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『STAR WARS: 遂げられた指令』 第1部 1章 ドリヴォーズ・デン

※これは趣味で勝手に書いてる STAR WARS の二次創作小説です。公式とは一切関係ありません。

STAR WARS
遂げられた指令

遠い昔、はるか彼方の銀河系で…

 皇帝パルパティーンの命を受けた帝国軍は血眼になって銀河中を探し回り、反乱者を根絶やしにするべく力の限りを尽くしていた。だが帝国が弾圧を強めれば強めるほど、抵抗する者たちも増えつづけた。

 反乱同盟に加勢するそれらの者たちは、公正のために立ち上がった政治家であり、帝国を見限った兵士であり、故郷や愛する者を奪われた市民だった。

 星を打ち砕く力を持つ超兵器を再び建造し反乱に終止符を打たんとする帝国軍と、総力を結集し最後の戦いに赴く反乱軍艦隊との決定的な衝突が目前に迫っていたその時、今や遠く忘れ去られたはずの指令を胸に秘め、戦場に向かう者たちの姿があった……。

第一部 若き二人のエース

一 ドリヴォーズ・デン

 山脈の向こう側をようやく這い上ってきた太陽がドリヴォーズ・デンを照らした。鈍く輝く金属板と透明鋼トランスパリスチールに覆われた細長い中央管制塔が、朝日をうけて研ぎたてのナイフのようにきらきらと光っている。通信アンテナが立ち並ぶ頂上に向かい徐々に細くなっている洗練されたデザインの管制塔以外には、都市に高層建築物は無い。雨季に猛威をふるう暴風雨や、乾季のあいだ気まぐれに吹き荒れる砂嵐からの被害を最小限にとどめるため、人々は昔から高い建物をつくらないのだ。

 都市を一望できる小高い丘の上で、テジュンは草のまばらな斜面に腰を下ろしていた。一睡もできず朝を迎えた彼は、いまだ眠気のひとかけらも覚えぬまま、陽光を浴びるドリヴォーズ・デンを眺めていた。この数日で急に気温が上がり、空気はだんだんと湿気をふくんで、木々の青くさい匂いがことさらに主張を強めている。雨季が近いのだ。
 太陽がじりじりと盆地を熱するにつれて、濁った白色に渦巻く雲から水蒸気をもぎとってくるかのように、生あたたかい微風がテジュンの体をなめた。彼はゆっくりと立ち上がると、黒い難燃つなぎを半分脱いで腰回りにくくりつけた。腕を上げ下げし、胸を張り、細身だが筋肉質の体をほぐすと、油じみに染まった袖なしシャツの生地が波打った。
 くたびれた革のバッグを肩に担ぎ、彼は歩き出した。重たい作業ブーツが一歩ごとにえぐる泥土の分子ひとつひとつの間にも、ねばつく湿気が絡みついているように思える。

 テジュンはまだ雨季を見たことはなかったが、この都市に関して、必要と思えることは知っていた。ここは惑星キラゼリムの中でも小規模な都市だったし、政治や経済上の要所でもなかったが、特異な場所ではある。
 唯一の高層建築物である中央管制塔を中心に、発着場、オフィス街、広場と商店街、住宅街などの区画がひしめき合っている。市街地の周りを円形にぐるりと分厚い防砂林が囲み、防砂林を貫いて何本ものトラム路線が市街地と外側をつないでいた。トラムは貨物用と乗用とに分かれ、毎日多くの労働者と貨物を市街地から吐き出しては、同じように連れ戻ってくる。労働者たちと貨物の行き先はほとんどみな一緒だった。市街地の北側に位置する廃棄物の山だ。その山は、建造物、宇宙船、海洋船舶、地上車両、機械、その他あらゆる人工物を構成していた金属や鉱物や合成樹脂の巨大墓地だった。労働者たちはそれらの死骸に新たな命を吹き込むためにばらばらに解体し、溶かし、ひとまとめにし、整然と仕分けて送り出していた。これがこの都市に与えられた役割だった。
 積まれては切り崩され、生き物のように日々シルエットを変える廃棄物の山を抱え込み、黙々とむさぼるこの都市の姿は、キラゼリム固有の節足動物に似ていた。少なくとも、何世代も前の者たちはそう感じた。太い六本足とハサミのような一対の腕を持ち、肉をしゃぶり尽くされた獲物の骨や外骨格がうずたかく積もった巣穴で暮らすドリヴォーにちなんで、都市はドリヴォーズ・デンと呼ばれるようになった。

 テジュンは解体場に向かって丘の上を歩きつづけた。廃棄物の山に近づくにつれて重機の大地を揺さぶるような駆動音や金属音が徐々に立体的になり、轟音の隙間を縫って作業員たちが叫ぶ声も響いてきた。ときおり貨物船やシャトルが倉庫区画に着陸したり、離陸したりするのが見える。
 丘のなだらかな斜面を滑るように駆け下り作業員宿舎の裏手にさしかかったとき、テジュンは空を見上げ、そして立ち止まった。着陸脚を展開しつつ下降する貨物船とすれ違うようにして、Xウィングの優美な機体が浮き上がったのが見えたのだ。四枚の翼を水平にたたんだまま徐々に速度を上げ、風に渦巻く雲に乗るように遠ざかる戦闘機を、テジュンの切れ長の両目が追う。
 準備は着々と整っていた。そして今日、召集命令が下った。ついに決戦のときが来たのだ。

