第17話 エピローグ
皇紀弐千六百八拾年 拾壱月 四日 水曜日
国会議事堂 衆議院本会議場
『余は、生まれながらにして将軍である。
来るみぎり、余にこの日が来る事は必然であり、神意が下ったからに他ならない。
思えば、神君家康公がこの江戸に幕府を開き、四百と十七年。我が徳川家が、恐れ多くも帝より政の全権を預かり、この神州が戦火にまみえることなく四百と五年である。我が帝国のみならず、遠く諸外国においても、国家の歴史がが戦火にまみえず、平和のうちに四百年、すなわち四世紀の長きに渡り平和のうちに続いた試しはない。このことを、帝国の軍権を預かる征夷大将軍として誇りに思う。
このことは、この大八州の国民の全てが一丸となって平和を祈念し、武人の者が万一の有事に備え、常に牙を研ぐ不断の努力を続けているからこそに他ならない。この戦姫、広く国民に尊敬と敬愛の念を贈ると共に、武人の者には今、百万の感謝の念を贈ろう。
世界に目を向けてみよう。現在、我が帝国は岐路に立たされている。二度の世界大戦を通じ、どちらも中立を保ち得た我が帝国だが、いま未曾有の国難に晒されているのだ。それは帝国が帝国の民たりうる根幹――文化に対する侵略である。
日々、諸外国の電波に晒され、ことに電脳網においては数秒の遅延も無く世界で起こった出来事が我が帝国の事情に反映する。今はそんな時代である。
ことに、電波、そして電脳網における我が国固有の文化に対する侵略・洗脳行為には目に余るものがある。我が帝国の民は平和を愛する民なれど、こうもあからさまな敵対行為においては、断固たる処置を望む者も多いのも事実である。
故に、余はここに宣言する。我が帝国が、永久に我が国民のものであるために戦うことを宣言する。扶桑二千と六百八十年の歴史が培った、美しくも麗しい我が帝国の文化と伝統を武器に、我が国固有の文化を取り戻すのだ!
余は誓う。我が帝国の御名を今再び世界に轟かせることを! 今再び輝けよ日本! 我々が世界に冠たる日本を作るのだ! 日本の文化を大いに高め、我が国発の文化革命の狼煙を全世界に突きつけようぞ!
全ては、我々大日本の栄えある未来のために!』
(拍手)
『――先ほど国会議事堂衆議院本会議場において執り行われました征夷大将軍就任式典より、第二十二代徳川将軍、徳川戦姫殿下の将軍宣下に対するお言葉をお伝えしました。――以上をもちまして、番組を終わります』
●エピローグ
皇紀弐千六百八拾年 拾壱月 五日 木曜日
国立大江戸特別芸能高等専門学校 メインストリート
銀杏の葉も随分と落ちた。琉璃夏と二人、メインストリートを校門へと歩いてゆく。
「元気を出さないか」
「うん」
琉璃夏と二人、銀杏並木を歩く。昨日までは隣に八千代がいた。そう思うと、なんだか切ない。
「はぁ、貴様好きだったのだな。――恋、か?」
「うん」
琉璃夏の息をのむ声が聞こえた。
「そう正直に答えられてもな」
「うん」
琉璃夏のため息が聞こえる。
「元気出せ。私も無理という言葉は嫌いだが、いくらなんでも限度がある。相手は公方様だぞ。今回の事こそ無理だったのだ。わかるだろう? ――食事にでも行くか? 例のゲームの完成祝いだ」
「うん」
「そうか!」
琉璃夏の勤めて明るい声が聞こえた。気を使ってくれているらしい。――つまりは、それほどまでに重症だと言うことだ。
未だ『大高専祭』の文字が躍る校門。片付けは後手に回っているようだ。
「カナタ――あれ」
琉璃夏の声がかすれていた。急に琉璃夏が立ち止まり、勢い余ったオレは琉璃夏の腰にダイブする。
しまった!? ――え? いつまで待っても、鉄拳が飛んでこない。見上げると、琉璃夏は校門の直ぐ脇を凝視していた。
――そこには――。
「やっと校門から出て来たな? よし捕まえたぞ。土岐カナタ君。――さぁ行こうか」
どこかで聞いたような声。どこかで聞いたような台詞。それもごく最近に――。
「なにをしている? 早く行くぞ、カナタ」
まただ。またも、あり得ない声が聞こえる。そして、ここに居るはずのない姿があった。
「君は――」
思わず聞いていた。目の前の、踝まではあろうかという黒髪の超ロングヘアの子に。
「この自分の姿を忘れたとは言わせぬ。なにせ、そなたとは千代の絆で結ばれているのだからな!」
『コイハル~恋は遥かに綺羅星のごとく~』 END
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