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いつか頂上までいってみたいね、と言いながら眺めていた裏山へ先に登ってしまったのはセナちゃんだった。だからこんな山道を易々と進んでいくのだろう。軽やかで、しなやかで、忌々しい彼女はいっつもわたしの前を歩いている。 言ってくれればせめて学校のジャージに着替えたのにと思いながら、わたしはさざめく木々を見上げる。 ローファーの先が土で汚れ、太腿が痒い。お姉ちゃんにせっかく磨いてもらった爪を気遣っている余裕はなく、わたしは岩や地面から露出した木の根を掴み登っていく。 見上げ
黄砂が降り始めたのは日曜の昼過ぎからだった。 社会人になり、初めて出た給料でローンを組んだ彼はホンダの旧車を中古で買い、何度もリペアしながら乗っていた。だが今の彼が乗っているのは真っ白なエコカーだ。 ボディに覆いかぶさった黄砂を水で流していると家の中から金切り声が聞こえる。彼がリビングに小走りで向かうと、彼の妻がテレビの前で怒鳴っていた。 彼の妻が指をさしているのはテレビ台で、リモコンがテレビ台の横に置いていないことに対して声を荒げている。 彼の妻が声を荒らげるのは
明け方の渋谷のセンター街で、若者たちがオアシスのDon't Look Back In Angerを歌っている。アルコールに侵された彼らの脳では英詞を上手く発音できないのだろう。分からないところは強引にハミングで誤魔化し合ってはいるが、皆楽しそうだ。 日本から8167㎞離れた街では今日もミサイルが降り、遺体にはブルーシートが被せられ続けている。遠くで爆撃音を聞いた家族はベッドから起き上がり、身を寄せ合いながら家の外に出た。 一足遅れて寝袋から出た彼は居候中のカメラマンで
ヤツは今頃、ハワイの上空だろう。 半年前に別れた彼女から連絡が入り、先月の終わりに俺は彼女と再会を果たした。 だが、その逢瀬は復縁の申し込みや一夜の過ちといった浪漫が絡んでくるものではなく、彼女にとって、俺との再会はただの回収作業だったのだ。こうして、半年前に計画したハワイ旅行のプランは、センターパートでイギリスと日本のハーフらしい証券マンの手に渡った。 解体工事の現場の昼休憩中、惣菜パンをいくつか買うと俺は再び現場に戻った。 2つ年下の後輩が先月結婚したらしく
視線の先の彼女は、背を丸めていて、静かに鼻で息をし、先月思い切って染めた赤茶色の髪がよく似合っている。ベッドを抜け出た彼はテーブルの上に放置されている明太子クリームパスタにラップをかける。一口だけ残っていて、皿の余白がやけに目立って見えた。 昼過ぎに起き、元アイドルで今はYouTuberとして活躍している女性の質問動画を眺めているうちに彼女が起きた。 午後3時半すぎに、2人は洗面所で歯を磨き、夕飯の買い物へ出かける。 外は寒く、彼が意見を譲らなかったため今日はカレー