【ダンジョン潜り】 (20) ~帰還~
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エスの言葉と イェミオーリの詩とをもって
ティラの光と リナーリルの雨とを浴びて
狼の腕よ 竜の火をかかげよ
ヤデムの槍を差し上げよ
あなぐらに潜り 宝を漁れ
闇の中から ひと山ふた山
歌え我らのダンジョン潜り
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「讃えよロニ!」
六つのカップが天にかかげられ、六人はいっせいにビールに口をつけた。
テーブルに大きな肉の香草焼きが運ばれ、ガイオがナイフを入れると香ばしい湯気がたった。
「またしてもやられたね」
皆ひと通り食事を終え、ゆっくりと酒をやっているとジョセフィンがつぶやいた。
「黒いバラのやつ、何者だろう」
「まだわからんが、いずれにしてもこうして命はあり、戦利品を手にし、俺たちは酒を飲んでいる。いいのさ」
ガイオが口元を嬉しそうに緩ませながら答えた。
ティラの神殿の遺構と思われる "つたの牢獄" 。その地下5階で瀕死の魔物の額に刺された黒いバラ。
リドレイとテレトハはこの汚れた地に着いてまだ日が浅く知らなかったが、他の皆はこの黒いバラを見るのは初めてではないらしい。
ガイオとジョセフィンはここ数年よく組んでダンジョン潜りをしており、その間に三回は見たという。
一輪の黒いバラは茎元に銀の釘のようなものが嵌められていて、いつも瀕死の、あるいは息絶えた魔物に刺さっているという。強大な魔物が拷問に責められたかのように苦しみ、無惨な有様で捨て置かれているのが常だ。
「山猫だろうが...正体はまだわからない。干からびた魔物にしても、何か妖しいにおいはするな」
"山猫" というのはたった一人でダンジョン潜りを行う者を指し、非常に難しい荒業であるとガイオが説明してくれた。
言うまでもなく単独でのダンジョン潜りとなれば誰の助けも借りられず、探索、移動、戦闘、その他すべてを一人でこなさなければならない。
一人であれば戦利品を仲間と分ける必要がないが、この危険な冒険に挑んで生き残れる者はごく僅かだという。
ティラの大祭壇の周りには、あらゆる戦利品が無造作に転がっていた。武具や貴金属、術具や薬...。
私たちはそれらを皆で抱えてこうして持ち帰ったが、黒バラの主はそうしなかった。投げ出されるままにされた大量の戦利品はつまり、単独でのダンジョン探索ゆえ運搬できる量に限りがあったことを物語っているのだ。
特に価値のある宝物は、黒バラの山猫が厳選して持ち去ったのだろう。
「山猫は危険すぎるよ。俺は好かないが、それにしてもあれはまず美学だ。儲けようとして挑んだやつは大体しくじる」
ガイオはまるで自分に言い聞かせるようにしてつぶやくと、ぱっと顔を上げ、私を見て微笑を浮かべた。
「それにしても貴殿はよくやった。もっともこううまく運ぶときばかりじゃないが、まぁ無茶をしなければ平気だ」
私は初めての勝利の美酒に酔い、徒党の皆と夜通し宴に興じた。
そして死んだように眠った。
こうして神々の戦の爪痕残るこの地で、私のダンジョン潜りの日々が幕を開けたのだ。
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翌朝、私たちは戦利品を売った分け前を分配し、一旦徒党を解散した。
ジョセフィンとキザシはまた別のダンジョンに向かうのだと言って町を出た。
他の皆と私は "つたの牢獄" をさらに探索することに決めた。
「他ならぬティラの神殿だ」
リドレイはそう言った。
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ガイオ 戦士 ○
リドレイ プリースト ○
ぼるぞい 魔法戦士 ○
テレトハ メイジ ○
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~1章 完~
金くれ