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#01-紡ぎ出すということ。はじまり。

台風の影響もすっかり明けて、その小さな島にその島らしい日常の色彩が戻った。と言っても初めてきた離島なので、それがその島らしいかどうかは定かではないけれども。少なくとも私にとっては「あぁ、日常が戻ったなぁ」という安心感をもたらしてくれる空気に満ちていた。真っ青な空、まぶしい太陽、きらきらと何色もの色をたたえた海、空に向かってぐんぐん伸びていくような勢いのある力強い緑色の植物たち。そして、おだやかな海の波のように、ゆっくりとのんびりと流れる時間。そんな日常の中を、音もなくきまぐれに遊びながら流れていく風。五感全部つかっても使いきれないような、もしくは自分の五感が長い年月をかけて鈍くなっていったからそう感じるのか、全然おいつけないくらいのいろんなパワーを発している、そんな中に、ぼーっと私はいた。そんなひとつひとつのキラキラしたものたちが、いちいち「あぁ、大好きだったあの人に会いたいなぁ」と、とても自然にそんな感情を沸かせてくる。いまはまだこころの痛みも傷もちっとも癒えてなくて、これ以上落ちるところがないくらい、とことん弱っているはずなのに、それはぜんぜんいやらしい感じではなく、本当にふわっと心地よく自然にそういう気持ちが湧いてくるのだ。ほんと、全部この島のせいだ、いや、おかげだ。その、ごく自然と湧いてくる気持ちは、ちゃんとしっかり自分の全部で抱きしめてあげよう、そう優しく思えた。大好きだったあの人との楽しかった、幸せだったその瞬間その瞬間の想い出たち。それらは、確かに過去に存在していて、いちいちきらきらしていて、確かに私の人生の宝物であり財産で、これからの人生の大切な糧なんだなぁ、と素直に思えた。それだけでも、「あぁ、ほんとこのタイミングでこの島にきてよかったなぁ」と、心底思うことができた。心底、この島にあるものたちに感謝ができた。そうやって湧いてくる想いの中にいる大好きだった人は、もうこの世にはいない。そのことだけが、本当に哀しく、現実として浮き彫りになったけれども。
 過去に執着せずに、でも過去で得た豊かなものはしっかりと抱きしめて、大切にして生きていきたい、そう思う。
 その素敵な小さな島にいる間も、弱ったこころは悲鳴を上げ続けて、動悸で眠れない夜が多かった。でも、焦らずに、「あぁ、いま私はとても辛いんだな、苦しいんだな。いまは、こころは、こうやって悲鳴をあげるのが、仕事なんだな」って、自分のこころの悲鳴にできるだけ寄り添うようにした。うんと泣き続ける赤ちゃんにそっと優しく寄り添うように。

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