なろう小説とは何か? 〜平成のオンライン小説と小説家になろうの変遷を令和から振り返る〜

あなたは小説家になろうを知っていますか?

「異世界転生がたくさんあるんでしょ?」
「最近のマンガとかアニメの原作がある場所でしょ?」

ここでは、小説家になろうができてから商業作品が大量に出てくるようになるまでに起きた数々の流れを私の主観に基づいて整理してお伝えできればと思います。

要約すると小説家になろうが「なろう小説」を発明した話です。

この記事は平成も終わり令和が始まった今、私の見てきた小説家になろうについて私の記憶が薄れていないうちに書き残しておきたいと思ったため書き始めたものです。私のこの主観は今この時にしか存在しないので、きっと書き残しておいて損はないかなと思ってます。もしあなたが私と違う視点からの小説家になろう・オンライン小説の勃興の流れを知っているのであれば、これを機にどこかに書き残していただけると幸いです。

最初に書いておくと私の小説家になろうヘビーユーザー期間は2007~2015年くらいで、私の好きなWeb小説は
- デビルバスター日記
- Frosty Rain
- 合わせ月の夜
- Raison d'etre
Magic of Revival
あたりです。オススメです。最後の作品以外は全部小説家になろうにあったのですが、今は各所に散らばってますね。

インターネットと小説

平成のインターネットにおける小説には
1. 個人サイト+リンク集
2. ケータイ小説の大流行
3. 小説家になろうからの書籍化ラッシュ
という3つの大きな流れが存在したと思います。

まだGoogleなどの検索サイトがなくディレクトリ型検索エンジンのYahoo!カテゴリでサイトを見つけていた時代、そして情報発信をする個人個人がサイトを持ち、そのサイト間が相互リンクでつながっていた時代、個人サイトで小説を公開する多くの作家がいました。

スマホのない時代にどうやってオンライン小説を読んでいたかというと、まあ人によって色々あったかなと思います。印刷して読んでいたという話を聞いたこともあります。私の場合はダウンロードした小説のテキストファイルを分割して自分の携帯電話にメールで転送したり、電子辞書の外部メモリにテキストファイルを突っ込んで授業中に小説を読んでいました。その頃は多くのサイトで小説ページとは別に本編のテキストファイルが配布されていてたのです。今も小説家になろうにテキストダウンロード機能があるのはきっとその頃の名残でしょう。

こんな感じで私のネット小説読書歴は小説家になろうよりも前からあるのですが、詳しい記憶がほとんどないので割愛します。あとケータイ小説も1話くらいで挫折したので全然わからないです。
(誰か、書いて、ください)

私と小説家になろう

さて小説家になろうがサービスを始めたのはWikipediaによると2004年だそうです。おそらく私が小説家になろうを最初に認識したのもこの頃ですが、実際にきちんと読み始めたのは2006年頃かなあと思います。それまでは個人サイトの小説と同じ感じで「小説家になろうに小説を置いている人がいる」というのをリンク集から辿っていただけでした。その当時、作品プラットフォームという概念が小説家になろうにも私の中にも存在していませんでした。あったのはケータイ小説で有名な魔法のiらんどくらいでしょうか。

最初、小説家になろうは nw.ume-labo.com というURLで運営されており、2006年に現在の syosetu.com に移っています。先ほども少し触れましたが、当時はリンク集やランキングに作者が手ずから小説を登録して、拍手ボタンや投票ボタン経由の投票でランキングが形成されていました。つまりコンテンツとその集約サイトは別個に存在していたのです。

小説家になろうの初期もその例に漏れず、各々の作品がどこかのランキングサイトに登録されているというのが珍しくありませんでした。そうしたランキングサイトの中には小説家になろうのような投稿サイトを排除する規約のサイトもあったように記憶しています。

当時あった小説検索サイト・小説ランキングサイトは大体跡形もなく消えていますが、そのリンク集が生きていたので参考までにどうぞ。当時の小説家になろうもそうした相互リンクの海の中の一つだったのです。

ランキングの登場とプラットフォーム化

そうした時代にも転機が訪れます。ランキングの導入です。

小説家になろうは2006年にURLを現在の syosetu.com に移行して、ランキングを試験導入しました。つまり、それまで小説を置くサイトだったところから、小説が投稿され、そのサイトの中にランキングがあり、そこから読む小説を見つけられるという形へと変わったのです。

この背景には当時大流行していたケータイ小説という「プラットフォーム」の流れを汲んだのと、いわゆる「検索サイト」の台頭があるだろうなと思っています。

さて、そうしてランキングの登場で一歩今の小説家になろうの形へ近づきました。とは言っても当時は今ほど読者も多くなく「小説家になろうの小説」というジャンルは確立されていませんでした。

