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【ダンジョン潜り】 (2-1) ~散策~

2章

エスのことばが大地を駆け
イェミオーリの歌は海をめぐる
マイーズルの銀がティラの光に照らされ
リナーリルの露がバンクの若葉を濡らすとき
平穏の音が朝を彩った

エンシの毒は煙を上げた
オベタルの金がイェンマの嵐に燃え
騒乱の叫びが夜を砕いた


 リインの町にたどり着いて初めてのダンジョン潜り、その一連の冒険を終え、私は休息をとっていた。
 我ら徒党は全員が無事に生還し、先行者のおこぼれにあずかる形ではあったが多くの戦利品を手にして戻った。
 私たちは皆合意の上で さらにかのダンジョンを探ることに決めたが、準備を整えるため数日を町で過ごすことにしたのだ。

 リインの町に至るまでの道程の、そしてダンジョン潜りという私が過去経験した人間の闘争とは別種の殺伐と恐怖からの疲れがどっと押し寄せ、私は宿屋で死んだように眠った。
 重いまぶたをどうにか開けた時、日はすでに天頂に差し掛かっていた。

 徒党の他の面々は皆自分の用事でそれぞれに行動しており、私も今日は体を休めつつのんびりと町の様子を見て回ることに決めた。軽い食事をとると私は早速出かけた。

 宿屋を出て露店の立ち並ぶ中央の広場をさっと散策してから、今度は城壁に沿って歩き出す。
 この比較的小さな都市に似つかわしくないほど頑強な城壁と物々しい見張り塔が意味するものを、私はすでに理解していた。これらは人間の暴力を超えた脅威に対する備えなのだ。
 四隅の塔の最上部に備え付けられた巨大な機械弓も、かつて空飛ぶ怪物を撃ち落とすために作られたのだろうと、今では合点がいく。

 街路をしばらく行くと職人街に出た。石工や鍛冶の工房が立ち並び、ガイオがよく利用すると言っていた魔法薬の店も見つけた。
 私はこの時、愛用する短剣のことを考えた。それはそろそろ研ぐ必要があったし、ダンジョン潜りの戦利品を売った金がある今がちょうどその時であろう。

 少し見回すと、活発な槌の音が響く青い屋根の工房が目に留まった。壁にはトカゲの巻き付いたヤデムの槍の絵が描かれている。
 開け放たれた入り口から中を覗くと、赤ら顔の老職人が歌いながら槌を打ち、小僧はその横で槍の穂を研いでいた。

 私は中に入った。


~つづく~

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金くれ