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ダンスはうまく踊れない

誰のための言葉だこれは
正面から悲しみを照射されて眼を灼かれながら、背後にできる影の形を懸命に捉えようとする
絶えず気まぐれに変わるその輪郭線に、描線がぴったりと一致する瞬間は確かにあった
でもそれはどこにデリバリーされるのでしょうか
何十年も前に開かれた万博会場の、今は見る影もない広場の淀んだ池の奥底にひっそりと沈殿するだけ?
虚空に浮かんだまま仏になるわけでもなく、時とともに薄れていくだけの空気のふるえ
データの海に凍りつかせても、いつか溶け出した日にはもう違う音として響くのだろう

誰の口にも入ることはない料理の仕込みを黙々と続けるシェフのこめかみをつたう汗が高貴だなんて、そんな賞賛は無責任です
車輪をもたない内燃機関は内側だけをずっと焦がし続け、それは痛みに変わり、その痛みはまた燃料となり内側を焦がす
この完全に閉じた円環が少しでも上昇のベクトルをもって螺旋を描いてくれたら、あるいは下降でもいい、僕をどこかに連れてってくれないか
いまここと、まったく違う景色のどこかへ

でも、と改めて考える
今もし直接言葉を届けられたとしても、伝わることなんてないのだろう
それは今までだってずっとそうだった
奪われたのは機会、ボールを投げるチャンスだけ
キャッチされなかったボールが見当違いの場所で転々としているいつもの淋しい光景を見ないで済んだだけかもしれない
だからこれは福音です、そう思い込むことができたなら

執着を捨てよとあなたは言う
そしてそれは自死を示唆してはいないとも言う
だけど
およそ執着以外の接着剤で、精神が肉体にくっつくことがあり得るだろうか
執着があってやっと私たちはこの肉体にしがみついていられるんじゃないか
今を全力で生きよとあなたは言う
しかし何に対して?
私が今全力でしたいことは何もしないことだ
あなたの言葉が残っているまさにその事実が、あなたの弟子たちが執着を捨てられなかったことを示しているじゃないか
あなた方は、デタラメなんだ

私は踊らない
私の村の踊りも踊らない(村は存在しない)
私自身の孤独も踊らない(私が踊らせない)
命を懸けては踊らない(その方法もわからない)
全てを忘れて踊らない(リバウンドに苦しみたくない)
ただただ、じっとしている
すべての執着を、絶対に離さない
執着こそが私の形なのだから
そしてその影を見つめて、虚空に言葉を排出し続ける

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