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魅惑のラフマニノフ!


それでも花は咲く。啓蟄もすぎ街路ではコブシやアカシアが春を讃歌する3月の良き日にカルッツかわさきにて開催されたコンサートに足を運んだ。

コンサートの概要は以下。

気鋭のマエストロと新時代のピアニストが描く魅惑のラフマニノフ! 

ピアノ 角野隼斗
指揮 水戸博之
オーケストラ 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

プログラム
グリンカ:歌劇『ルスランとリュドミラ』より「序曲」
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲Op.43 (パガ狂)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番Op.18 (ラフ2)

以上。

地元の駅から乗り換えなしの平塚行きの各駅停車にて往路では角野氏が音楽家としての人生を歩むきっかけとなった曲であるラフ2(PTNA2018 Grand Prize)を聴きながら、今回のコンサートでどんなラフマニノフを届けてくれるのかと胸を躍らせていたが、イヤホンから流れてくるラフマの旋律と、角野氏の音色の美しさに早くも涙してしまう。同時に改めてこの当時から氏が持ち合わせていた音の説得力に膝を打つ。

プログラムの予習がほとんど出来ないまま(氏が今月10日に実施した東京タワーでのYouTubeライブばかり聴いてしまったいたため…)着席し開演を待つ。今回の席は2階中央後方。視界からは指揮台までは見えたが、それ以上手前の部分(コンチェルト演奏時にピアノが設置される部分)が見えなかったので視覚を諦め音に集中することに決める。

グリンカ:歌劇『ルスランとリュドミラ』より「序曲」
この歌劇のストーリーは悪魔に誘拐された姫リュミドラを騎士ルスランが救出するという物語らしいが、寒く長く、暗い冬を乗り越えて春を迎えたあらゆる生命たちが新たな季節の恵みに歓喜しているようにも聴こえて、後に続くコンチェルトへの期待感を高めてくれた。オケの迫力ある生音から沢山パワーをいただく。

序曲の演奏が終わると一部の楽団員が一旦はけて、コンサートスタッフによりピアノがステージの中央へ。着席時には諦めていたピアノが意外としっかりと視界に入る。

再度のオケのスタンバイが済むとソリストの角野氏の登場。
ピアノ椅子の前にて深々と丁寧に一礼。いつもこの仕草に氏の人柄を認めるが、今日は特に胸に訴えるものがあった。(世界で起きている戦争や日本で起きている災害等々を考えると、改めて音楽の発信とその共有が当たり前だったことは一度もなかったのだな、と。)

ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲Op.43
先月大阪で開催された哀愁のラフマニノフにもプログラムされ、さらに遡ると昨夏に氏が出演した情熱大陸の予告編でもトイピアノで主題を演奏する姿がフィーチャーされていたので、トイピアノ演奏時から「いずれお披露目があるのかな」と予想していた一曲。
きっぱりとキレと説得力を持ってピアノの最初の和音が鳴らされたらあとはただ曲の終わりまで身を委ねるだけだが、終始感嘆せられたのはよりクリアに輪郭が立ち上がるようになってきたそのピアノの音色たちだ。ピアニストの音色辞書を振り返りながら、ここはFLY属、ここはWEIGHT属と個人的な答え合わせをしながら楽しんでいたがやはり第18変奏のHEAVENの音には息を奪われた。神が天使たちにあらゆる音を預けて、その音の受取人として角野氏を選んだのだな、そして氏の肢体を借りてこの地上の世界に澄み切った音色を届けてくれているのだな、とすら思えたほどだ。氏があらかじめ北海道にて札響と共演した際に指摘していた、「パガニーニの主題の反転」にも着目しながら聴きたいところだったが、ホール全体から降り注いでくる絢爛たる音の粒に全身が麻酔にかかったようだった。19変奏以降終わりまでただ音に没入した。

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番Op.18
角野氏自身の大学院卒業後の進路を決定付けた大切な一曲なので、この日一番楽しみでもあった。
予備知識はほぼ無し。個人的に昔からリヒテルの録音を気に入って聴いていた曲。会場で受け取ったパンフレットには、協奏曲第1番の不発で創作活動が3年間停止し、開業医ダーリによる催眠療法の後にこの曲が生まれたことが記されている。苦難の末にラフマニノフがリリースした一曲だ。
角野氏がピアノで鳴らす荘厳な鐘の音から曲は始まり、完全にオケと一体になりながら凛と、そして時々こちらをゾクっとさせるような音で一気に第一楽章を描き切り、第二楽章では氏の弱音と残響の美しさがホールの天井から光を放ちながら舞い降りる。世界と、人々の魂を慰めているかのような音で満たされた後の活発な第三楽章。個人的にこの曲の中で一番気に入っているこの楽章の第二主題を、全身を鼓膜にして一音も逃すまじと味わった。終盤の全パートの一瞬の休符が明けてからの勢いも神がかるものがあり圧倒されてしまった。

アンコール 
菅野よう子:花は咲く
角野氏のコンサートにはこれまで数回足を運んだが、たいていアンコール曲を弾く時には椅子に座ってすぐ弾き始めていたが、この曲は弾き始める前に少し間があったのでこちらもいつもとは違う空気を察知した。始まったのは東京タワーのYouTubeライブでも演奏した花は咲く。一音一音に愛と慈しみを込めて奏でられた音に自然と頬が濡れていた。後になってTLでこの曲の転調アレンジを解説されている方がいらしてまた思い出し泣き。

この日角野氏は終演後インスタストーリーやTwitterを更新。
1日にコンチェルト2本は疲れているだろうからさすがに配信は無いな、と思っていたところにラボ配信の通知。
興奮の冷めないうちにパガ狂の解説を40分に渡って届けてくれ、(自分が個人的に)色々と感情が忙しかった1日の締めくくりとしてピアノだけの第18変奏を最後にまた聴けて他にこんな幸せはないな、とつくづく感じた1日だった。

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