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かてぃんplaysラプソディー・イン・ブルー


夏至を2日後に控えた6月19日に開催された「かてぃんplaysラプソディー・イン・ブルー」に足を運んだ。この興業は調布国際音楽祭の第10回を記念するオープニング・コンサート。この日は太陽が高く、サングラスと日傘を手放せないような空だったのは、太陽が夏至に向けて高度を上げていたからだ。地元の駅から新宿、さらにそこから特急で調布へと向かう。ホールは満員御礼。コロナ対策のもとコンサートが行われた。
 
以下プログラム
 
作曲者名:曲名の順
ジョン・ウィリアムズ:スターウォーズ・サガ
開会式典
カプースチン:8つの演奏会用エチュードOp.40第3番「トッカティーナ」
いずみたく/森下唯編:ゲゲゲの鬼太郎
ガーシュウィン:ラプソディー・イン・ブルー
指揮:鈴木優人
指揮:鈴木正人
ピアノ:角野隼斗
ピアノ:森下唯
吹奏楽:明治大学附属明治高等学校・中学校、ホルン奏者福川伸陽

以上


ボランティアの女性の司会進行のもと、いよいよ祭典の始まり。明大附属の吹奏楽班のみなさんが鈴木正人氏指揮のもと、スター・ウォーズのメインテーマを鳴らして祭りの始まりを告げる。吹奏楽の生演奏を聴くのは何年ぶりだろう、と思い返すと、手前が以前仕事で担当した生徒が吹奏楽部員で、彼女がステージに立った定期演奏会ぶりだ。5年は経つだろうか。人が直接息を吹き込んで音を鳴らす管楽器の熱量と迫力にこちらも次第にボルテージが上がる。楽曲は同映画のストーリー展開と共に展開してゆき、照明の演出も演奏にドラマ性をもたらしていた。SF映画の為の楽曲だけあって、演奏開始から直ぐに非日常へと連れて行ってもらえた。この吹奏楽班はウィーン楽友協会、台湾国際音楽祭、シンガポールからの招聘等の実績があり、そうした楽団の演奏を聴けたのは僥倖であった。
 
開会式典
長友調布市長、荻本理事長、鈴木雅明音楽監督のそれぞれのスピーチののち、鈴木優人氏の音頭で鏡開き。
一連のセレモニーを見守りながら感じたのは、「自分の地元にも、こんな音楽祭があったらどれだけ地域が元気になるだろう」ということ。ぜひいつか地元でもこれに近いイベントがあったらいいな、と夢を見てしまった。
 
そしていよいよ角野氏の登場。優人氏からの紹介を受けステージに上がるや、優人氏をハグ。拳や肘のタッチではなくハグをしていたことに、角野氏のこのコンサートへの想いのようなものを垣間見る。ピアノの前に座り、燃え上がるようなカプースチンを披露。照明の赤ともあいまって、剥き出しの衝動のような、野性のエネルギーに圧倒され息を忘れる。日比谷音楽祭の演奏の時もそうだったが、まるで角野氏のオリジナルと錯覚(錯聴?)するほど氏によく似合ったレパートリーだと思った。(厳選クラシックちゃんねるのnaco氏も、「角野さんが弾くならカプースチンかな、と思いました(ニュアンス)」と、角野氏との対談の際に仰っていたのに合点がいく。
 
ソロ演奏の後は優人氏、森下氏、角野氏の御三方でのトーク、というか、トリオ?笑
微笑ましいトークの詳細は他の方が詳述してくださったので、ここでは割愛する。
ピアノが2台のDU O仕様にセットされたら、「ゲゲゲの鬼太郎」のお化けの学校の始まり始まり。
鬼太郎の作者である故水木しげる氏が半世紀居を構えたのが、この調布市らしい。太平洋戦争からの復員後に描かれた漫画が妖怪シリーズだったのは、戦争で見送ってきた命たちと、何か関わりがあるのだろうか。失った片腕はもしかしたら、見送った戦友たちだったのだろうか。さて曲について。T Vアニメ主題歌で歌われていた「ゲ、ゲ、ゲゲゲのゲ」の部分のフレーズをメインのモチーフとして、変奏していくスタイル。ワルツやフーガも取り入れられながら、角野氏と森下氏のこの日限りの熱いセッションとなった。特に角野氏の醸す妖しさに、ホールの温度が下がった気がした。夏の暑い日の怪談の感覚で聴き入り堪能した。いつか角野氏の、死の舞踏も生で聴きたい。
 
そして角野氏の活動を追うようになってから渇望していた(怖)、氏のラプソディー・イン・ブルーの生演奏。
明大吹奏楽班のクラリネットの唄から始まり舞台はニューヨークへ。角野氏はソリストとして楽団を引っ張りながらホール全体を支配する空気を纏っており、ピアノがソロを取るパートでは鍵盤が食い尽くされてしまうのではないかと思うほど激しい演奏もあった。かと思えばピアニカで始まったカデンツァではホルンの福川伸陽氏をピアノでグルーヴを作りながらセッションに迎え入れ、セッションを終えて氏を見送ると今度はパーカッションへと素早く移動(驚)。座って奏で始めたのはチェレスタ。宝石箱をひっくり返したような絢爛な、しかし優しく温かみのある音色に涙が滲む。ガーシュウィンのフレーズ特有のファンタジックな部分に一層のファンタジーを施し、素早くピアノに戻ると後はフィナーレまでのラストスパート。スパートがスピード違反だった説も浮上していたようだが(笑)、それもまたグルーヴでありライヴであり、生きた音楽に心身が全て満たされた。
 
アンコール
・英雄ポロネーズ
・I Got Rhythm
 
曲間の様子や、終演〜アンコールにおけるステージ上の様子はTwitterやnoteで既出だったので割愛した。しかし鈴木優人氏との数回繰り返されたハグや腕組みは、お二人の信頼関係を表していたので特筆しておく。

ラプソディー・イン・ブルーが作曲されたのは1924年。第一次大戦を経てアメリカが好景気を取り戻した時代。戦争はもう、S F映画の中だけでいい。



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