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行動を変えるデザイン

私自身はプロダクト開発をしているわけではなく、社内のデータ活用・管理をより一層進めるための企画やガバナンスを推進している。全社で進めようとすると、これまでのやり方から変えていく必要があるものが頻出する。多くの人は変わることに抵抗があるため、なかなか受け入れてもらえない。また、変わろうという意識を持っていてもなかなか行動が変わらない人も多くいた。そこでヒントを得られないかと思い、本書を手に取ったので覚書として記載する。(英語版で読んだため訳が異なる部分があるかもしれません)


行動の仕組み

行動変容を設計する前にまずは我々がどのように意思決定し、行動するかを理解する必要がある。

意思決定と行動

脳の思考には2つのタイプ、熟考型反応型の思考が存在する。
私たちは日常的に行う行動の多くは反応型によって動かされている。つまり、過去の経験や習慣に基づいて、無意識のうちに決定がなされ、行動が取られることがよくあるということ。

これは必ずしも悪いことでなく、反応的思考は私たちが日常の多くのタスクを効率的に処理することを可能にする、脳の効率的なメカニズムである。

しかし、行動を変える製品を設計する場合、ユーザーが常に意識的かつ論理的に意思決定をしているわけではないことを理解することが重要である。

行動を起こすまでの6段階(CREATE)

熟考型にしろ反応型にしろ、ユーザーが行動を起こすまでには6段階のプロセス(CREATE)がある。

  1. キュー(Cue):行動を起こすきっかけとなるもの。

  2. リアクション(Reaction):キューに対する無意識的な反応。

  3. 評価(Evaluation):行動を起こすかどうかを意識的に評価する段階。コストとベネフィットを比較検討する。

  4. 能力(Ability):行動を起こすための能力があるかどうか。物理的な能力や、時間、知識、スキルなども含まれる。

  5. タイミング(Timing):行動を起こすのに適したタイミングかどうか。緊急性や、他の行動との兼ね合いなどを考慮する。

  6. 経験(Experience):過去の経験に基づいて、行動を起こすかどうかを判断する。成功体験や失敗体験などが影響する。

反応型の行動の場合
2.リアクションと3.評価は無意識に実行される。
また、4.能力についてはすでに身についており、5.タイミングは1.きっかけと密接に関係する状態になっている。

CREATEフレームワークでユーザーを理解する

行動を起こすには、ユーザーの置かれている状況全体を理解することが重要。ユーザーは、製品を使う時だけ行動について考えているのではなく、日常生活の中で様々な行動の選択肢を持っている。製品がユーザーの行動を変えるためには、他の選択肢よりも魅力的で、実行可能なものでなければならない。

ユーザーが行動を起こさない理由を分析し、その原因に対応することが必要。CREATEのフレームワークは、ユーザーが行動を起こさない原因を分析するための枠組みとしても役立つ。例えば、ユーザーが製品の存在に気づいていない場合はキューの改善が必要だし、行動のメリットを感じていない場合は評価の改善が必要となる。

行動を起こすための障壁を減らし、行動を促進する要素を増やすことが重要。ユーザーが行動を起こしやすくなるように、製品やその周辺環境をデザインすることが必要。例えば、行動を簡単にする、行動を楽しいものにする、行動を習慣化しやすいように設計するなどの方法が考えられる。

CREATEの各段階でユーザーは行動を拒否したり、他のことに気を取られたりする可能性がある。そのため、行動を起こさせるためには、各段階でユーザーがスムーズに次の段階に進めるように設計することが必要となる。

行動変容の設計

行動の仕組みが理解できたら、行動変容のための系統的な6段階のプロセス(DECIDE)で行動変容を設計する。

  1. 問題の定義(Define the problem): 対象となるユーザーと達成したい結果を明確にする。

  2. 状況の確認(Explore the context): ユーザーとその環境に関する定性データと定量データを収集し、ユーザーの行動をより深く理解し、ユーザーが行動を起こす可能性を高めるための解決策を特定する。

