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デザイナーを自称するということ

大学時代の講義で今でも覚えている話しがある。当時、唯一の現役プロダクトデザイナーの教授の「デザイナーになるには何が必要か?」という質問に対する回答。

「コンペに応募する?デザイン事務所でアルバイトやインターンで経験を積む?」いやいや、なによりもまず「デザイナー」と肩書きが入った名刺をつくる事が大切だという回答。結構無謀な話しだし、答えになってるのかな?と当時は感じた記憶がある。

今になって「デザインの仕事を依頼されて、初めてデザインと向き合うスタート地点にたつことになる。」ということだったのかとその意味を実感する。

旭川の家具メーカーでのインハウスデザイナー時代。大阪のデザイン事務所でのアシスタントデザイナー、中国のデザイン事務所でのシニアデザイナー。〇〇デザイナーと言うポジションで仕事するなかで、デザイナーとは何なのか?答えを探して来たが、当時はずっと見つからなかった。

デザイン事務所を立ち上げてから作った名刺の最初の肩書きは、何も書かずに「空欄」にした。大学時代の教授の話しとは真逆の行為だ。デザイナーと名のって活躍する友人や知人が周りに多くいて、その人達と比べるとデザインに対する実績や自信が無かった。ものづくりとデザインの現場で得た経験はあるが、デザインに向き合う覚悟が足りなかったのかもしれない。

シロロデザインスタジオを立ち上げて、2年目くらいだったろうか?とある日、旭川市が主催するデザインセミナーで家具デザイナーの小泉誠氏の講演会があった。

家具とは何か?の話し中で江戸時代まで遡って研究している話し、日本の家財道具の歴史はすごく興味深かった。(ヨーロッパとかアメリカ、中国の家具の話しではないところになんだか惹かれた。)

プロダクトだけではなく、空間やインテリアまでデザインしている小泉さんが「家具デザイナー」と名のっている。家具とデザインへの向き合い方には感銘を受けたし、クライアントとの丁寧な付き合い方は、私がデザイナーとして目指すところなのかもしれないと感じた。

そして、名刺を増刷する時に「家具デザイナー」と刻印した。その当時もまだまだ実績は無かったけど、「家具デザイナー」だと先に名のる事にした。

実績がある巨匠達も、駆け出しの初期の段階は自称デザイナーとして、キャリアがはじまっているのだろう。仕事を積み重ねるなかで結果を残し、自称がとれて、晴れて本物のデザイナーとなってきたのだろう。と推測する。

私にとって家具デザイナーとしての「実績」とは、自ら生み出した家具が多くの人に使って貰えて、暮らしの道具として生活を、時には便利に、時には愛着をもって、側で心を満たしてくれる家具を生み出して届けることである。

2019年に、岡山のAKASE株式会社が運営する家具ブランド、マスターウォールと一緒にプロジェクトを立ち上げ、ブループリントシリーズの家具をデザイン出来た事で、プロの家具デザイナーとしての実績と自信を、ようやく得る事ができた。

大学を卒業してしばらく無職だった状態から、大学の研究員を経て、教授、医学博士とステップアップしていった私の父親は「大器晩成」と言う言葉を好む。私もいづれこの言葉を好んで使うんだろうなと思う。自分はデザイナーだと、自身を認めてあげるようになるまで、ずいぶんと遠回りをして来た。

若者の自称デザイナーは決して恥ずかしい事では無い。根拠の無い自信は若い時にしか使えない特権だと思う。「言葉が先か行動が先か」アクションを起こす事の大切さ。

デザイナーになれるかどうかの保証はないが、まず、自称デザイナーと言う肩書きの名刺をつくる行為には、かなり深い意味がある。

大学時代の恩師、プロダクトデザイナー喜多俊之氏の言葉の真意。20年経ってようやくわかった様な気がする。

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