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『STAR WARS: 遂げられた指令』 第1部 3章 〈インヴォーカー〉

三 〈インヴォーカー〉

 テジュンの思索を破るようにして年季の入ったスライドドアがきしみながら開き、つづいて聞き慣れたブーツの足音がキャビンに響いた。
「帰投しました、コマンダー!」分厚い革のジャケットに身を包んだダイアディーマはギーメイヴに向かって大げさに敬礼し、音を立ててブーツのかかとを合わせた。幾人かのクルーが挨拶を返した。テジュンと目が合うとダイアはにやりと笑いかけ、大きなバッグを床に放り投げて、彼の隣に腰掛けた。
 クルーが全員揃ったのを確認すると、ギーメイヴは小さな腕をせわしなく振りながら離陸の命令を出した。液体燃料を使用する旧型のエンジンが巨獣の咳のような耳障りな音を吐き、ずんぐりした船体を持ち上げる。シャトルは廃棄物の山の影を出て、ドリヴォーズ・デンを西側に残して上昇を続けた。市街地も山岳も砂漠地帯も雲も、すべてが少しずつ溶け合ってゆき、黄灰色と緑に彩られたキラゼリムの地表が眼下に遠ざかる。
 大気圏を出ると、まるで古代の史跡にしばしば見られる石造りの橋をいくつも繋げたかのような形の宇宙ステーションが、星々を散りばめた漆黒の中に浮かんでいた。ステーションに隣接する巨大なドックには大小の宇宙船が係留されており、一人乗りのスターボートや、翼を広げた海鳥のようにも見える旅客用の高速船、コンテナを連結した旧式の貨物船など多種多様だった。ドックの端の区画には特に大型の船が並んでおり、彼らが目指す旗艦〈インヴォーカー〉はその中にあった。

 〈インヴォーカー〉は先の尖った船首をもつ巨大なクルーザーで、高威力のターボレーザー砲で武装されていた。船首から、船尾の特徴的な三連スラスターに至るまでを細長い"背骨"が貫いており、各所から棘のように突き出たセンサー類と相まって、肉を半ば食いちぎられ骨格が露出した魚類を思わせる異様な雰囲気がある。中央部に、明らかに増設されたとわかる、シャープな船体には不釣り合いな円盤型のハンガーが備わっているだけでなく、船体のここかしこに改造や補修のあとが見てとれた。
 たとえ誰かがこのクルーザーの、戦いという唯一の目的のために研ぎ澄まされた攻撃的な姿にひととき目を奪われたとしても、その視線と興味はすぐに両脇を固める二隻の大型船に移っただろう。
 それらの船はクルーザーと同じほど巨大であるだけでなく、それ以上に特異だ。一方は球形のブリッジや船室を連結し無数の作業アームや掘削・破砕ユニットを各所から突き出させた珍しいメガ・エクスカベーター。そしてもう一方は船体のすべての部分が有機的な曲線で構成されるスターヨットだった。メガ・エクスカベーターはキラゼリム最大の採鉱企業の所有物であり、優雅なスターヨットは支配者であるボンガーザが多くの取り巻きを引き連れて外遊する際に用いる船であった。この極めて特徴的な二隻に挟まれているおかげで、〈インヴォーカー〉は獲物に跳びかかる寸前のアック・ドッグのようなその不気味な姿をかろうじてカモフラージュできていたのだ。

 ドックを離れ惑星地表へと向かう貨物船とすれ違いながら、テジュンたちを乗せたシャトルは〈インヴォーカー〉へ接近した。円盤型のハンガーへ入ると、シャトルの着床を待たず気の早い整備ドロイドが床を滑ってやってきて、せわしなく電子音を発しながら船の診断を始めた。
 クルーのうち、戦闘機や攻撃機を確保してすでに戻っている者たちは、整備や補修のために忙しく立ち働いていた。広いハンガー内には反乱軍で主力機として使われているXウィングやYウィングだけでなく、旧型のARC-170やV-19、また民間貨物船を改造した爆撃機など様々な機体の姿があった。

