訪問看護ってね。

私は、7年くらいやっている。

その前は15年近く病院で働いていた。

病院のナースは部屋の担当があって数人から十数人を看護する。所属する科によって違うが、1日の流れがあり、それをこなす。

当たり前のことだが、医療スタッフも、患者も、掃除のおばちゃんも、相手は人間。本当にいろんなことが起こる。それに頑張って対応する。対応しきれない時はチームでなんとか頑張る。それも気持ちがいい。

ちょー頑張った後にはみんなで飲みに行ったりして1日の頑張りに祝杯をあげた日もたくさんあった。どんな仕事も同じだろう。

でもいつしか、仕事を終わらせることに必死になって、恥ずかしながらお客様である患者を置き去りにしていることがあったように思う。昔はあまり男性の看護師もいなかったためか?女の城であるナースステーションでの、どーでもいい人間関係も億劫になった。さらに人生の変化でストレスがかかり、私は体調を崩してしまったのだ。もう夜勤はしたくないなあ・・・と思ったが、夜勤手当がなければ給料は安い。今はわからないが昔の話。

さて、どうしようかと思った時、先輩から訪問看護にこないか?とお誘いいただいた。ホウモンカンゴ?知らない世界だ。非常勤なら一日1件でもいいと言う。1件いくらの歩合制。私は体調が悪い時に出会った自然療法を副業として始めようとしていたため、これはいいかもしれないと思ったのだ。さらに老人好き!ケアが好き!人見知りしない性格で人のお家に上がるのも苦ではない。最高じゃん!やった!やった!と訪問看護の世界へ足を踏み込んだ。

私は訪問看護のことをよく知らなかった。今でも「訪問看護師やってます」と人に言うと「コウモンカンゴ?」「ヘルパーさん?」「老人のとこに行くの?」と言われるが、私もそんな風だろうと思ってナメていたのだ(ヘルパーさんごめんなさい)ところが、それは間違っていた。

訪問看護の世界。

生まれて数ヶ月から死ぬまでの間の人間が対象。内科とか外科みたいに別れておらず、病気を問わず全領域の科が対象。病気を持ちつつ在宅で生活を続けるための支援をするため家に訪問し、介護・医療を提供する。訪問は特別な場合を除き看護師1人で。訪問して何かある時は、医師、ケアマネージャー、ほか専門スタッフ、生活保護や児童相談所などの役所の人とも連携をとる。在宅生活を支える家族にも対応する・・・などなど。

要は「お住いのまち全体であなたの療養生活をいろんな専門家で支えますよ〜!あなたのご家族も一緒にみちゃうもんね」と言った感じだ。

それを知った時、範囲の大きさに「あー。これまいったな」と一時的に自信をなくしたが、夜勤をしないで生きていくお金を得るには仕方ない!背に腹は変えられん!と腹をくくる前にはもう自転車に乗って患者さんのお宅に行っていた。

あれから7年。晴れでも雨でも台風でも雪でも自転車で訪問しながら、訪問看護の甘くて酸っぱい、時折ちょー苦い経験をしながら続けている。

訪問看護は訪問中“看護しかない”

そうは言っても、医師から指示があった医療処置や、シーツを変えることや、風呂の介助や爪切りのようなケアや、ひたすら話を聴くなど、看護ってものすごく範囲が広い。なんでもできちゃうのも看護だ。

患者と1対1で向き合うため病院よりも患者との関係は濃いものになる。

一度訪問すると次の訪問まで患者に会えないため “いま”を大切に看護ができる(入院したり亡くなったり、断られたりして次がない場合もある)。

この関係は、看護師である前に1人の人としての自分をみせられるような出来事がたくさん起きる。苦しいこともあるが、癒されることも起こる。不思議なことに、自分に本当にちょうどいい人間が患者として目の前に現れるからだ。

日焼けしたり、寒くて自転車のブレーキが踏めなかったりするけれど、訪問しながら町のパン屋を巡ったり、桜、銀杏並木を通ってみたり楽しいこともたくさんある。患者さんからよい本や、言葉、素敵な暮らしのセンスなどノープライスなものを教えてもらえたりする。フツーの家だから病院みたいに物がなくても、工夫次第でいかようにでもなる看護の芸術を見せられたりする。ステーションに帰れば仲間がいるから、1人で耐えられないようなことが起きても大丈夫。相談すればみんなで考えてくれる。みんな同じような経験をしているし、訪問看護師はなんだか応用力が高くて心がボリショイな人が多いのだ。

訪問看護師は看護師全体の2パーセントくらいなのだそうだ。

病院の看護師もいいけど訪問看護もいいと思う。

時折、病院看護師がうちの訪問看護ステーションに研修に来ると、現場に感激したり、病院勤務で疲れてしまった自分に気がつき涙することもある。命を救うというようなドラマチックさはないが、患者の病気は自分の一部として一緒に生活していく姿に、しみじみ人間を見る。そういう現場だ。

日々のいろんな出来事をあげていこうと思う。

読んでホッとしていただければ幸いだ。


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