 ようやく解体場にたどり着くと、テジュンはきょろきょろとあたりを見回して見知った顔を探した。廃棄物の山は今や眼前に切り立った崖のように高くそびえ、数人から二十人ほどのグループに分かれた作業員たちがそこから廃材を取り出していた。四つ足の動物に似ている古びたクレーン・ウォーカーが山の斜面から大破した宇宙船の残骸を持ち上げて取り除くと、山の頂上に懸けたワイヤーに吊られた命知らずの作業員が宇宙船につぶされていた廃棄物を検分し、地表に待機するグループに大声で指示を出している。地表では、山から引きずり下ろされた合金板からプラストイドを切り離す者や、ケーブル類を満載したリパルサー台車を押す者、工具箱の上に腰掛けながらつぶれたアストロメク・ドロイドの修理を試みる者などが思い思いに散らばって作業に没頭し、燃料を積んだ大型スピーダーが警告ホーンを鳴らしながらその間を縫うように走っていく。

 活気にあふれた労働者たちの間を歩いていると、赤いスピーダーの影から呼び止める声があった。「テジュン!」小走りで近づいてきたのはオレンジ色のフライトスーツに身を包んだサラスタンの女性だ。「やっと来たわね。置いていこうかと思ってたところよ。さあ、早くシャトルに。」
「タムカー。会えて良かった。夜中に町を出て、ずっと丘の上にいたんだ。」
「星空でも見てたのかしら? そんな柄じゃなさそうだけど。」タムカーが両手を大げさに振ってからかった。
「この戦いに負けたら引退して詩人にでもなるかな。」テジュンが肩をすくめると、タムカーは表情を硬くして──正確には、硬くしたように見えた。サラスタンの表情の変化はつかみづらい──声を絞り出すように唸った。「この戦いに次はない。勝つか、死ぬかよ。」
「もちろんわかってるさ。でも、そんなに気負ってたら勝てるものも勝てないぜ。」テジュンはつとめてさりげない声音をつくった。
 彼女との付き合いが長いわけではないが、タムカーがここまで真剣な様子を見せるのは初めてだ。余裕がないと言ってもいい。彼女は歴戦のパイロットで、数知れぬ戦いをくぐり抜けてきた。その彼女ですらこの度の招集には大きな不安と緊張を感じているらしい。
 もちろんテジュンも同じだ。重圧で、胃が重くなるような感覚が強くなっている。だから昨晩も宿所を早々に引き払ったし、本当に一人で眠れる場所を求めて人気のない丘に登った。そして眠れなかった。だが彼はその不安と恐れを表に出さないようにしていた。彼はそのように訓練されてきたし、消極的な感情が部隊内に伝播することのおそろしさを知ってもいたからだ。

「やっぱり総力戦に出るのかな。」テジュンはタムカーと連れ立ってシャトルへ向かいながら、ひとりごとのように尋ねた。
「おそらく間違いないわね。モスマ指導者とアクバー提督直々の緊急招集よ。それも最優先の。そうでなければもう少しここで機体を揃えたかったけど。」

 シャトルのキャビンにはすでにクルーが集結していた。作業服やフライトスーツに身を包んだ多彩な種族の男女が、武器を点検したり雑談を交わしたりしている。
 大柄なアクアリッシュが、調達した様々な型のブラスターをホロ・テーブルの上に並べている。コマンダー・ギーメイヴがそれらのブラスターを手に取っては秀でた鼻を押し付けんばかりにして匂いを嗅ぎ、ひとつひとつチェックして、在庫情報をデータパッドに入力していた。チャドラ=ファンであるギーメイヴは人間の基準からすれば子供に見えるほど小柄で、全身が茶色い体毛に覆われ、大きな耳と鼻、そして小さな黒い目をもっている。彼は有能なエンジニアであり、戦隊の重要人物だ。

 三本の脚で歩く管理ドロイドがキャビンに入室したテジュンとタムカーのもとに歩み寄り、二人をスキャンして乗船を確認した。ドロイドはホロ・テーブルの脇に駆け寄り、昆虫の複眼に似た光受容器フォトレセプターをギーメイヴに向けると、ナイフでフェロクリートを引っ搔くような耳障りな合成音声で報告した。
「失礼します、コマンダー。ダイアディーマ・ネルソン、およびムソック提督のチームが戻られれば我々は出発できます。」
「提督たちは別のシャトルで船に戻るようだ。ダイアが戻るまで待つとしよう。」
「了解しました、コマンダー。」
 ドロイドは引き下がると、頭部をせわしなく動かしてキャビンを埋めつくすクルーたちを見回しながら、歩き始めた。その堂々とした誇らしげな動きを見るに、クルーの管理を行う自分の仕事に満足を覚えているようだ。

 テジュンは最低限の身の回り品を詰め込んだバッグを床の隅に置き、ベンチに腰掛けていたが、コマンダー・ギーメイヴが小さな脚をせわしなく動かして自分のところに向かってくるのを見ると、立ち上がった。
「お疲れ、テジュン。ダイアがまだ戻らないみたいだが、彼女を見たかい?」
「いいえ、コマンダー。ただ、帰投の指示を受けた時には一緒にいましたから、それは承知しているはずです。もうすぐ戻ると思います。」
「そうか。ではもうしばらく待つとしよう。」

 ギーメイヴが去ると、テジュンはすこしの苛立ちを覚えた。ダイアは何をやっているのか。もちろん彼女がテジュンの監督下にあるわけではないが、反乱軍に一緒に参加した身としてはやや肩身の狭いものがあった。

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金くれ