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【ダンジョン潜り】 (6) ~訓練~

~つづかれる~

 我ら徒党は町に戻ると門のところで一度解散した。

 件のドア開錠のための盗賊を探しに、ガイオとテレトハは町中心部の広場に向かった。人探しや情報交換など、夜は酒場で昼は広場でという習慣のようだ。
 他の二人も別々の用向きがあるらしくそれぞれ雑踏に消えた。

 私はというと、貴殿は昨日着いたばかりであるしダンジョン潜りも初めてでさぞ疲れているだろうから自由にしてゆっくり休むと良い、と勧められたのであった。
 とはいえ私は過酷な軍務経験もあり体力にも自信があるので、疲労もあるとはいえさっそく昼から横になる気もしない。

 さてどうしたものかと、当てもなくしばらく街路や市場をうろついてみたが、何とはなしに落ち着かないのでここはひとつ訓練でもするかと思い立った。

 市場で食料を少し買って、一人でまた町を出た。
 朝に集合した丘を越え、人気のない荒野に着いた。

 革カバンからグ・ロウルの呪文書を取り出す。
 ガイオは、私のことを術戦士だ、と言って喜んでいるようであった。今後ダンジョン潜りの足手まといにならぬよう少しは術の腕を磨いておく必要がある。
 そもそも兵士の時分に宮廷魔術師の友人に勧められてすこし呪文の練習をしたくらいで、それこそ何度か小さな火を出した程度であるので何とも心許ない。

 しかし考えてみると妙なものだ。徒党の皆は全くの素人の私が参加することを喜んでくれ、特に何か特別の技能を求めるわけでもない。
 ダンジョン潜りの際は、分け前に関する様々の揉め事を避けるために戦利品は人数で等分するのが鉄の掟であるという。私が参加することで彼らに何の得があるのか、私にはよく理解できなかったのである。

 ともかくも支援の一つでもできるようにと私は詠唱の訓練を始めた。
 グ・ロウルは火の神であり、呪文は簡便、気性は優しく誰にでも術の権能を分け与える。多くの魔術師が初歩の術として覚えるのがグ・ロウルの火術だ。

 穏やかに心を集中し、呪文をゆっくりと詠唱する。
 精神集中と詠唱がなめらかに溶け合うように、何度も何度も繰り返す。
 以前教わった感覚を思い出す。

 試行錯誤しつつ詠唱を続けると、ぱっと私の目が開かれた。詠唱が神霊の階層とつながる。
 ボン、と小さな火が起こり、頼りなく飛び去って、前方の大岩の表面をかすかに焼いた。
 ファイアボールの術だ。

 これを反復する。詠唱の度にファイアボールはもっと力強くなったり、また弱くなり、出なくなり、見当違いの方向に飛び、失敗と成功を繰り返す。

 小一時間ほども続けさすがに疲労と空腹を覚えたので、ちょうどよい塩梅の石に腰掛けて干し肉と果物を食べ、水を飲んだ。
 相変わらずの曇天で、空は眠たげな灰色だ。

 そのまま少し休んでいると、背後で物音がした。

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 ぼるぞい   魔法戦士   ○





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~つづく~

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金くれ