  3. 介入の作成(Craft the intervention): ユーザーの行動を変えるために使用できる具体的な介入策を設計する。

  4. 製品への実装(Implement within the product): 選択した介入策を製品またはサービスに実装します。

  5. 効果の検証(Determine the impact): 介入策が効果的であったかどうかを測定する。

  6. 次のステップの評価(Evaluate what to do next): 収集したデータに基づいて、次に何をすべきかを決定する。介入策が効果的であった場合は、それを継続するか、さらに改善する方法を検討が必要。効果的でない場合は、なぜ効果的でないかを理解し、別の方法を試すことが必要。

本質的に、行動変容を目的としたデザインは、ユーザーが自分たちの生活において望ましい選択や行動をできるように支援する反復的なプロセスである。このプロセスは、ユーザー中心設計を含む他の多くの分野でも共有されている。行動変容を目的としたデザインが、一般的な問題解決プロセスと異なる点は、使用される具体的なツール、たとえば、行動上の障害を特定するための特定のプロセス(行動マップ)にある。

問題の定義(Define the problem)

  • 明確な目標設定: 製品が達成すべき具体的な成果(目標成果)を明確にする。目標成果は、製品の成功を測る基準となるものであり、測定可能であることが必要。

  • ユーザーの特定: 製品の対象となるユーザーを明確にする。ユーザーの年齢、性別、居住地、行動パターンなどの属性を理解することで、より効果的な介入策の設計が可能となる。

  • 目標行動の定義: ユーザーが目標成果を達成するために取るべき具体的な行動(目標行動)を明確にする。目標行動は、ユーザーにとって現実的かつ実行可能なものであることが必要。

  • 成功と失敗の定義: 目標行動に基づいて、製品の成功と失敗をどのように定義するかを明確にする。成功と失敗を明確にすることで、製品の効果を客観的に評価できるようになる。

状況の確認(Explore the context)

  • ユーザーについて知る: ユーザーの行動、置かれている状況、目標を達成するために必要なものなどを理解することが必要。ユーザーの行動を理解するために、定量的データと定性的データの両方を収集することが重要。

    • 定量的データは、ユーザーの行動を数値化し、客観的に把握するのに役立つ。

    • 定性的データは、ユーザーの行動の背後にある動機や感情を理解するのに役立つ。

  • 行動マッピング: ユーザーが目標行動を完了するために取る必要のある「ミクロ行動」を特定し、可視化する。行動マッピングでは、ユーザーが目標を達成するまでに取る必要のあるすべてのステップを洗い出し、それぞれのステップでユーザーがどのような行動をとるかを詳細に記述する。

    • 現実の世界での行動を書き出す: 製品の中だけでなく、ユーザーが行動を完了するために現実の世界で取る必要のある手順を書き出す。

    • 各ステップにラベルを付ける: 各ステップを、ユーザーが製品内で行う必要があるもの、製品がユーザーに反応して行う必要があるもの、行動マップ上で「現実の世界」(製品外)で達成する必要があるもののいずれかに分類する。

    • 不足しているステップを探す: 特に新規ユーザーの場合、不足しているステップがないか確認する。

    • 1回限りのステップを探す: 経験豊富なユーザーの場合、スキップできるステップがないか確認する。

  • CREATE を用いた問題の診断: 行動マッピングで明確になったユーザーの行動と、CREATEフレームワークを組み合わせて、ユーザーの行動を阻害している要因を特定する。

介入の作成(Craft the intervention)

