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ようこそ映画音響の世界へ

新宿シネマカリテで、『ようこそ映画音響の世界へ』を観ました。ややネタバレしますので、嫌な方はここから先を読まないでくださいね。

……

以前に観た『すばらしき映画音楽たち』は、その名の通り “音楽” がテーマでしたが、このドキュメンタリーは “音” を、音楽、声(台詞)、効果音(音響効果)の3つに切り分けています。そして、映画の音がどのように組み立てられ、また上記の3要素がどのような役割を担っているかを、映画製作の現場を知らない人にもわかりやすく語っている作品です。私はかつて日本大学芸術学部の映画学科で撮影と録音を学んだわけですが、当時の私に観せてあげたいドキュメンタリーですね!

よく「音が映像を引き立てている」などと言われますが、この作品においては立場が逆で、普段は意識することのない “音” を映像の力を借りて説明しているのが興味深いところです。

さて、本作を観て改めて確信したのは、「音は映像とリンクしているだけではダメ」ということ。例えば、爆発するから爆発音を入れる、この場面で盛り上げたいから壮大な音楽を添える……これでは “ありきたり” で、表現としては弱いのです。

爆発して実際には轟音が響いているはずだが、主人公の意識は爆発そのものでなく爆風で吹き飛ばされた仲間の姿にあるのではないか? ならば無音にした方が、主人公の感情を表現できるのではないか?
盛り上げたいから音楽を添える? いや、それでは、ただうるさいだけにならないだろうか? “観客の感情が盛り上がるところ” に音楽を添えた方が、鳥肌が立つのではないだろうか?

……「音でいかに表現するか」を理解している映画監督は、案外少数派なのかも知れません。音は映像とリンクしているだけでは不十分で、“感情” と結びついてこそ “表現” となります。さらに、「主観の音」と「客観の音」の描き分けも感情移入には欠かせない要素と感じます。主観の音は、映画内の人物(主人公など)視点の音。客観の音は、映画内の “その他大勢” (リアル観客含む)視点の音ですね。両者が混在すると、“よくわからない音” になってしまうようです。

さいごに、印象に残った一言を紹介しましょう。

ベン・バート氏は、『スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』、『ウォーリー』などのサウンド・デザインを手掛けたアカデミー賞に輝く重鎮ですが、若くして手に入れてしまった名声の重圧に耐えきれずノイローゼとなり、ある日、ミキシング・コンソールの前で泣き伏せってしまったそうです。

そんな彼が、こう言っています。

「仕事の外に、片足を置いておこう」


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