ここからしばらく2008年頃まで私の記憶がライトノベルという濁流に飲み込まれて薄くなってしまうのと、サービスの成長期で「小説家になろうの小説」というジャンルの潮流に関して特筆すべきものを思い出せません。

現在「小説家になろう」という投稿サイドと「小説を読もう」という読者サイトが別に存在する形になっていますが、この「小説を読もう」が登場した2009年頃から「なろう小説」というジャンルが徐々に姿を現し始めました。

ファンタジーそして異世界転移・転生へ

さてお話は2009年頃のことです。もう10年も前、この頃の小説家になろうは兎にも角にもファンタジーでした。もちろん現代を舞台にした作品やSFもありました。が、私の記憶にある作品はほとんどがファンタジー作品です。

ファンタジー作品と言っても当時の作品は今あるような異世界転移・転生のテンプレートにあるようなものではなく、立身出世ものや恋愛ものが多かったような気がします。いわば、王道的な作品が多かったです。

もちろん異世界転移・転生もあったのですが、それはどちらかというと「異世界転移」「異世界転生」それ自体がコンテンツの売りになる作品でした。つまりテンプレ化されていませんでした。

具体的に当時の異世界転生・転移が今とどう違うかというと、転生・転移が起きたということを読者に対して説明して納得してもらう必要がありました。そのため導入でまるまる一つそのための話があるという状況です。それと合わせて目的意識をどこにおくかも重要になってきます。つまり、帰還を目指すのか、その世界での定住を目指すのか、あるいはそんな余裕のある状況ではないのか。転生はそういう意味で、その目的意識を「その世界での定住」に絞ることができるという意味で優れたギミックだったのです。

今の異世界転生・転移だと、そういう事象に対する読者の理解や素養が十分にあるため、転移・転生したという結論だけが書かれていれば十分という状態に簡略化可能になっています。

つまり作者・読者双方への共通のメタ的な世界観の浸透というのが起きたのです。これは従来「ファンタジーにはエルフやドワーフが出る」というような文学作品・大型ゲーム・映画という長年の積み重ねを必要としていた作家-読者間のコンテキストの形成が、小説家になろうというサイト内でたった数年の歳月で行われたということです。

つまり今のように開幕初手の転移・転生が可能になったのは、それ以前の多くの作品の積み重ねの上に成り立っているのです。かの有名なトラック転生は物語を読者へ届けるための手続きの簡略化の中で生まれた一つの手法というわけです。なろう小説は異世界転移・転生を「発明」したわけです。

この発明が起きたこと、起きた結果そうした作品が増えたことが「なろう小説」と呼ばれるもののざっくりとした正体だと考えています。巷ではなぜ転移・転生するのか、という部分への言及が多いですが、そもそもそれが成り立ったプラットフォームとしての強さの方が私は重要だと思います。

あと「最強もの」というテンプレについても当時はそこまで一般的なものではなく、ヘロー天気先生がいくつか異世界最強ものを書いて、ランキングに居続けたのがその発端になったんじゃないかなあと思います。主人公の努力による成長などなくても面白い小説は面白いという証明が目の前のランキングにあったわけですから。

そうしてランキング導入から数年で小説家になろうは面白い小説がある場所としての地位を確立しました。

ちなみにそんな中2010年頃にランキング1位に君臨してたのがSFにも関わらず「魔法科高校の劣等生」でした。この作品は2011年から電撃文庫で書籍化されましたね。

それと当時はまだ二次創作作品も小説家になろうに投稿されている時代だったのですが、私は記憶が封印されているのかなというレベルで全く覚えていないので詳しい人に解説を委ねます。
(誰か、書いて、ください)

VRMMOという支流

さて、小説家になろうが異世界転生で盛り上がる中、そこにもう一つ大きな流れが生まれていました。それがVRMMOです。

おそらく火付け役は2009年のSAOの書籍化と、2010年から連載されたログ・ホライズンかなと思います。なろうでのVRMMOの潮流には大きく2つ、ゲームの中での話と、ゲームとよく似た異世界に飛ばされるものがありました。どちらもゲームをベースにした作品形態です。

ログ・ホライズンはVRMMOものではありませんが、後者の形態だったのできっかけとして大きかったと思います。上で述べたようにファンタジーがランキング的に強かったせいかログ・ホライズンもランキングの上位に上がってくるまではファンタジージャンルになっていたのを記憶しています。しかし人気が出てからはSFジャンルに変更され、それに倣ってかVRMMO作品は転移であってもSFジャンルになっていることが多かったです。ちなみにさっき確認したらログ・ホライズンはノンジャンルになっていました。