CREATEの各段階ごとに取りうる介入策が異なる。

キュー(Cue)
ユーザーに特定の行動を意識させるための「きっかけ」を設計する。

  • 明確な手がかりを作成する

  • 既存のものを手がかりとして再定義する

  • リマインダーを使用する

  • 手がかりの力を強める

  • 行動を起こす場所を明確にする

  • 注意が集中している場所に行く

  • ユーザーの時間に合わせる

リアクション(Reaction)
手がかりに対するユーザーの「反応」、特に自動的な反応や感情に働きかける。

  • ポジティブな感情を引き出す

  • 過去を語る

  • ポジティブなものと関連付ける

  • 社会的動機付けを高める

  • 社会的証明を活用する

  • 仲間との比較を用いる

  • 信頼を高める

  • 権威を示す

  • 本物で個人的であること

評価(Evaluation)
ユーザーが意識的に行動の価値を評価する段階に働きかける。

  • インセンティブの設計

  • 既存のモチベーションの活用

  • 損失回避の活用

  • コミットメントの活用

  • 競争の活用

  • 意思決定プロセスのサポート

  • 経済学の基礎

能力(Ability)
ユーザーが無理なく行動を起こせるよう、障壁を取り除く。

  •  摩擦を取り除く

  • チャネル要素を取り除く

  • 実装意図を引き出す

  • 実行可能性(自己効力感)を高める

  • (ポジティブな)仲間との比較を活用する

  • ユーザーが成功すると認識できるようにする

  • 物理的な障壁を取り除く

  • 物理的な障壁を探す

タイミング(Timing)
ユーザーが行動を起こしやすいタイミングを見計らう。

  • 緊急性を高める

  • 時間的近視を避ける

  • 過去の行動へのコミットメントを思い出させる

  • 友人へのコミットメント

  • 報酬を希少にする

経験(Experience)
過去の経験が行動に影響を与える可能性を考慮する。

  • 過去から解放される

  • フレッシュスタートを活用する

  • ストーリー編集を活用する

  • スローダウンテクニックを使用する

  • 過去を避ける

  • 意図的に見慣れないものにする

  • 変化する経験に対応する

  • ユーザーに確認する

製品への実装(Implement within the product)

  • 倫理審査の実施: 製品やサービスを実装する前に、倫理的な観点から問題がないか、ユーザーのプライバシーを侵害していないかなどを慎重に検討する必要がある。

  • 創造的なプロセスのための余地を残す: 行動科学に基づいた介入策は、あくまでも製品開発の機能的な仕様書の一部であり、実際の製品開発は、デザイナーやエンジニアなど、様々な専門家の協力が必要となる。

  • 開発の初日から行動指標を組み込む: 製品開発の初期段階から、ユーザーの行動を計測するための指標を組み込む。これにより、製品の効果を測定し、改善を加えていくためのデータを取得する。

効果の検証(Determine the impact)

製品がユーザーの行動やアウトカムに実際に影響を与えているかを判断するには、厳密な測定が不可欠。

  • A/Bテストによる実験と分析: A/Bテストによる実験と分析が行動変容の効果検証と製品改善を繰り返し行うための、行動科学に基づいた製品開発における中核的な手法。

  • A/Bテストが実行できない場合の現実的な対応: 実務上、A/Bテストの実施が難しい場合、因果関係を推論するための代替的なアプローチを検討が必要

    • 事前–事後分析: 最も単純な方法として、介入前後のアウトカムを比較する方法がある。ただし、この方法では、介入以外の要因による影響を排除できないため、因果関係を明確に示すことは難しいという課題がある。

    • クロスセクション分析/パネルデータ分析: 特定の時点または期間におけるユーザーグループ間の差異を分析する方法。これらの分析では、ユーザーの属性や行動などの関連する要因を考慮することで、製品の効果をより正確に把握することが可能。

    • 独自のアクションとアウトカム: 製品の使用状況と、現実世界の行動や結果との関連性を分析する方法。この方法では、製品内で測定できない行動や結果を、外部データや観察を通して把握する。

次のステップの評価(Evaluate what to do next)

効果を最大化するために、製品や介入をどのように改善していくべきか、具体的な手順を踏まえながら検討する。

  • 情報収集: まずは現状を把握するために、製品の現状のインパクトに関する情報を集める。

  • 優先順位付け: 集めた情報を基に、製品の改善点の優先順位を決定する。

  • 効果測定: 優先順位の高い改善点から実装し、その効果を測定する。

まとめ

本書では、行動変容をデザインするための基本的なフレームワークとアプローチについて紹介されていました。行動科学の視点から、ユーザーがどのように意思決定し、行動に移すのかを理解することが、効果的なデザインを生み出す鍵となります。

製品のデザインという観点から書かれているが、社内で全社を対象とした企画やガバナンスを推進・展開するのにおいても学ぶべきポイントが多いと感じました。


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