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『STAR WARS: 遂げられた指令』 第1部 11章 〈ジャヴェリン〉

十一 〈ジャヴェリン〉

 モン・カラマリ・クルーザー〈ジャヴェリン〉のハンガーでは、兵士たちとドロイドたちが慌ただしく駆け回っていた。〈ジャヴェリン〉はコルラグ・サフィラスで最後の艤装を終え、装甲に覆われた堂々たる姿を初めて銀河に現した新造艦だったが、ハンガー内の様相はこの軍艦がこれから辿る波乱に満ちた道筋を暗示するかのようだった。懸架装置や機器類、コンテナが整然と列をなし、機能美をたたえた内装とは対照的に、ハンガーを占拠しているのはそれぞれでたらめな方向を向いて停まっている三機の船とそれに群がる人々だった。

 ぴかぴかに磨かれた真新しい床を木彫家が鑿でするように削りながら停まった貨物船の姿は、スクラップとして処分場に送られるのを待っているとしか思えなかった。ところどころ剥がれ落ち、焦げ溶けた外板、焼けた油のにおい、黒煙を吐き出すエンジン、どれをとってもすさまじい有様だったが、決定的なのは真っ二つに折れ曲がった船体だ。それはまるで、朽ち倒れた巨木の幹が、虫による食害と自らの重さに耐えかねてとうとう崩れたかのようだった。
 その船の死骸から、消火剤を噴射するドロイドを脇に追いやりながら二人の人間が降りてきた。豊かなひげをこすりながら大股で現れた船長と、後ろに従う若いパイロットのどちらも貨物船の惨状とは不釣り合いな笑顔を作っていた。それは命が助かったことへの心からの喜びというよりも、むしろ自分たちのタフな戦歴の上にまた一つ話のたねが増えたとでも言いたげな不遜な表情だった。彼らは兵士に迎えられ、先導されながらブリッジに向かっていった。

 〈ジャヴェリン〉のトラクター・ビームによってハンガーまで引き込まれた帝国軍のTIEファイターは、エンジンとスタビライザーを損傷し飛行不能に陥っていた。ブラスターを構えた二人の兵士が警戒する中、整備兵が固着したハッチを切断し、コクピットからパイロットを引きずり出した。帝国の黒いフライトスーツに身を包んだパイロットはぐったりとして動かない。ヘルメットを脱がせると、吐瀉物に汚れた若者の顔が現れた。兵士たちはパイロットにまだ脈があることを確認すると、顔を拭いてやり、彼の体を抱えながらハンガーを後にした。

 三機の中で唯一無傷のスターファイターは、帝国軍部隊でこのところ着々と配備が進んでいる新型のTIEインターセプターだった。五、六人の兵士たちがブラスターを手に取り囲む中、ハッチが開きパイロットが顔を覗かせた。兵士の一人が寄せてやった昇降用タラップを使ってハンガーに降り立つと、パイロットは落ち着いた動作でヘルメットを脱いだ。いかにも典型的な帝国軍人といった佇まいの女は、ここがスター・デストロイヤーのハンガーであるとでも言わんばかりの堂々とした態度で直立すると、浅黒い顔の中で双眸を射るように閃かせ、自分を取り巻く状況を眺め渡した。彼女は兵士たちに言われるまでもなく護身用のブラスター・ピストルをホルスターごと外すと、一切の躊躇なく床に放り落とした。そして、あろうことか征服者の敗者に対するような威丈高な口調で手近の下士官に呼びかけた。
「帝国宇宙軍のダイアディーマ・ネルソン中尉だ。貴殿らの指揮官に会わせてもらいたい。」

 ミン・テジュンは監房の中で目を覚ました。彼は監房の中にたった独りで、壁際に備え付けられた寝台に寝かせられていた。部屋は三、四十人を楽に収容できるほどの広さがあった。
 テジュンは混乱する頭を振って記憶を辿ってみた。
 俺はTIEファイターでコルラグ・サフィラスの空を飛び、怒りに駆られて僚機を撃ち落とし、帝国の反逆者として海に落ち、死んだ。そのはずだった。だがどうやらまだ生きている。どのようにしてか助け出され、監房に収容されたようだ。とすると、ここは旗艦である帝国軽クルーザーの中であるに違いない。テジュンたちが乗り込んでいたキャリアーにはこのような区画は無かったからだ。あるいは、自分はずっと長い間昏睡しており、ここはどこかの帝国基地か収容所なのかもしれない。

 テジュンがなんとかして身を起こそうとすると、その動きに反応したらしい小さなドロイドが低い電子音を発した。
 彼はこれから自らを待ち受ける運命について考えてみた。自分が目を覚ましたことを知った上官や、ISBのエージェントがやってきて、卑劣な反逆者として尋問を受けることになるだろうか。彼は、ISBの尋問において使用されると言われている恐ろしいドロイドの噂を思い出した。どれほどの苦痛が自分を待ち受けていることか。いっそあの美しい緑色の海に呑み込まれて、レッド・クラーケンの餌になった方がましだったかもしれない。

 監房のドアが開いた鋭い音を聞き、テジュンは跳ね起きた。正確には、そうしようと努力したものの全身の痛みに邪魔をされて、無様に寝台から転げ落ちたのだった。彼は床に這いつくばりながらもなんとか頭を持ち上げ、幾つかの足音がする方に目をやった。テジュンは自分の視界を当然占めているべきもの──ブラスター・ライフルを構えたストームトルーパーや、黒や白の軍服に身を包みその顔に侮蔑や憎しみの表情を浮かべた帝国将校の姿を探した。
 しかしテジュンの予想に反して、彼をじっと見下ろしていたのは、茶色のつるんとした頭から左右に突き出た大きな目をしきりに動かしているモン・カラマリと、たっぷりとひげを蓄えたにやけ顔・・・・の人間だった。さらにその二人の脇に控えブラスターを構えているのは、プラストイドのアーマーで全身を覆ったストームトルーパーではなく、ただ頭を覆うヘルメットを被った二人の軽装の兵士たちだった。

 若き帝国パイロットが自分たちの顔をかわるがわる眺めながら不思議そうな表情をしているのを見て、モン・カラマリが尋ねた。「ミン・テジュンだな?」
 テジュンは返事をしようとしたが、胃液で焼けた喉が痛みと共にうめき声を絞り出すばかりだった。彼は一度大きな咳払いをして、なんとか「そうだ。」と肯定した。
「私は反乱同盟軍のカザラン・バラカ艦長だ。」モン・カラマリが言った。
 ここに来てテジュンは、事の成り行きに思い至った。
「そうか、俺はあの海中から上がってきたクルーザーに拾われたんだな?」
「その通り。ここはクルーザー〈ジャヴェリン〉の監房区画だ。この船はずっと海の中に隠れていた。帝国軍の捜索がそのまま続いていれば我らの命運は尽きていただろう。しかしながら、突然帝国軍の同士討ちが始まったのだ。私が観察した限り、その奇妙な事件の中で最も重要な役割を果たしたのがまさに君だと思うのだが……。」
「それで、かわいそうなこの俺を海から引き上げたってわけだな?」
「君の戦闘機を、墜落寸前にトラクター・ビームで捕まえたのだ。」
「……よくわかった。で、俺はこれからどうなる? 家まで送ってもらえるのか?」
「君からは、」バラカ艦長が水かきのある手を上げると、宙に浮かぶ黒い球形のドロイドがテジュンに向かって近づいてきた。「よくよく詳しく話を聞かなければならん。」
 テジュンは、不気味な尋問ドロイドが自分に向けている注射器の先端を見てめまいをおぼえ、また気を失いそうになった。

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金くれ