「あれは共和国時代のガンシップじゃないか?」シャトルを降りたテジュンが、ハンガーの隅を指さした。二つのウィングをもつその機体には部分的に赤いカラーリングが施されている。
「そう、LAATだ。片方の可動砲座が無くなってるしミサイル・ランチャーも壊れてるが、兵隊を運ぶには十分だから拾ってきた。」まるまると太った整備主任が答えた。
「実物を初めて見たよ。」
「エンジンは快調だ。こいつが使えるいい場面があれば、活躍するだろうさ。パイロットをやらせてやってもいいぞ?」
「遠慮しとくよ。」テジュンは肩をすくめた。「棺桶をうまく操縦する自信はないからな。」
 整備主任は鼻を鳴らして歩き出すと、列をなすスターファイターの方へ向かいクルーたちと合流した。

 今回の任務は成功だ。上昇飛行するシャトルのキャビンでデータパッドを操作しながら、TI-134はそう思った。より正確に言うならば、事前に設定されたタスクと調達すべき物品リストのうち75.7パーセントの項目を達成している。この結果は十分に「成功」と表現することが出来るだろう。
 TI-134が仕える反乱同盟軍のホーペル・ムソック提督は、キラゼリムの支配者であるボンガーザ・ザ・ハットとの会談を上首尾のうちに終え、今までと変わらぬ助力の約束を取り付けて、こうして惑星をあとにしている。

 ボンガーザは今のところ信頼できる人物だ。彼は自ら数百年をかけて開拓したキラゼリムの発展を第一に考えている。その上で帝国とは──以前の共和国とキラゼリムがそうであったように──平和的な関係を維持しているが、同時に帝国の力による支配がこのまま伸張しすぎれば、いずれキラゼリムはおろかハットの版図全体にまで到底許容できない害が及ぶこともよく理解していた。反乱軍をかくまい、彼らの物資調達の後押しをすることは間違いなく帝国に対する裏切りではあったが、ボンガーザに言わせれば銀河共和国の体制をねじ曲げた皇帝パルパティーンと元老院こそがそもそも彼を裏切っているのだった。ボンガーザは銀河の歪んだ状況を再調整するため、自身の利益と種族の安寧のために、命をかけた賭けに出ているのだ。ボンガーザは今のところ約束を守り、反乱軍に忠実だ。

 忠実。それは多くの知覚種族にとって得難い性質であることを、TI-134は長い経験の中で学んでいた。知覚種族たちは噓をつき、情報を隠し、裏切り、恨みを宿し、報復する。永遠の忠誠を誓ったその舌が主人を破滅に追いやる偽りを吐き、固く握りあったその手が友を奈落に投げ落とす。
 だがTI-134はそうではない。彼は主人からどのような扱いを受けていようとも、その命令に背くことは決してない。常に真実を報告し、達成するまで粘り強く任務を遂行する。TI-134の以前の主人であったニモーディアンは、彼にガーサッキという愛称をつけた。この言葉はニモーディア語で忠実や誠実、命がけで巣を守るといった意味合いがある。この愛称は知覚種族の観点からすれば名誉なものかもしれないが、彼からすればひどく見当違いに思えた。前提として彼らドロイドが忠実さを欠くことはあり得ないからだ。命令に対する服従こそが彼らの存在のすべてであり、それはTI-134ほどに自立的で高度な思考回路を持つドロイドでも同じだった。
 TI-134の主人であったニモーディアンは知覚種族ならではの気まぐれさはあったものの、気づかいと親切心を大いにもった主人だった。彼は片腕として信頼され、重用されていたのだ。ニモーディアンは彼を、現在の主人であるホーペル・ムソックに託した。そしてこの現在の主人も十分に理想的な所有者と言えた。より正確に言えば87.5パーセント理想的だ。提督は、砂ぼこりの多いキラゼリムを出るにあたって当地でいちばん高級なオイル・バスに浸からせてくれた。これは特筆に値することだ。合金の肢体は艶々と光り、関節にきしみはない。肉の体をもつ種族であれば、この状態を「健康」「元気」などと表現したことだろう。

 大気圏を出たシャトルが母艦である〈インヴォーカー〉にまっすぐに向かっていく。コマンダー・ギーメイヴ率いる調達チームが全員クルーザーに帰還したという連絡もすでに受けている。ムソック提督を乗せたこのシャトルが戻り、次いでクルーザーは最重要の作戦に向けて出発する予定だ。すべては計画通り進んでいる。TI-134は深い満足を感じた。

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金くれ