【ダンジョン潜り】 (19) ~黒いバラ~
†
私とテレトハがイモムシの群れを叩き潰し前衛の三人がスケルトンを片付けると、我ら徒党は再び集合した。
キザシもリナーリルの解毒剤によって回復し、私たちは突然襲い掛かった危機と混乱を首尾よく乗り越えた。
仲間たちは私を見ると取り囲んでからかうように笑い、肩を叩いたり頭をなでてきた。
急に子供扱いでもされたようですこし仏頂面になったのは認めざるを得ない。しかし皆は、術を使い立派に務めを果たした私を充分に認めてくれたのだ。
まさしく、これが私の初めての魔物狩りであった。
束の間休んだ私たちは慎重に昇降台のある部屋に戻った。スケルトンの増援はまだ来ていない。
「不意打ちばかりさせるものか。今度はばっちりと態勢を整えて行かせてもらおう」
ガイオが鋭い目つきで西の大廊下をにらみながら、静かに言った。
さっそく私たちは態勢を整え始めた。
リドレイは感知の術に集中し、大廊下の奥に潜むと思われる邪悪な軍勢の動静を調べる。
テレトハは杖で陣を敷く。環境からマナを引き出す準備である。
キザシは得意とする手の技を用い、簡易な罠を仕掛ける。
ガイオ、ジョセフィンと私は皆が準備を整える中、周囲を警戒した。
「ゥオォォン......」
しばらくすると、不穏な唸りが大廊下の奥から響いた。
「来るぞ」
乾いた足音と武具の擦れる音が徐々に大きくなっていく。新たなスケルトン部隊だ。
リドレイが矢からの保護をティラに祈る。
テレトハは陣の上に構え、皆の武器をつぎつぎに術で強化する。
数体のスケルトンがぬっと部屋の中に姿を現した。そして同時にキザシの罠が動き、縄で足を取られた先頭のスケルトンたちはバタバタと倒れ、ある者は得物を取り落とした。
リドレイがフラッシュを唱え、皆に目をつむれと警告してから、術で作りだした光球を敵に向かって投げつけた。光球は破裂し、一気に廊下を真昼に変えた。
この度のスケルトンは十体以上の大部隊であり、弓をかついだ者も二体は見えた。
さっそく敵の矢が飛び来り、一発がジョセフィンをとらえた。しかし矢は加護によって砕け落ちた。
ガイオ、ジョセフィン、そして私はひるむことなく敵の中に突撃した。剣が、戦斧が骨を粉々にしてゆく。
軽い短剣では骸骨を砕くのに向かないため、私は敵が落とした長剣を担ぎ直し応戦をはじめた。
術の強化を受けた武器はやすやすと敵を破壊し、私たちはあっという間に大廊下を制圧した。骸骨は砕け散り、その武具は床に散乱した。
勢いに乗って私たちはさらに駆け、数体のスケルトンを砕いてなおも進んだ。
「ゥオォォン......」
奥から唸りが聞こえるたびに増援が現れる。司令塔になるやつが号令を出しているんだ、とガイオは答えた。
廊下を二つ越え、凝った彫刻の施されたアーチ状の大きな入り口をくぐると、ひときわ広く天井の高い部屋に出た。
「ゥオォォン......!」
唸り声は生々しい憎悪を伴って、今やこの部屋の奥からはっきりと聞こえてくる。
室内のスケルトンが一斉に私たちのところに殺到した。
テレトハが大きな風を起こして敵を撹乱し、私たちは手にした武器で骸骨を割って回る。
私もだいぶ慣れてスケルトンの単純な動きが読めるようになったので、さほど労せずにつぎつぎと敵を撃破した。
こうして、全てのスケルトンを私たちは砕いた。
我ら徒党は部屋の中央に集まり、今やマジックライトによって明るく照らされた室内を見渡したが、どうやらここは月神ティラの大祭壇の部屋であるようだ。
精緻な彫刻と絵画で彩られた壁を背に、巨大なティラの座像がそびえていた。しかしその薄汚れた像の左腕は落ち、顔は欠けていた。
「ゥオォォン......!」
ティラの座像の正面、光の大祭壇の上に、それはいた。
干からびたどす黒い皮膚に覆われた大柄の魔物だった。くたびれたローブをまとっていたが、その四肢は淡く光る杭によって祭壇に打ち付けられている。それは衰弱していた。
私たちは大祭壇に近寄り慎重に魔物を観察したが、よく見れば苦悶の表情を浮かべるその獣の額には、黒いバラが刺さっていた。
†
※※※※※※※※※※※※※※※※※
ガイオ 戦士 ○
ジョセフィン 戦士 ○
リドレイ プリースト ○
ぼるぞい 魔法戦士 ○
キザシ 盗賊 ○
テレトハ メイジ ○
※※※※※※※※※※※※※※※※※
金くれ