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想定外の恋

 きっと彼が私の気持ちに気がつくことはなくて、この想いを伝える日も一生来ないかもしれなくて、それでいいと思いながらも悔しい気持ちが拭えない。たとえ想いが伝わったとしても私に彼は救えないしどうせいつか互いに破滅してしまう。だからこれ以上深く触れないようにと、そう決めたのは紛れもない私の選択なのに。

 ドキドキしながらメッセージを送ったこととか、リップを塗り直して前髪を整えて会いに行ったこととか、あの日からもう恋に落ちていたんだなと思い返しては頬が熱くなる。
 彼の言動に一喜一憂してはスマホを握り締めて布団に包まって、返事が来なくて泣いて、こんな面倒な感情を毎日毎日繰り返している。毎分毎秒彼を思っている。そんなこときっと彼は想像もしていないだろうな。

 私だって想定外の恋だった。どうしてか出会い続きできっとこの中に運命の人が!なんて思っていたのに、気がついたら全然違う彼に夢中になっていた。嫌われたくなくて、好いていてほしくて、何を言えば可愛いと思っていてもらえるのか分からなくて毎日泣いている。
 傷つけてしまうから触れないと決めたくせに結局振り切れなくて、いっそ彼が私のことを好きになってくれたらなんて都合のいいことばかりを考えている。でもきっと私によく似た彼のことだから、もし私のことを好きになったなら同じことを言うんだろうな。「傷つけてしまうから触れない」なんて。

 手を繋いで歩きたいし、ハグだってしたい。彼としたいことは沢山あるのに、キスも性行為もいらない。こんな私は可愛くないかな。私は彼の隣で穏やかに手を握って生きていけたらそれでいいのにな。

 そんなことを考えるけれど、多分この気持ちを明かす日なんてまだまだ先、遠い遠い未来のことかもしれない。いや、もしかするとそんな日は来ないかもしれない。
 それでも私は彼を愛おしく思って、一等慕っていて、誰よりも大切に感じている。今はそれだけでいいけれど、いつか、私も人間の欲深さに負けてしまわないか不安だ。

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