【ダンジョン潜り】 (10) ~大部屋~
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キザシの長い指先が踊るように動き、手にした細い鉄鉤が古びた鍵穴を舐める。
カチリ。
昨夜ガイオが徒党に引き入れた手練れの盗賊はフードの下で、無精ひげに覆われた口元をほころばせ、合図した。ガイオが笑って頷き、前衛の三人がしっかりと武具を構えた。
鉄で補強された頑丈なドアがゆっくりと開かれ、暗闇と共に饐えた悪臭が漏れ出した。
盾と斧で壁を作り、私たちは目を凝らし耳を澄ます。音や気配はない。
リドレイの祈りの詠唱が朗々と響き、大部屋の全面がぼんやりと照らされてゆく。
大部屋はそのほとんどが切り石の壁で出来ており、うねる木の根が壁を縦横に這っていた。
歪な円形をしたその部屋はところどころどす黒い染みで汚れており、床には白骨化した二、三人の死骸が転がっている。戦場のように生々しいものではないが、時を経た残酷な意思と消えない穢れを感じさせるなんとも陰鬱な空間である。
ガイオとジョセフィンは武器をしっかりと握り、左右を確かめながら慎重に歩を進め、左右から室内の確認を始めた。我々が通ってきたドアの他に、部屋の壁にはぐるりと五つのドアが設置されており、どれもひどく頑丈そうだ。
彼らはドアの様子を確かめつつ罠をも警戒している。このような大部屋には罠仕掛けが設けられていることが多いという。
リドレイはというとその大きな体をややかがめ、頭を垂れて眉間にしわを寄せ何かに集中していた。
「西に...西に二体。動きはない...」
彼はつぶやきはじめた。ダンジョンにひそむ敵意を術によって感知しているのだ。
私は大した戦力になれそうもなかったがとにかく短剣を構え、テレトハと組んで辺りを警戒していた。
キザシはしばらく一人で壁の切り石の継ぎ目や床板に刻まれた何かの模様を確かめていたが、やがて辺りに転がっている人骨をまじまじと見ながら大げさな渋面を作り、声を上げた。
「ガイオ君、こいつぁ面倒だぜ。溶かされてる」
「スライムか?」
ガイオが応じ、キザシのもとに歩み寄る。
「いやイモムシだな。この骨の染みを見てみろよ」
「厄介だな。撤退路はつとめて確保しよう」
イモムシ。巨大なイモムシである。
ガイオの説明によればイモムシ一匹一匹は脅威にもならぬが、それらはおおかた集団で現れ、肉をも溶かす変な汁を出してくるものもいるという。
またある種の特別なイモムシは異常な速度で増え、ゆらぎの力をもった高位の魔物としての本領を発揮するようだ。
たかがイモムシと侮るなかれ。歴戦の彼らをもってしても注意を要する存在のようである。
「罠は無いよ!ドアは、全部鍵が掛かってる」
ジョセフィンが戦斧を持ち上げて合図し、私たちは部屋の中央に集合した。
「よおし、それじゃあ手始めに...どれから開けるかね?首領殿」
キザシが開錠用の鉄鉤を揺らす。
「そうだな。ではここは...!」
いきなりガイオは私の肩に手を置き、つづけた。
「初心者には幸運が微笑む」
なぜか私が進路を決めることになってしまったが、素人が悩んでわかるものでもないので直感で北側のドアを選んで指さした。
「幸運は北に!」
さっそくキザシが慣れた手つきで開錠を始める。
「陣を張る」
テレトハがそう言って杖の先で床に絵とも文字ともつかぬ模様を描きだした。彼女が描き終えたその模様を踏んでみると、ピリピリとした痺れのようなものが私の体を巡り、奥底から力が湧いてくる感覚があった。
「この上ならきっと撃てるよ」
テレトハは私を見てすこし笑った。
「ファイアボール、撃ちたいでしょ?」
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ガイオ 戦士 ○
ジョセフィン 戦士 ○
リドレイ プリースト ○
ぼるぞい 魔法戦士 ○
キザシ 盗賊 ○
テレトハ メイジ ○
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金くれ