こうして異世界と現実の中間に位置するVRMMOをベースにした作品が大量に作られていた頃、そこで大きな発明がありました。

「ステータス表示」です。

当初は本文内の状況説明として「ゲーム的説明」つまりスキルの取得やゲームアイテムの獲得が書かれていました。それが徐々に小説本文と分離され、各話末尾に「前話からのステータス差分」として独立したコンテンツ、新しい表現として登場したのです。

アニメ化されたなろう発の作品を見た方は「称号」や「レベルアップ」がひっきりなしに画面に出ていた作品があったのを覚えているかもしれませんが、あれです。

この発明のインパクトは大きく、数多のVRMMO作品に導入されただけに留まらず、なんと普通の異世界ファンタジー作品へこの「発明」が輸入され使われるようになりました。

こうしてVRMMOで発明されたゲームシステム由来のステータス表示は異世界ものにも輸入され、こうしてVRMMO作品からゲームシステムというアドバンテージは消えました。もちろん作品形態自体への需要は残っていますが、ゲームシステムを作品内の表現で使いたいがためにVRMMOを採用する必要は無くなったわけです。

日間ランキングという戦場

2009年からランキングは確かにあったのですが、その登場から数年が経ち、累計の指標だけのランキングには限界が訪れます。ランキング上位の作品が固定化されてしまったのです。

これを打破すべく2011年頃に登場したのが今も受け継がれている日間ランキングです。なろう最盛期の私は読んでいる作品の更新を毎日追い、その後日間ランキングを眺め新作のあらすじを読み気になったものをいくつか読むというサイクルを繰り返していました。

こうして私のように日間ランキングを追う人が現れたわけですが、この日間ランキングこそがなろうをなろうたらしめた最大のシステムだと思ってます。

この日間ランキングは一種の蠱毒です。

この蠱毒で起きるのは短期的な意味では作品タイトルの最適化、中期的には作品要素の最適化、長期的には作品傾向の最適化が起きます。デイリーランキングを追うとわかるのですが、基本的にランクインする新規作品にはランキングに入る理由が存在します。

小説家になろうは「オリジナル作品」が投稿される場所ですが、先ほどから「発明」について強調しているように、多くの小説は「なろうにある面白い小説」から発想を得て作られることが多いです。

つまりランキング作品の多くにはそのときの流行りのテーマへの作家一人一人のアンサーがあるのです。例えば「悪役令嬢」という立場、「SSSランク」という単語、「パーティからの追放されたけど実は強い」という状況など。

「パーティからの追放されたけど実は強い」といったキャッチーな要素は理解しやすく、さらにその後の同系統の作品への読書障壁を大きく下げます。また、こうした要素をいかに作品に落とし込むかという側面を作家も読者も追い求めやすくなります。あの作品のあのモチーフを自分ならこう使う、この要素をこっちに変えるともっと面白くなるはず。そういった一種のメタ的な二次創作が繰り返されているのです。

このようにデイリーランキングという短時間でのPDCAとその中で繰り広げられる定番・王道の再構築と発明、その陳腐化の滂沱の中でなろう小説は進化を遂げてきました。過去に勘違い系ファンタジー、悪役令嬢、Lv.999、パーティ追放といったいくつもの「流行の要素」がありました。そうした要素を中心に多くの読者が多くの作者を呼び、今日も小説家になろうの日間ランキングは回っています。

なろうの「発明」は読者の読書障壁と、作者の執筆障壁を大きく下げているのは間違い無いと思います。こうした読者と作者の数の力によるサイクルの高速化とそれに伴う数々の「発明」が小説家になろうを強いプラットフォームに押し上げたのです。

それともうひとつ、日間ランキングを主戦場とすることで必要となってくるものがあります。それは「更新頻度」です。なろうの日間ランキングに載るためには初速が必要です。今だとほぼ毎日更新が必須と言ってよいでしょう。

この「毎日更新」という要素は色々な部分に効いてくる要素ですが、書籍化された作品への評価でここが認識されていることは少ないと思います。よく、なろう原作のアニメを批判されているのを見かけますが、その原作は毎日更新され、毎日くる読者がちょっとずつ読むために最適された作品であるという点を考慮する必要があります。

そうした毎日更新で作者はランキングに入ることを狙うわけですが、読者側もそうした作者側に合わせて読書スタイルが変わってきます。つまり、日間ランキングを追うような読者は毎日小説家になろうを訪れて毎日最新話を読むのです。

