ステップ・イントゥ・インサニティ
彼は売れない画家だ。
平日昼過ぎの電車内で彼はクロッキー帳を抱え、居眠りしているほろ酔いの中年男性を眺めながら描く。まるで縫い付けられているかのように、クロッキー帳を左手で持ち、いつもどこかしらのポケットに入っている鉛筆を手に取り、当たりを付けて輪郭を決めていく。降車駅までは、後二駅ある。
目的地に着くとクロッキー帳を閉じ、彼はホームに降りた。
風が冷たく、彼は羽織ってきたジーンズジャケットのボタンを締める。
冷凍食品工場のバイトまで、彼は公園にいることが多く、目に