【ダンジョン潜り】 (3) ~グラーアムの声~
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翌朝。
気持ちのよい青空が広がっていた昨日とは打って変わり、雲が厚く窓から差し込む日も弱々しい。
簡易な朝食を済ませて宿屋を出、昨夜酒場で取り決めた待ち合わせ場所へ向かった。町を出てすぐの見晴らしの良い丘である。
旅外套で身を覆って冷たい風を避けながら、揺れる穂草を踏みしめ踏みしめ丘を登るとダンジョン潜りのうち三人が既に着いて座り込んでいた。
「よく眠れたかな」
頭領格の剣士、ガイオがゆったりと笑いかけた。
「ありがとう、たっぷりと休めたよ」
そう答えて皆を見まわすと、ぴかぴかの胸当てをケープの下に覗かせるガイオをはじめ三人ともがっちりと武装を着こんでいる。私はと言えば厚手の服に旅外套。愛用の短剣とグ・ロウルの呪文書を持ってきたとはいえやや心配になった。しかし私は後衛につくので当座のところ懸念は要らないとのことであったのでひとまず安心した。
「今日は肩慣らしさ。貴殿は兵士であったというから歩哨や偵察などあっただろう。今日はそんなところだからあまり気負わなくていい。そら、びりっけつが来たぞ。早速行こう」
ガイオの視線の先に目をやると、魔術師の女、テレトハが黒い木の杖をつきながら丘を登ってくるところだった。
皆が集合するとガイオが先頭に立って、雑談を交わしながら町の西へと歩きはじめた。
西に出ると街道は無い。開けた荒野はすぐに終わり山脈の麓の森林地帯に向けてだんだんと草や低木が生い茂ってきている。荒れた草地に踏み入ると、この呪われた地に対する先入観も多分に手伝って私はある種の妖気のようなものを感じた。
目的とするダンジョンへは思ったよりもすぐに到着した。
ゴツゴツした黒い岩壁にぽっかりと洞穴が開いており、ところどころに崩れた切り石のような部分がある。おそらく洞窟を利用した古い建造物の遺構であろう。
洞窟の奥から、我々を飲み込もうとするかのようにかび臭い微風と何らかの音があった。
「では行くとしよう」
ガイオの号令で五人のダンジョン潜りは隊列を組んで洞窟に潜入した。
ゴーン...ゴーン...
ダンジョンに入り数歩を行くと、突然私の頭の奥底から響くような音、くぐもった鐘のような音が、五臓六腑を揺らした。
つたの牢獄に入る。
つづいて、澄んだハープのような声、空気を震わせる人ならざる声が響いた。
「グラーアムの声だ」
私が戸惑っている様子を見てガイオが声をかけた。
「ダンジョンの神、グラーアムが我々を見た。帰りも鐘の音を聞きたいものだ。さあ進もう!」
金くれ