【ダンジョン潜り】 (2) ~徒党編成~
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衛兵の番小屋を出て、町をしばらく散策するとあっという間に日が沈んでゆく。山脈から吹き降ろす風が冷たい。
取り急ぎ宿屋の場所だけを覚え、酒場に駆け込んだ。
あかあかと灯火のもれる酒場には「樫の盾」と木の看板がかかり、ドアをくぐるとすでに大勢の客で賑わいを見せていた。
衛兵によればダンジョン潜りをする連中はここで情報を交換し、仲間を探し、徒党を組んで出かけるのが常だという。
しかし到着したばかりであるから今日の所は様子を確認だけしてさっさと宿屋に籠ってしまおうと考えた。
この広い酒場、テーブルを見渡すと職人風の男たちや老婆たち、若者たちなど色々の客で賑わっていたが、ちらほらと武装した異様な風貌の者たちが見られた。ダンジョン潜りであろう。
「あんた見ない顔だ」
でっぷり太った酒場の親父が私に笑いかけたので頷き、ビールを一杯もらった。親父はさすがに人を見る目があるとみえて、すぐにダンジョン潜りかと聞いてきたので、ここまで至るいきさつを簡単に話した。
長旅の疲れもありとりあえず今夜は様子だけを見て早めに宿屋に入るつもりだと言うと、親父がちょっと待っていろと私を制して早足で隅のテーブルの方に消えた。
私はビールを一気に飲み干した。全身に心地よく疲労が行き巡る。
親父はあちらの方で何かしらを話してくると、すぐに戻ってきた。
と言うのも、ちょうどダンジョン潜りのために徒党を編成している者たちがいて、もう一人誰か欲しいということで探し回っているらしい。
私はやや躊躇したが、いずれこちらからでも仲間を探さねばならぬ、向こうから連れて行ってくれるならむしろ好都合ではないかと納得し、親父に従って隅のテーブルに向かった。
テーブルの周りには武装した数人のダンジョン潜りが集まっていた。彼らは仲間を探したいとき、町中でありながらもこうして鎧を着こんだりしているようだ。
薄汚れた旅外套の私が会釈しつつ近寄ると、頭領格とおぼしき頑丈な胸当ての男が礼儀正しく挨拶した。貴殿がよければ明日さっそくダンジョン潜りに入るので仲間に入ってほしいということであった。
しかし私はこの地も初めてであり魔物と戦った経験もないがと断ると、一向に構わないという。すでに慣れたものが四人集っているので見学のつもりでも良い、頭数が一人でも多くいてくれればありがたいという話でもあり、断る理由もないので連れて行ってもらうことにした。
次いで何か技能はあるかと問われたので、軍務経験のため一通りの武具が扱えるのと、懇意にしていた宮廷魔術師から火術の初歩を習っておりグ・ロウルの呪文書を持参していると伝えた。
「術戦士だな」
頭領はやや嬉しそうに頷き、快く迎えてくれた。
こうして図らずも呪いの地に着いたその当日、私はあれよあれよという間にダンジョン潜りの徒党に入ることになったのである。
徒党は私の他に四人である。
頭領たる重装の剣士の男。
戦斧を帯びた岩のような体格の女。
背の高い黒髪の神官戦士の男。
そして三角帽子の術士の女である。
それぞれに挨拶を済ませると疲労と眠気がどっと覆いかぶさってきたので、私は早々に切り上げて酒場を出、宿屋へ入った。
簡易な寝台に横になるやいなや私は深い眠りについた。
金くれ