連続短編小説「阿知波」
第一回 「序章」
私の名は阿知波。推定年齢49歳の独身だ。
あくまでこれも仮名。私の素の姿は秘密という事にしておいてくれ。
さて、私は今朝、冬の寒気から縮み上がった睾丸がグニュッと押し潰されたところで目が覚めた。素手で触れてみると、私の下着には白い粘液が付着していた。夢精だった。
私は自分の精液が付着した右手を洗おうと、一階の洗面器にまで一目散で階段を駆け下りた。ちなみに、私は未だに実家暮らしで、就労はしていない。家は一戸建てで、築40年といったところか。両親は家の一階で生活し、二階はすべて私のものだ。阿知波家の一人息子として、当然の権利であろう。
階段を下りてゆく途中で、私はふと踏板の上に置かれた古い少年雑誌に目を留めた。おそらく、これは私が中学生の頃に買ったものだろう。長年放置され続けていたため表紙は破れ、ページは捲れ上がっていた。これを読んでいたのは、多分、私が初めて性の快楽を知り始めた頃のことだ。これだけは今でもはっきりと憶えている。確か、その漫画の名は「エスパイ」、いや、あれは映画だったかもしれない。とにかく、その作品を読んでいた私は、ある女スパイが自分の乳房を見せるというシークエンスに、凄まじい衝撃を受けた。いや、本当に衝撃的だったのは、膨張する自分の股間部のことだったのかもしれないが。まぁしかし、とにかくその瞬間の全てに私は衝撃を受けたのだ。もはやあれは、神からの洗礼であったのかもしれない。
そうやって、そうこう考えているうちに、私は洗面所へと辿り着いた。しかし、そこには丹念に自分の歯を歯ブラシで磨く父の姿があった。父は私の手を見てこう言った。
「おめぇ、どうしちまったんだよ。今日はえらく早ぇもんだなぁ。」
「いや、なんでもない。たいしたことない。」
遅かったぁあああああ!!!!!!!
なんてことだ、
なぜ今コイツがここにいる!!
なぜ... なぜなんだ、
なぜ今日はこうもツイていないんだッ!!!
全てが憎い❕❕
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?