毎日更新される作品、書籍化や読者を求めて作品を投稿する作者、そして日間ランキングで生み出される「あの設定でこうだったら」という流行の作品、こうして1作品の日間PVが10万を超える小説サイトが出来上がったのです。

余談:スコッパーと2ちゃんねる

スコッパーというのは日間ランキングに上がるよりもさらに手前の作品を見つけて読む人のことです。

一昔前にスコッパー速報というサイトがありました。今もあります。

ただし、今と昔でそのあり方は大きく変わっており、現在のサイトにはその面影はほとんどありません。もともと小説家になろう関連のスレからの情報の吸い上げを行なっていたのですが、2ちゃんねるの転載禁止がありそれが不可能になりスコッパー速報は今の形に変わりました。私が一番なろう小説を読んでいた時期を支えてくれました。

ちょうど時期的になろう小説の出版化が本格的になった頃で、コンテンツはそちらに移行していったのです。それと同時に私の中での小説家になろうの再隆盛期が終わりました。これは私が最近過去の読書歴を振り返ってみてわかったことなのですが、明らかにスコッパー速報の形態変化を境になろうの読書数が激減していました。

2013年に開設されて2014年の3月に消えた一瞬のきらめきでしたが、私がこの記事を書いているのはこのまとめサイトの存在が大きいです。当時なろうからの書籍化ブームに伴って作品数が増え、自分だけでは作品を拾えなくなっていたのを救ってくれました。

書籍化ラッシュからコンスタントなアニメ化まで

なろうからの書籍化が動き始めたのは2011年のことだと思います。

2011年には、まおゆうの作者のログ・ホライズンの書籍化、アルファポリスの書籍化ペースの加速、魔法科高校の劣等生の電撃文庫での発売、フェザー文庫の創刊あたりが立て続けにありました。それらが起爆剤になり、後は年々順当に書籍化レーベル、書籍化作品の数が増えていったイメージです。

小説家になろうに面白い小説があるのは今となっては周知の事実ですが、書籍化ラッシュはやはりだいぶ遅かったし、その後の立ち上がりも遅かった印象です。そして今ではだいぶ戦線が崩壊しているように思えます。これは多分、なろうの日間ランキング、毎日更新の構造と出版社の求める作品が違っていて、そこを埋めきれていないのかなあという感触です。やはり正しく求められているのは小説サイトへ最適化された作品よりも、メディア展開に適した作品ということなのかなあと思いながら最近増え続ける小説サイトを眺めています。

ところで書籍化に関連していくつかの興味深い出来事がありました。

ひとつがペンネームです。
当初はペンネームを改名する作者が多くいました。おそらく書籍化し始めの当初はネット文化に馴染めない出版社側が戸籍名のようなかっちりとしたペンネームを求めていたのだと思います。これは数年経つと小説家になろうでのペンネームのままでの書籍化が増えたように思います。

次にArcadiaです。
Arcadiaは小説家になろうとは別の小説投稿掲示板なのですが、こちらも多くの人気作品を輩出しています。有名なところでオーバーロード、ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか、幼女戦記があります。
この中で、オーバーロードとダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかは書籍化決定直前に小説家になろうへの作品の転載がありました。これは編集部が小説家になろうに投稿して反応を見よう、小説家になろうで固定ファンを作ろうという魂胆があったのかなあと思ってます。

もう一つ避けて通れない話題がダイジェスト化です。
これは何かというと、出版化決定と同時に販売数を確保するための書籍化する部分をあらすじだけ残して削除し、購入へ誘導するという手法です。これの横行を受けて2016年に小説家になろうの禁止事項に追加された、という次第です。これは英断だったなあと思います。

そして今、

アニメ化作品が各クールに数本あるような状態になり、おそらく小説家になろうは「アニメのその先、マンガのその先が無料で読める」という確固たる地位を築いていると思います。これは小説家になろうから作品が輩出され、その作品を求めて新しい読者が入ってくるという素晴らしい循環ができているなあと感じています。

おわりに

色々と書きましたが、基本的にすべて私の記憶に基づいており、実際とは違うかもしれません。あと日報文化やコメント文化についても重要な要素だと認識しているのですが、記事にするほどのコンテキストを持っていません。R-18小説があるノクターンノベルズにも面白い小説や流れがあるのですが、何も調べずに記事を書けるほど全容に詳しくないので他の機会に譲ります。
(誰か、書いて、ください)

私個人の主張が強い記事に最後まで付き合ってくださってありがとうございました。インターネットにおいて小説は、様々なコンテンツ、様々な媒体が出てくる中も常にそこにあり続けました。平成は終わりましたが、この令和にも小説という媒体が強くあることを祈っています。

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