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『ミリオン』

白いマグカップに
珈琲を注いで始まる夜
たまにこぼして落ち込んで
成功率を数えてた

午後八時の時報が鳴ると
一気にあのドアの向こうへ
引っ張られるんだ
孤独を置いて加速する

ドアの向こうは薄暗くて
何を触っても掴めなくて
何度も頬をつねってみたけど
いつもいつでも痛かった

泣きながら歩いた川沿いも
たまに行くあの居酒屋も
日常だった木曜日
ほんの少し、遠くにある

始まりの冬から終わりの冬まで
白い雪に負けてしまいそうだった声は
今もきっと瀬戸際で
不安定に言葉を出すけど

確かな時間が四角い箱に詰まってる
愛されることの副作用に憎しみがあることも
希望に辿り着くまでの道が迷路になっていることも
木曜の夜は独りで泣く必要がないことも

白いマグカップを
水で流して終わる夜
地上に落ちた色たちが
排水口に清く吸い込まれる音がした

確かな時間を引き出しの奥に詰め込んだ
甘いものを食べ過ぎると太ることも
深夜に食べる餃子が美味しいことも
木曜の夜は隣りで笑っていられたことも

白いマグカップが
割れてしまわないようにそっと
ひっくり返して仕舞う夜
まだここにいたいけど
さよならの時間が来るよ