頷いた。 アザミはアツムのことが好きだった。 ナツキはいつも五月蠅くその割にはリーダーシップをとる力がない。それに無遠慮に頭を撫でたり、体を触られるのは気持ちが悪かった。だからアツムに目が行った。わけではなかった。 アツムはナツキと知り合う前から親同士のつながりで一緒にいることが多かった。アツムはアザミと二人きりの時はよくしゃべった。彼女の手もよく引っ
その濁流に触れれば最後だ。引きずり込まれ、あっという間に呼吸は奪われる。入り乱れる水流は幼子の身体を容赦なく蹂躙し、飽きたかのように岩底に叩きつける。 3人は滝壺の前で手を繋いでいる。歳は皆、同じく十四だ。右の少年、ナツキは二人より半歩前で、小指にまで力を入れて踏ん張っている。左の少年、アツムは半歩後ろで瀑布の轟音を聞きながら二人分の引力を感じている。そして真ん中の少女は震えながら言った。 「ナツキ、アツム。せーので、で行くから」 ナツキは妹をなだめるように少女の頭
歩行者信号の青が点滅していても、ワタシは走るどころか、早歩きさえしなかった。間に合わず赤になって立ち止まった時、彼からのLINEに4日ぶりに既読をつけた。 〈エリカさ、 オレと付き合ってて楽しい? オレは、分かんない。楽しくないのかもしれない〉 ワタシは彼のことが今も好きで、弁解しないとならない。それでも、何も打ち込めないでいると信号が青に変わる。 酔った男女が互いを支えにしながら歩いてくる。横断歩道の向こうにはコンビニが見える。歩行者信号が点滅し再び赤に変わる